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二章 アヴァランチェ編

99  余談

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 カズがフロストドラゴンの白真と、獣魔契約をしていたその頃、アヴァランチェの冒険者ギルドでは……


「ア…レ……リア……アレナリア!」

「わっ! 何よクリスパ」

「何よ。じゃないでしょ。さっきから呼んでるのに」

「そ、そう。それで何かしら?」

「そんな調子じゃあ、仕事にならないでしょ。今日もロウカスクさんに言って、早く上がりましょう」

「それでは、ロウカスクに言えた義理じゃ……」

「そんなこと言っても、仕事が手に付いてないだから。ほら、ロウカスクさんの所に行くわよ」

「ちょ、ちょっとクリスパ。分かったら、そんなに引っ張らないでよ。……あれ、キッシュは?」

「何言ってるのよ。キッシュは今日も、ソース作りの手伝いをするって言ったから、さっき私がシャルヴィネさんのお店に、送って行ったでしょ」

「そう……だったわね」

「もう! そんなんじゃあ、次会ったとき、カズさんに顔向け出来ないわよ!」

「わ、分かってるわよ!」

「取りあえず、今日の仕事は終わり。分かった!」

「え、ええ」

 アレナリアとクリスパは、ギルマスの部屋に行き、ロウカスクに今日の仕事を終える事を告げた。

「今日もか。仕方ないなぁ。明日からは、いつものように働いてくれよ」

「……分かったわ。ごめんなさい」

「アレナリアがそれだと、張り合いがないな」

「あらそれなら、私が話し相手に、なってあげましょうか?」

「! いやいや。クリスパは遠慮する」

「あら残念。しかし王都までは、歩きで三十日以上掛かりますからね。カズさんは、馬車にでも乗って行ったのかしら?」

「近道を聞かれたからな。歩きで北の山脈を越えて行く……何て事はしないと思うが」

「そうカズが北の山脈を……! ロウカスク。今なんて言った」

「いやだから、北の山脈を越えるのが近道と教えたが、さすがにこの時期に、行きはしないだろと」

「このボケぇー! この時期になると、山脈の頂上付近には、希に『白き災害』が姿を現すって事を、お前も知ってるだろ! まさか、カズに言ってないのか……」

「いくらなんでも『白き災害』の事は、カズ君でも知っているだ……あれ? もしかして知らないのか?」

 アレナリアの顔が、血の気を引いて青くなっていった。
 ふらつくアレナリアを、クリスパが支えていたら、今度は顔を赤くして怒りだした。

「ロウカスク貴様ぁー! カズが死んだら、ギルトごと消滅させてやる!」

「よせアレナリア! さすがにカズ君でも、雪深い山の中を、何日も掛けて越えては行かないだろ! 考えすぎだ」

「今から追い掛ければ、まだ間に合うかも。カズ今行くわ!」

「ちょっとアレナリア落ち着いて! 山脈を越えて行ったとは、限らないでしょ! カズさんなら、きっと大丈夫よ」

「クリスパ放して。カズが……」

「ほら気晴らしにキッシュの所に行って、ソース作りを手伝いながら、気持ちを落ち着かせましょう。ここ(ギルマスの部屋)に居ると、悪い事ばかり考えてしまうから」

「それは酷くないか。クリスパ」

「黙って仕事をしてください。私も少し怒ってますよ!」

「……は、はい(オレが悪いのか? カズ君、くれぐれも無事に王都に着いてくれ。オレの為に)」

 アレナリアとクリスパは、ギルマスの部屋を出て、受付のある一階へ降りてきた。
 するとそこには、以前カズに因縁をつけて、訓練場に連れ出して、ボコボコにした事を、大声で自慢げに話している四人の冒険者が居た。

「しかしあの時ボコした野郎は、根性なかったなぁ」

「ああ。直ぐに気を失っちまって、歯応えがなかったぜ!」

「おいおい。そんな奴の事なんかどうでもいいからよ、せっかくの祭りなんだから、どっか良い女でも見つけて遊ぼうぜ!」

「そうだな! ギャハハハハッ!」

「おいおいサブマス様だぜぇ。あのボコした野郎をお気に入りだとよ!」

「ギャハハッ。そいつは良い趣味だな」

「なっ! (アイツらは、あの時カズを……)」

「アレナリア落ち着いて、あんな連中気にしては駄目よ。ほら行きましょ」(小声)

「しかしクリスパ、アイツらは以前にカズを……」(小声)

「分かってるわ。でもギルド内で揉め事は駄目よ。サブマスのアレナリアなら、分かるでしょ。大丈夫よ。問題になりそうなら、職員がロウカスクさんを呼びに行くから」(小声)

「分かったわ。早くキッシュの所に行きましょ」(小声)

「もう一人のべっぴんさんよぉ、俺らと遊ばねぇか!」

「優ししてやるぜ!」

「ギャハハハハッ!」

 アレナリアとクリスパは、我慢してその場をから離れて、キッシュの居るシャルヴィネの店に向かった。
 ギルドを出た後のクリスパは、アレナリアと同様に、怒りが込み上げてきていた。

 二人とも気持ちを落ち着かせながら、ゆっくりと向かい、シャルヴィネの店に到着した。
 店の従業員に、ソースの試作品を作っている部屋に案内され、キッシュと合流した。
 部屋の中には、シャルヴィネと数人の料理人が、ソースを一緒に作っていた。

「あ! クリ姉。アレナリアさんも来てくれたんだ!」

「ええ。シャルヴィネさん、今日もキッシュがお邪魔してます」

「これはこれはクリスパさん。とんでもないです。私達も良い意見を、もらってますよ。それでそちらは?」

「シャルヴィネさんは初見でしたね。この都市にある冒険者ギルドで、サブ・マスターをしているアレナリアです」

「こ、こんにちは。アレナリアです」

「初めまして。私は商会代表のシャルヴィネと申します。お話はカズさんから聞いてますので、是非とも味見役をお願いします」

「任せてください。アレナリアはキッシュに負けて劣らずの、食いしん坊ですから」

「ちょ、クリ姉!」

「クリスパ何を!」

「あらカズさんだって、言っていたことじゃないの」

「人前で言わなくても良いでしょ!」

「そうだよクリ姉!」

「アハハハッ。いや失礼。それは期待が出来そうです。キッシュさんも味見と言って、だいぶ食べてますからね」

「そうなのキッシュ?」

「だってアレナリアさんに持ってくのに、種類が多いから、先ず私が味見をしようと思って……」

「それで口の横に、ソースが付いてるのね」

「えっ! やだ。もっと早く言ってよ。恥ずかしい」

「ちょうど良さそうなソースが、幾つか出来ましたから、皆で昼食を兼ねた、試食会としましょうか」

「賛成っ!」

「もうキッシュたら」

「カズが作ってくれたソースに、近い味はあるかしら?」(ボソッ)

「何か言ったかしらアレナリア?」

「な、何でもないわ」

 今までに出来た幾つかのソースと、それに合いそうな食材を広いテーブルに並べ、店の従業員も呼んでの試食会となった。
 もちろんカズが、最初にシャルヴィネに食べさせた、タマゴサンドに使ったタマゴサラダも、何種類かのソースを使って作ってある。

 その後、昼食を兼ねた試食会が終わり、商品になりそうなソースが幾つか出来たので、ソース作りは一旦終わりにし、残り数日の収穫祭を楽しむ事になった。

 ソース作りをした料理人は、今回自分の料理に合ったソースを使って、料理コンテストに出場するそうだ。
 シャルヴィネも試しに、販売してみると言う。

 キッシュは覚えたレシピを元に、ココット亭に帰ったら、知り合いの人達と、リアーデの名物を作ろうと考えていた。
 アレナリアは、カズが作った物と同じ味が無いので、少しガッカリしていたが、それでも大好物の、タマゴサラダ(タマゴサンド)が作れるソースが出来て喜んでいた。
 何故なら、シャルヴィネが販売するので、いつでも買えるからだ。

 キッシュとアレナリア、それにクリスパの三人は、収穫祭をしている中心部の中央広場へと向かい歩いていた。

 すると先頭を歩いていたキッシュに、ワザとぶつかり、因縁をつけきた人達がいた。
 そいつらは今日ギルドで、カズとアレナリアの事をバカにして、クリスパをナンパしてきた四人組の冒険者だった。

「おお痛てぇなぁ」

「イヒヒ! かわい子ちゃんよぉ。ぶつかったお詫びに、俺達と遊ぼうぜ」

「お酒臭いから近寄らないで!」

「良いじゃねぇかよぉ」

「嫌だ放して!」

「おっ! そっちの女は、さっきギルドで見た良い女じゃねぇかよぉ。俺達と一緒に遊ぼうぜぇ」

「結構です! (本当にお酒臭いわね)」

「ちょっと貴方達、キッシュを放しなさい!」

「サブマス様には関係ないだろ! 俺達はこっちの二人と、一緒に楽しく遊ぶからよぉ」

「ちっこいサブマス様は、あの弱っちい野郎と、ちちくりあってな」

「カズは弱くはないわよ!」

「ギャハハハハッ! 俺達にボコされた野郎に、よほどご執心なんだな」

「なんですって!」

「落ち着いて。アレナリアが魔法を使ったら、アイツらはキッシュを盾にするかも知れないわ。しかも今は冷静じゃないから、余計に危ないわよ」(小声)

「でも早くキッシュを…」(小声)

「カズ兄は、女性に乱暴な事はしないわよ!」

「なんだとぉ。この女ぁ!」

 キッシュを捕まえていた男が、キッシュを突き飛ばした。

「痛い!」

「キッシュ! もう許さない!」

「アレナリア待って」

「クリスパどうして!」

「冷静じゃないアレナリアが、魔法を使ったら、危ないって言ったでしょ。ここは私がやるわ」

 アレナリアが倒れたキッシュに駆け寄り、クリスパは四人の冒険者に近寄って行く。

「ようやくその気になったか。一人で俺達四人を、楽しませてくれよ。ゲヘヘヘ」

「こんなべっぴんを好きに出来るなんて、あのカズとか言うザコに、感謝しないとな」

「ギャハハハハッ! まったくだな」

 一人がクリスパに手を出そうとしたら、クリスパはその腕を持ち、ひねり投げ飛ばした。

「何すんだこのあま! ここで素っ裸にしてやる!」

 それを見ていた三人の冒険者は、一斉にクリスパに襲い掛かった。
 怒っているクリスパは、真っ正面から三人の顔面を殴り、更に追い討ちに蹴りを入れた。
 三人の冒険者は、顔面を潰され意識を失った。
 最初にクリスパに投げれらた一人が起き上がり、剣を抜いてクリスパに襲い掛かる。

「やりやがって、ぶっ殺してやる!」

 しかしクリスパは難なく避けて、男の懐に入り、殴る蹴るでボコボコにして、男は半殺し状態だ。
 すると騒ぎを聞き付けた衛兵が、数人来たので、アレナリアが事情を話した。
 倒れた四人は拘束され、衛兵に運ばれていった。

「キッシュ大丈夫?」

「うん平気だよ。クリ姉は?」

「あんな連中なんか、片手でも余裕よ」

「ありがとうクリスパ。私スッキリしたわ」

「私もアイツらを殴って、胸がスッとしたわ」

「それより早く、キッシュの傷を治しましょう」

「大丈夫だよ。もう痛みも引いてきたし」

「そんなこと……あれ? さっき擦りむいた膝の傷が、治ってきてるわ!」

「あら本当! どういう事かしら?」

「あっ! きっとこれ。カズ兄から貰ったネックレス!」

「そう言えば、説明を書いた紙を、一緒に貰ったわね。キッシュ見せて」

 キッシュがアレナリアに、ネックレスの効果が書いた紙をわたした。

「! 確かに傷が治ったのは、ネックレスに付与されている効果のようね」

「アレナリア私にも見せて……何これ! 『オートヒーリング(微量)』って。常に回復状態にあるってこと! 凄いわね」

「私達のも、しっかり読んだ方が良さそうね」

「やっぱり私達のカズ兄だね」

「そうね」

「ええ(私の……カズ)」

「どうしたのアレナリア顔を赤くして? また今日もカズさんが使ってたベッドで『スンスン』しながら寝るのかしら?」

「ちょ、クリスパなんで知ってるのよ」

「夜中にこそこそと、どこに行くかと思って、見てたのよ」

「アレナリアさんズルい! 私もカズのベッドで寝る」

 この後三人は収穫祭を楽しみ、最終日の三日後には、キッシュとクリスパは、リアーデに帰っていった。
 潜伏している可能性のあった盗賊は、収穫祭の初日に、衛兵が捕まえていたようだ。
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