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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

176 接触 と 潜入

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 前方に回り込んだ額に傷がある男が口を開いた。
 カズはすぐに、二人のステータスを調べる。

「よぉあんた、こんな辺鄙(へんぴ)な所で何してるんだ? オレっちは王都の冒険者なんだが、良かったらこの先にある村まで、護衛がてら付き添ってやるよ。もちろんタダで」

 ステータスを確認したカズは、マントで隠していた顔を見せた。(もちろんメタモルフォーゼの魔法で変えた顔だ)

「それはありがたい。王都の冒険者さんですか。俺は旅をしながら、その土地で依頼を受けている、しがない田舎の冒険者です。小さな町で冒険者登録をして、ようやくCランクになったので、遠出をして来たんです」

「そうかそうか。それなら向こうに仕事が出来る、小さな集落があるから案内してやる。良いよな連れてって」

 額に傷のある男が、カズの後ろに居る背の低い男に、連れて行って良いか尋ねると、背の低い男は頷き了承した。

「よぉし話は決まった。道から外れるが近道だからオレっちに付いて来い。おっとその前に、ギルドカードを見せてくれや! 仕事を紹介するのに、証明が必要だ」

 カズはフェイクの魔法で、表示を変えているギルドカードを、額に傷のある男に見せた。
 それを脇から背の低い男が横目で見て、額に傷のある男に合図をした。
 カズは二つ前の村で言われた事を思い出し、二人にギルドカードの事を聞く。

「二人のギルドカードも、見せてくれないか?」

 すると額に傷のある男が、一瞬嫌な顔をした。

「オレっち達はBランクの冒険者だから、ランクが下の奴には、見せられない決まりなんだ」

「そんなルールがあるんですか! さすが王都の冒険者だ(やっぱりか。ギルドカードを持たない、自称冒険者か。宿屋の主人が言っていた連中のようだな)」

 カズは話を合わせながら、額に傷のある男と、背の引く男の二人に挟まれた並びで、道を外れ林の中にある獣道を進んで行く。
 暫く歩くと、盆地になってる開けた場所に出た。
 そこには確かに小さな集落があった。


 ≪盆地に隠されて作られた小さな集落≫


 カズはそこで、見覚えのある荷馬車を見付けた。
 それは前回の依頼で、カズ達から別れた、イソチオとシアトネが乗って行った荷馬車だった。
 カズは額に傷のある男に付いて行き、村外れにある建物に行った。
 建物の中に入ると、そこには大柄な男と、服がはだけた化粧の濃い女が座って居た。
 ここでもカズはすぐに、目の前に居る男女二人のステータスを調べた。

「仕事を探してる、Cランクの冒険者を連れてきました。ぜリーダー」

「そうかご苦労。お前が仕事がほしいと言ってる奴か」

「そうですが」

「Cランク程度の冒険者じゃあ、大した稼ぎは出来ねぇぞ。と言いたいところだが、今は人手が足らねぇから、お前に良い仕事を回してやる」

「それはありがたい。頼みます」

「よし良いだろう。おい、あれ持ってこい」

 背の低い男が、30㎝程の箱を持ってきた。
 大柄な男が箱を開け、中を見せてきた。

「これはオレ様達が苦労して手に入れた、貴重なアイテムの数々だ。お前にはこれを、国境で待ってる仲間の所まで持って行く事だ。箱を無くしたりしたら白金貨五十枚(5,000万GL)を、オレ様に払う必要があるからな」

「白金……そんな仕事は、俺には無理ですよ」

「せっかくオレ様が、仕事をさせてやろうと言ってるのに、断るってのか!」

「度胸のない男だねぇ。それでも玉付いてるの? それとも大金過ぎて、ナニが縮み上がっちまったのかい。アハハハハっ」

 大柄な男の隣に居た、服がはだけた化粧の濃い女が、卑猥な事を言いカズを見下す。

「リーダーも姉さんも、そんな言い方はかわいそうっすよ。ただの配達だから安心しろ。国境だってすぐそこだ。失敗なんかするはずねぇさ。成功すれば金貨10枚(100,000GL)だぞ!」

 額に傷のある男が優しい言葉を掛け、報酬金額でカズを釣り、奮起させる様な言い方をする。
 カズは渋々これを受けた。(もちろんわざと渋る言い方をした)

「オレっちが近道を教えてやるから、付いてこいよルア。良いっすよねボス」

「好きにしろ。あとそのリーダーはやめろと言ったろ」

「すいませんリーダー。ほらその箱持って、オレっちに付いてこいルア」

「ういっす」

 カズは箱を持ち、額に傷のある男の後に付いて建物を出た。
 背の低い男も一緒に出たが、一人で他の所に行ってしまった。

 『ルア』それが俺の偽名、誘き寄せ食い付かせる疑似餌、つまりルアーの事だ。
 他にこれといった偽名を考え付かなかったので、自分が囮(おとり)となって、目的を食い付かせる意味を込めて、パッと思い浮かんだ名前だ。
 それが功を奏したようで、俺は目的と思わしき連中と接触した。

「いいかよく聞け、ここから向こうに林を抜けると、川に出る。近くに橋があるから、それを渡って丘を越えれば、国境にある関所が見える」

「道に迷いそうだけど、難しい仕事ではないんだ」

「そうだ。だから一人で行って戻って来い」

「それで、これを誰に渡せば?」

「あぁそうだった。えーっとだな……そう! リーダーみたいな大男が、関所近くに居るから、そいつに渡すんだ。いいな」

「うす。じゃあ、いってきます」

「気を付けて行け」

「ういっす」

 ルア(カズ)は箱を抱えながら、林の中にある細い獣道を進んで行く。

「こうもアッサリ引っ掛かるとは、田舎の冒険者が、こんな所に来たの悪かったな」

「おい、うまくいったか?」

「バッチリだ。そっちの準備は?」

「五人向かわせた。アイツもバカな奴だ。国境に行ったって、誰も待ってねぇのに」

「なぁに、どうせ国境までは行けねぇさ」

「それもそうだな。イッヒヒヒ」

 後から合流した背の低い男と、額に傷のある男は、笑いながらリーダーと呼んでい者が居る建物に戻って行った。
 そしてルア(カズ)は、言われた道を進み、林を抜けた所まで来ていた。
 ルア(カズ)の向く先には確かに川があったが、橋らしき物はどこにも架かってない。


 まぁ当然か、どう考えても言ってた事は、思い切り嘘だからな。
 五人の気配が近付いて来てるって事は、どうせこの箱を奪って、俺に弁償でもさせようって魂胆だろう。
 出来なければ働いて返せとか言って、何処かに監禁して働かせるつもりなんだろう。
 さてどうするか、このまま奴等の魂胆にのるか、迫って来てる五人を捕らえるかだが……相手の反応を見て決めるか。


 ルア(カズ)が川を渡れずに、困った様にしていると、林の中から五人の男が現れた。
 ルア(カズ)は林から現れた五人に、気付いて驚くふりをして、即座にステータスを確認した。
 すると見事に五人全て、ステータスに盗賊と表示されていた。
 その内一人には、元Cランク冒険者ともあった。
 現れた五人のステータス数値は、Dランク冒険者程度しかなく、警戒するような魔法やスキルはなかった。
 装備している武器にしても、所々錆びた短剣や、刃の欠けたナイフといったお粗末な物しか持ってないようだった。

「こんな所にカモが居やがった」

「久々の獲物だぜ」

「分かってるな。死にたくなければ、その箱を置いてけ」

「どうせ国境に行ったって、誰も居やしねぇよ」

「あっバカっ! テメェは一言多いんだよ!」

 余計な事を口走った男の頭を、一人が叩いた。

「だ、誰だ(ボケとツッコミが居るけど、元お笑い芸人? そんな訳ないか)」

「おれ達が誰だって、お前には関係ねぇ」

「そうだ言う通りにしろ! このカモ野郎」

「その箱を置いて行けば、命だけは見逃してやるって言ってるんだ」

「そうしないとリーダーに、怒られちゃうから」

「だからテメェは、余計なこと言ってんじゃねぇ。少し黙ってろ!」

「……えーっと、お断りします」

「断るだぁ。なんでだ?」

「なんでだって言われても……(明らかに自分達が、この箱を渡してきた連中の仲間だって言ってるし、それを俺に聞かれてるから、このまま言う事聞いて箱を持ち帰らせても、俺を騙してたって事が、そのリーダーに知られるじゃん。せっかく騙されたふりしてるのに)」

 ルア(カズ)の返事に焦れったくなった一人が、所々錆びた短剣を突き出し、強硬手段に出ようとする。
 その行動を見ていた他の四人も、持っていた武器を構え、ルア(カズ)に接近して行く。

「ちょ、ちょっと待て、あんたらの話を聞いてると、この箱を渡してきた連中の仲間なのようだが、なんで俺を襲って箱を取り上げようとするんだ? (また一言二言と、喋ってくれないかな)」

 ルア(カズ)は怯えたふりをしながら、ゆっくりと見通しが悪い、林の中に後退して行く。
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