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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

196 勘違い と 懐かしの場所

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「それでカズさん、こういったことを聞いちゃまずいと思うんだけど」

「なんですか?」

「三人を王都から連れてくれた依頼料って、どの程度なのかしら?」

「どの程度も何も…」

「キウイが払ったのかしら?」

「いやそうじゃ…」

「子供達を助けてくださって、こんなことを言うは申し訳ないんだけど、カズさんの計らいで、少し待ってもらえないかしら? ワタシ達が支払いますから」

「ちょっと待ってください。三人を送り届けたのは依頼ではなく、俺がやりたくてやった事ですから。それにキウイは道案内として、頼んで来てもらったんですよ」

「そうだったんですか! ワタシてっきり、キウイが無理をして依頼料を払ったんだと。それに貴族様にお仕事をお休みしてまで、ナツメとグレープに付き添って来たのかと」

「キウイの仕事に関しても大丈夫です。新年は家族と過ごすようにと、お休みをもらって来ていますから。詳しくはキウイから聞くと良いです」

「あらそう! 仕事のことまで聞いてるのね」

「えぇまぁ(キウイの働いてる場所が場所だけに、俺が話すのはまずいだろう)」

「そこまで仲が良いなんて、キウイにも好い人が出来たようで良かったわ」(ボソッ)

「……ん? あのう、今なん…」

 クランベリが気になることを、言ったように聞こえたカズは、話を聞き返そうとしたとき、急に家の扉が勢いよく開いた。

「ただいまなの!」

「お父さんがお野菜もって、先に帰ってろって」

「にゃちきだけに持たせないで、二人も持つにゃ」

「ぼくお野菜とって疲れたんだもん」

「あたしも疲れたなの。それにお姉ちゃんの方が力持ちなの」

「はいはい。それじゃあ二人は、お母さんを手伝ってね。夕食の仕込みをするから」

「はーい」

「お手伝いするなの」

「二人とも元気じゃにゃいか!」

「ほらキウイはそれ(野菜)をキッチンに運んだら、カズさんと夕食まで散歩でもしておいで」

「にゃ~……分かったにゃ。ちょっと散歩してくるにゃ(まったく、ナツメとグレープは相変わらずだにゃ)」

「ナツメとグレープはワタシが見てるから、カズさんと二人でゆっくりしておいで」(小声)

「にゃ! な、何を言ってるにゃ。にゃちきとカズにゃんはそんにゃんじゃ……」(小声)

「見た目は冴えないし、どこにでも居そうな人族だけど、優しそうで良いじゃないか」(小声)

 キウイにだけ聞こえるように、小声で話すクランベリの言葉を聞いて、キウイは真っ赤になった。

「ほ、ほらカズにゃん! む、村を案内するから、とっとと行くにゃ!」

「え、あ、うん。分かった(クランベリさんが最後に変なこと言ってたと思うけど、聞き違いだよな。それとキウイは、何を慌ててるんだ?)」

 カズはキウイに引っ張られ、家を出て行った。
 キウイは振り返ることなく、一人早足に歩いて行き、カズは空気を読み暫く黙って付いて行く。
 村の外へと出て行くキウイに、気まずいと思っていカズだが、意を決して話しかけた。

「どこ行くさキウイ。村から出ちゃったよ」

「……」

「キウイ? キウイ!? おーいキウイ!」

「もう少しだから、黙って付いてくるにゃ!」

「は、はい……(怒ってる? もう少しって、どこに行くの?)」

 キウイは村に来るために越えてきた山に向かい、細い獣道をズンズン歩いて行く。
 ガサガサと長く伸びた雑草を掻き分けて、ひたすらキウイは坂を上って行く。

「ねぇキウイ、こんな人が通らない道を、どこまで行くのさ? (また無言か?)」

「もうすぐ抜けるはずにゃ」

「もうすぐ抜ける? (どこにだ?)」

 キウイの言ったように進んだ先には、山の木々が無く、遠くまで見渡せる場所があった。
 森の向こうに沈み始めた夕日を眺めながら、キウイはカズに話す。

「義母さんが変なことを言ったかも知れないけどにゃ、気にしないでほしいにゃ」

「変なことって?」

「……聞いてにゃいなら別にいいにゃ(カズにゃんは友達で、そういう関係じゃないにゃ)」

「キウイ……? (久しぶりに故郷で見る夕日が、目に染みてるのかな?)」

「ここは子供の頃に、よく一人で景色を眺めながら、のんびりしてた場所にゃ。今はこんなに、草が生えてしまってるがにゃ」

「キウイの秘密の場所なんだ」

「ここに連れてきたのは、カズにゃんが二人目にゃ」

「一人目はキウイの彼氏とか?」

「一人目はお母さんにゃ」

「クランベリさんじゃなくて、ブルベリさん?」

「そうだにゃ。にゃちきが初めて王都に行く前に、お母さんを連れてきたにゃ」

「そうなんだ」

「お母さんには、もう二年くらいは会ってないにゃ」

「それは寂しいでしょ」

「少し寂しいけどにゃ、今はお屋敷の皆が居るから、そんなに寂しくないにゃ。それに長く会ってなくても、たまにモルトさんと会ったときに、お母さんの近況を話してくれるにゃ」

「モルトさんが! (さすがだぁ。俺がこの世界に来てから知り合った人で、一番じゃないか)」

「この場所で久しぶりの夕日を見たし、お腹がすいたから、もう戻るとするにゃ」

「ああ(こんな雰囲気のキウイもあるんだな)」

 カズとキウイは暗くなってきた道を、村へと戻って行く。
 完全に日が暮れた頃に村に戻り、夕食の時間には少し遅れて家に着いた。

「ただいまにゃ」

「遅くなりました」

「夕食にはちょっと遅れちゃったかにゃ?」

「なぁに、少しくらい遅れても構わないよ」

「よぉー! 帰ってきたってなキウイ」

「どれ、どんなもんになったか、わしが揉んで確かめたろか」

「何言ってやがるんだ! このエロじじぃが! それをやるのはオレが先だぞ。がっはははッ!」

「にゃちき達が出掛けてる少しの間に、なんか近所の人が集まってるにゃ」

 家にはリブロコと仲の良い、近所に住んでいる人達が来ていた。
 男達は酒をのみ、女性は甘いものを食べながら話をし、子供達は家の中を駆け回りながら遊んでいた。
 騒ぎながら酒を飲んので居る男達を見て、さすがにクランベリが怒りだした。

「飲みすぎだよッ! あんた」

「良いじゃねぇか。ナツメとグレープも無事に帰って来たんだしよぉ。それにキウイも久々の里帰りで会えたんだ。良いことずくめじゃねぇか」

「今日はもう、そこに出してあるお酒で終わりだからね!」

「えぇー」

「えぇーじゃないの! 子供じゃないんだから」

「カズさん、こっちで一緒に飲もうや。キウイとの話を聞かせてくれよ」

「俺ですか?」

「駄目よ。カズさんが一緒に居れば、もっと飲めると思ったんでしょ」

「いッ! なんで分かった?」

「そりゃあ、あんたの妻ですから」

「義父さん達は、既に出来上がってるみたいにゃ」

「人も獣人も同じなんだな」

「そうにゃ。種族が違っても、皆一緒に食事をすれば仲良しにゃ」

「っと、獣人とは言わない方が」(小声)

「大丈夫にゃ。この村の皆は、そんなこと気にしないにゃ。この通り色んな種族の獣人がいるにゃ。村人の中には、獣の姿の方が楽だと言ってる人も居るからからにゃ」

「そうか。陽気な村の人達で良かったよ(あそこの二人は獣型か。王都では、人型ばかりしか見かけないから、獣型を見るのは、アイガーさん以来だ)」

「ほら、いつまでそこで立ってるのよ。さぁ二人もこっちに来て夕食にしましょう」

 家に入ってすぐに、酔っぱらいの話し相手をしていたカズとキウイを、クランベリが椅子に座り食事をするようにと言ってきた。
 酔っぱらいの男達は放っておき、女性達が集まっている所へと、男のカズが一人交ざり食事をすることになった。
 キウイと隣同士で椅子に座らされ、クランベリの作った料理を皆で食べる。
 珍しいわけではない、ありふれた素朴な家庭料理を、キウイは懐かしく思い喜んでいた食べていた。
 カズは少し気がかりなことがあった。
 女性達が、カズに何も聞いてこなかったからだ。
 カズは集まる女性達を見た時から、ある程度は予感していた……キウイとの関係がどうかと、話を振られるのではないかと。
 さすがに初見の人に対して、いきなりそういった話をしないだろうと、カズは安堵していたが、そうではなかった。
 ただ焦らずに、カズとキウイが食べ終わるのを待っていただけだった……獲物を狙うハンターのように。
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