上 下
140 / 788
三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

132 特殊な倉庫

しおりを挟む
 カズはモルトの案内で、討伐して回収してきたストーンシャークを、アイテムボックスから出す為に、第2ギルドが所有している倉庫に、歩き向かっていた。
 倉庫に着くまでの間に、ネメシアと行った討伐依頼の話を、聞かせてほしいとモルトに言われ、カズは少し困った。

「それでカズ君、ネメシアとの依頼はどうでしたかな?」

「行く前に比べて、話をしてくれるようになりましたが、親しくはなってないです。ストーンシャークを討伐する際も、手を出すなとか言われて、邪魔者扱いされてる感じでしたから」

「一緒に依頼に行ったので、少しは良くなったと思ったんですが……」

「俺の方から、成るべく話をするようにしたんですが、討伐する時に一緒に協力してと言ったら『手を出すな』『お前じゃ倒せないから邪魔だ』とか言われたもので、俺も腹が立ってしまって」

「ネメシアときたら……」

「ネメシアさんの方がランクは上ですし、戦闘経験も豊富でしょうから、指示された事に従うのは分かりますが、さすがに言い方ってものが……って、モルトさんに愚痴っても、しょうがないですね。すいません」

「どうもカズ君には、随分と不快な思いをさせてしまった様ですな。少しは打ち解けると思い、ネメシアが一人で行くはずだった今回の討伐依頼に、カズ君を同行させてもらうよう、サブマスのイキシアさんに頼んだのですが」

「モルトさんが仕組んだんですか!」

「うまくいくと思ったんですが、失敗でしたな。カズ君には、申し訳ないことをしました」

「もういいですよ。それに今回の模擬戦で俺が勝てば、嫌ってる理由を教えてくれると、ネメシアさんは言ってましたから」

「そう言えばネメシアから、模擬戦の立会人を頼まれました。なんでも他の人には見せたくないからと」

「それは俺からも、お願いしたかったことです」

「ではカズ君がネメシアに言って、専用訓練所での模擬戦を頼んだと?」

「専用訓練所? そんな所もあるんですか?」

「ええ。Bランク以上で、実績のある方だけが使える、訓練所があるんですよ」

「B……俺Cランクなんですけど?」

「ネメシアがBランクで、実績も経験もあるので、一緒に使う者が例えFランクでも使用出来ます」

「いやいや、そんなに実力差があるのに、良いんですか?」

「必ずしも模擬戦のような事を、する訳ではありません。弟子と言われる者達に訓練をつける為、部外者に見せたくないと言って使う方が居ますから」

「あぁなるほど! 確かにそれならランクが離れてても安心……実は上辺だけで、お仕置みたいな事を、してるとかないですよね?」

「その辺はギルドも、管理してますから大丈夫のはずです。それと模擬戦ですが、今日の午後と言う事でどうでしょうか? ネメシアが、そのつもりの様でして」

「そうですよね。今回はモルトさんが、立会人を……今日の午後ですか!」

「ネメシアの勝手な言い分ですが。カズ君の都合が悪ければ、他の日に変えるようネメシアに伝えますが」

「大丈夫です。依頼を受けなければ、時間はありますから(相変わらず、自分の都合だけで決める人だなぁ)」

「それは良かった。儂も今日なら時間がとれたので」

「なんか俺のせいで、モルトさんに迷惑をかけて申し訳ないです」

「何をおっしゃいますか、勝手なのはネメシアの方です。カズ君は悪くありませんから」

「そんな、ありがとうございます(そうだよな、俺悪くないよな!)」

「それとなんですが……」

 モルトが何か話そうとした時に、二人より先に、倉庫に来ていた人が話し掛けてきた。

「モルトその人がそうか?」

「先に着いてましたか」

「モルトさん、あちらの人は?」

「カズ君は初めてでしたな。第2ギルドで買い取った獣やモンスターを解体して、素材別に分けてくれる専門の方です」

「わしの名は『ヘレフォード』主に第2ギルドに持ち込まれた、獣やモンスターを解体する仕事をしている。今後よろしくだ」

「よろしくお願いします。カズと言います」

 カズはヘレフォードに、軽くお辞儀をして挨拶した。

「今時珍しい、腰の低い冒険者だな。おいモルト、この若いのは大丈夫なのか?」

「カズ君は、こういう人でな」

「大した獲物を獲っとらんのに、態度だけデカイ連中よりましだか、そんな腰が低くて、いったい何を持って来たと言うんだ?」

「ここで話してても仕方ないので、先ずは倉庫の中に入りましょう」

「それもそうだな」

 カズ、モルト、ヘレフォードの三人は、第2ギルドが所有する倉庫の一つに入った。 
 この倉庫には窓が一つも無く、出入口の扉も厚く、開けて中に入ると暗い中にもう一つ扉があった。
 ヘレフォードが扉横の色が違う壁に手を触れてから、二つ目の扉を開けた。
 すると倉庫の中は明るくなり、開けた二つ目の扉から冷気が流れてきた。

「空気が冷たい? モルトさん、ここはなんですか?」

「ここは食材になる物等を、保管する専用の倉庫です。魔道具で倉庫の中を冷して、中の物を長く保存出来るようにしてるんです。なのでご覧の通り窓が無く、二重の壁と扉で、倉庫の中と外を隔ててるんです」

「へぇ~! そんな所があったんですか(巨大な冷蔵庫と言うか冷蔵室だ!)」

「ちなみに、ヘレフォードが触れていた色が違う壁に魔力を流すと、倉庫内の明かりが灯るようになってます」

「便利だろ! わしの家にも、こんな倉庫があればいいんだが」

「そんなに欲しければ、作ってもらったらどうです?」

「軽々しく言うなよモルト。どれだけ金がかかると思ってるんだ」

「まぁ白金貨数枚(数百万円)じゃ足りないでしょうな」

「わしらのような一般庶民には、程遠い物だからな。個人で持ってるのは、貴族様か豪商の連中くらいだろうよ」

「あのう、そろそら本題に入っても?」

「そうでしたな。ヘレフォード」

「じゃあ、そっちの隅にでも出してくれ」

 ヘレフォードに言われて、カズは【アイテムボックス】から、討伐してきたストーンシャークを次々と出していった。
 すると倉庫の半分を、埋め尽くす程の量になってしまった。

「こりゃまた…すげぇ量だな。しかも凍ってやがる」

「はい、これで最後です」

「これだけあると、四日…いや六日はかかるぞ」

「俺は構いませんが、解体が終わらないと、ネメシアさんが報酬はまだかと、催促してきそうですね」

「それなら儂から言いますので、安心してください。それに、魔石(魔核)の買い取り以外の報酬を渡せば、文句はないでしょう」

「ありがとうございます。モルトさん」

「どれ、先ずは試しに、一体を解体してみるか!」

 ヘレフォードは出されたストーンシャークの中から、3mくらいのものを選び、大きなハンマーで表面の氷を砕こうとした。

「ちょっと待ってください」

「あ? なんだ?」

 カズはヘレフォードが選んだストーンシャークに近付き、表面の氷に触れてスキル《解除》を使用して、氷を元の海水に戻した。

「ほう、魔力変化ですかな?」

「まぁそんなとこです。ヘレフォードさん、これで解体出来ますか?」

「おう。氷を砕く手間が省けた」

 ヘレフォードはものの十分程で、ストーンシャークの一体を解体した。

「さすがはベテラン早いですね」

「まぁな! コイツ(ストーンシャーク)は確かに表面は岩のように硬いが、刃を入れる所があってな、そこから…」

 何かのスイッチが入ったのか、ヘレフォードが解体について語りだしたので、長くなると思ったモルトは、カズと倉庫を出ることにした。

「では、あとはヘレフォードに任せて、儂らはギルドに戻りましょうか」

「そうしましょう」

「あ、ちょっと待ったあんちゃん。行くなら残りのやつも、氷を溶かしていってくれ。そうすれば、明日には解体が終わるからよ」

「分かりました。モルトさん、少し待っててください」

「ええ良いですよ」

 カズはヘレフォードがまた語りだす前に、言われた通りストーンシャークの氷を、解除のスキルで元の海水に戻していった。
 海水は床にある溝を流れ排水されていく為に、足元が水浸しになることは無い。

「モルトさんお待たせしました」

「では行きましょうか」

「はい。ヘレフォードさん、あとはお願いします」

「おう、任せとけ! 解体のことが知りたければ、いつでも教えてやるぞ」

 カズとモルトは倉庫をから出て、ギルドに戻って行った。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...