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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

191 年末年始の過ごし方

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 ナツメとグレープがモルトに別れの挨拶を済ませたあと、カズ達四人はフローラの居るギルドマスターの部屋に行った。

「失礼します。フローラさん、今お時間よろしいですか?」

「ええ、大丈夫よ」

「そろそろ出発しようと思うので、お別れを言いに、ナツメとグレープを連れてきました。さあ二人とも、フローラさんにお礼とお別れを言いな」

「今までありがとうフローラ。ぼくも大きくなったら、王都の冒険者になる」

「あらそう。ナツメは目標ができたみたいね」

「あたしもおっきくなったら、トレニアとここでお仕事するなの。だから今はさようならだけど、また戻ってくるなの」

「ふふふッ。私も二人が来るのを、楽しみに待ってるわ。キウイさんもお仕事休ませて、ごめんなさいね」

「大丈夫ですにゃ。それにもう何年も帰ってないから、久しぶりで嬉しいですにゃ。奥様やお屋敷の皆も『久しぶりに新年は、故郷で家族とのんびりしてくると良い』って、言ってくれましたにゃ」

「新年……? (この世界にも、お正月があるのか?)」(ボソッ)

「それは良かったわね。だったら話はここまでにしましょう。せっかくの里帰りが遅くなってしまうわ。それにナツメとグレープの両親も心配してるでしょうから、早く帰らないとね」

「はい。ナツメとグレープの面倒を見てくれて、ありがとうございましたにゃ」

「どういたしまして。それにお礼ならカズさんに言って。それじゃあ二人共またね」

「さようなら」

「さようならなの」

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「あ、カズさんはちょっと待って。先に渡しておく物がありますから」

「ならにゃちき達は、先に下に行ってるにゃ」

「それじゃあ、先に出発の準備して待ってて。あとナツメとグレープを、受付に居るトレニアさんに会わせて、お礼とお別れの挨拶させておいて。頼んだよキウイ」

「分かったにゃ」

 キウイはナツメとグレープを連れて、先に一階へと下りて行った。

「それでフローラさん、俺に渡す物ってなんですか?」

「潜入調査依頼の報酬と、カズさんが譲ってくれたカードの代金をね。金額が大きいから、人の多い受付で渡す訳にはいかないから」

 フローラは机の引き出しから布袋を出して、それを机の上に置いた。
 金額が大きいと言うわりには、それほど重そうには見えない。
 カズは布袋を受け取り、中身を確認した。

「……入ってるの全部、白金貨なんですけど」

「そうよ。金額が大きいって言ったでしょ」

「何枚入ってるんですか?」

「二十五枚よ」

「二十五……!? 2,500万GL……!! いやいやいや、多いですよ!」

「何言ってるの、妥当な金額よ」

「どこが妥当なんですか? そんなに高額な報酬が貰える、依頼だったんですか?」

「殆どはカズさんが譲ってくれた、カードの金額なのよ。中にはアーティファクト(遺物)に匹敵する程の、価値があるカードもあったでしょ」

「アーティファクトに匹敵……(そんなのあったかなぁ?)」

「とりあえず、それはもうカズさんのお金だから、受け取ってちょうだい」

「……はい(貴族のルータさんからも大金を貰ったのに、更にこんな大金……どうすりゃいいんだ)」

 カズは受け取った白金貨を【アイテムボックス】に入れた。

「それともう一つ」

「まだ何か?」

「さっきキウイさんが『新年』って言ったときに、カズさんが不思議そうにしてたから、少し気になって」

「こちらの世界にも、お正月とかあるんですか?」

「お正月? それは何か分からないけど、ここでは年の変わる三日前と、変わった後の七日、計十日間でお祝いをするのよ」

「三日と七日?」

「『戦いと不安が続く暗雲な時代が終わり、希望に満ちた平和な時代が続くように』と願ったお祝い事なのよ」

「それが新年のお祝いですか?」

「これは勇者達が魔王を倒して後に、出来たお祝い事なの」

 フローラはカズが疑問に思う事を、簡単にだか説明した。
 勇者達が魔王を倒した大きな戦いのあと、それまで一緒に戦って倒れた者達を忘れないため、追悼するための三日間、そして新たな時代の幕開けを告げ、平和な日々が続くためを祝う七日間が出来たと。
 追悼の日は『家族 恋人 友人』など大切な人と静かに過ごし、そして三日が過ぎた後の七日間は、全ての種族が平等に手を取り合い、差別をせず平和に暮らせるようにと、各地でお祭りをしたりしてお祝いすると。

「それがこの世界の新年ですか」

「ええ。やっぱり知らなかったようね」

「はい。俺がこちらの世界に来てから、初めての年越しです。お祭りはアヴァランチェで収穫祭があるのを、知ったくらいです。ただ収穫祭がどんなものかは、知りませんが」

「アヴァランチェに居たのに?」

「収穫祭の前に、王都に来ることになったので」

「それなら今回は、カズさんにとって初のお祭りね」

「そういうことになりますね。それで、新年っていつですか?」

「明日から八日後よ。だから五日以内に三人を送り届ければ、カズさんなら転移して、すぐ王都に戻って来れるでしょう。そうすれば王都で、大切な人と居ることができるし、その後やるお祭りも一緒に見れるわよ」

「大切な人ですか……(俺の場合、キッシュとアレナリアになるのかな。二人とも王都には居ないけど)」

「大切な人は居ないの?」

「居ない訳じゃないんですが、ただ三人の故郷まで何日かかるかは、キウイに聞かないと分かりませんから、戻って来れるかどうかは」

「それもそうね。それとカズさんに一つ注意しておことがあるわ」

「なんです?」

「多種多様の種族が住む街や村と違い、自分達の種族に誇りをもってる人達がいるから、獣人系の種族が住む村に行っても、獣人と言わないようにね。中には不快に思う人達もいるから気を付けて。獣人に限らず、他の種族も同じよ」

「分かりました。気を付けます」

「なら道中気を付けて、三人を無事送り届けて」

「はい。じゃあ行ってきます」

 フローラから注意を受けたカズは、三人が待つ一階へと下りて行った。
 朝ということもあり、受付には冒険者や依頼を出しに来た人達で混み合っていた。

「お待たせ。トレニアさんにお別れ言えた?」

「さっき受付から出てきてくれて、ナツメとグレープにお別れ言ってくれたのにゃ」

「トレニアに、さようならって言った」

「あたしもおっきくなったら、トレニアと一緒にお仕事するって言ったなの。そしたら、楽しみに待ってるって、言ってくれたなの」

「そう良かったね。ギルドも混んできたし、出発しようか」

「行くにゃ」

 ギルドを出るときに、ナツメとグレープは受付に居るトレニアを見ると、トレニアは気付いて手を振る。
 ナツメとグレープも大きく手を振って、ギルドを出て行く。
 四人がギルド出て最初に向かった先は、モルトが教えてくれた馬車を貸し出してる所だ。
 大通りを歩いて三十分程行った道を曲がり、少し歩いた場所に何頭もの馬と、それを引く馬車が見えた。
 カズはそこで、大人が五、六人が乗れる馬車を借りた。(よくある荷馬車に天幕があるようなもの)
 キウイの案内のもと、先ずは王都を抜けるために馬車を走らせた。
 キウイの説明では、三人の故郷は王都から南東方向にあり、途中までは広い街道を通って行くという。
 走っている大通りは、たまに混むことがあるため、王都を抜けるのに馬車でも半日以上かかってしまう。
 そのためにこの日は、王都外れにある宿屋に泊まり、翌朝から王都を出て街道を進むことにした。
 さすがにキウイと同じ部屋という訳にもいかないので、カズは二部屋借り、男女別々に別れることにした。

「別に皆一緒の部屋でも良いのにゃ。お金が勿体ないにゃ」

「そういう訳はいかないでしょ。キウイだって若い女性なんだから」

「そんなもんかにゃ? 一緒の部屋にしたとしても、カズにゃんは何もしにゃいと、にゃちきは分かってるにゃ。お屋敷でも起こさないで、お昼寝させてくれていたにゃ」

「お昼寝? あれはキウイがサボってただけでしょ」

「にゃはは、そうとも言うにゃ。それにしても、なんで四人しか居ないのに、少し大きな馬車を借りたのかにゃ」

「明日からは町か村に泊まれなければ、皆で野宿だから、寝るのが地面じゃ嫌でしょ」

「そういうことかにゃ」

「そういうこと。さて、どこかで食事したら、今日は宿でゆっくり寝て疲れをとらないと、明日からは宿に泊まれるかは、分からないから」

「お話終わった? ぼく、お腹すいた」

「あたしもなの。お腹がぐぅぐぅ言ってるなの」

「にゃちきも、お腹すいたにゃ。カズにゃん早く行くにゃ」

「キウイが聞いてきたから話したのに」

 宿屋の近くにある食堂で夕食を取った四人は、カズとナツメ、キウイとグレープに別れて部屋に入り就寝した。
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