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二章 アヴァランチェ編

91 飛翔魔法 と 前夜祭

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 重力魔法の練習を終えても、待ち合わせの時間まで一時間程あるので、今度は飛翔魔法を試してみる。

 飛翔魔法が書いてあるページを開く。
 前回少し読んだが、もう一度ページの始めから読み返すが、やはり少々考えてしまう。
 『風を纏う』『風を放出する』と書いてあるが、風を纏う感覚が、どうも良く分からない。
 次のページを読んでみると、これは風属性の魔法を使った時のみで、非常に効率の悪い方法と書いてあった。
 使えない方法を書くなよ! と、突っ込んでしまった。

 飛翔魔法は、自分の魔力を隅々まで把握して操作できれば、魔法名を唱えることで己を浮かし、くうを自在に移動出来る魔法。
 風魔法を使うことで、高速に移動が出来るようになる。
 ただし、かなりの訓練を必要とすると、書いてある。

 何はともあれスキル【魔力操作】と【魔力感知】で、自分の魔力を隅々まで感じる。
 魔力操作は、寝る前に練習をしていたので、自分の魔力を隅々まで把握することに、それほど時間は掛からなかった。
 次に魔法名だが、相変わらず本には書いてないので、ありがちだが『フライ』にして、飛翔魔法を試すことにした。

「〈フライ〉」

 魔法名を唱えると体が浮き上がり、自分の思う方向へと進んで行くことが出来た。
 初めてにしては、上手くいったと思うが、ただ移動する速度は、ゆっくりと走る程度しかない。
 初めてだから、こんなのかと思う。
 ちょっと怖かったので、4mから5mぐらいの高さまでしか上がらないようにした。
 まだまだ練習が必要だ。
 ちなみに使用した魔力を確認したら、いつも通り、そんなに減っては無かった。

 【魔力】: 4256/4500

 重力と飛翔の魔法を試し終え、待ち合わせの時間まで、あと少しあるので、三人に贈る装飾品アクセサリーに、最後の付与エンチャントをすることにした。

 空間を繋げて移動出来る魔法、ゲートが書いてあるページの最後に『自分の魔力を記録させる物があれば、そこへ空間を繋ぐことも出来る』と書いてあった。
 なので三人に渡すアクセサリーに、それを付け加えた《付与》をして完了とする。
 やりたいことも終えて、待ち合わせの時間になるので、いつも使ってるアレナリア家の寝室に〈ゲート〉を使い移動する。

 家の中には誰もいなく、外に出るとそこにキッシュとアレナリアが居た。

「あれ、二人だけ? クリスパさんはどうしたの?」

「カズ兄ぃ!」

「カズ!」

「どうしたの驚いて?」

「家の中で待ってたの? 全然気付かなかったわ」

「クリ姉はギルドに寄って、スカレッタさんとルグルさんを、連れて来るって」

「まだ仕事中じゃないかな?」

「その場合は、ロウカスクに言って、早く上がらせるって言ってたわ」

「おいおい。大丈夫なのか」

「そこは、クリスパだから」

「サブマスであるアレナリアが、そんなこと言っていいの?」

「前夜祭とはいえお祭りなんだし、少し早く上がってもいいでしょうよ。その分は、ロウカスクにやらせれば」

「ギルマスが受付に居たら驚くよ」

「もうすぐカズがアヴァランチェを離れるんだから、付き合いのあったスカレッタとルグルを呼んであげないとね」

「アレナリアが言い出したの?」

「そうだよ。アレナリアさんが、前夜祭は皆で楽しくしたいって」

「明日から収穫祭本番だから、ギルドも忙しくなるわ。前夜祭くらいは、あの二人にも楽しめる時間があっても良いでしょ」

「優しいねアレナリア」

「べ、別に私は、カズと一緒だから、誘わなくてもよかったけど、サブマスの立場として、職員にお祭を楽しめる時間があっても、良いんじゃないかとね」

 相変わらず顔を染めて、こういうところが、可愛いと思うんだよな。

「そうだね。皆で楽しもう」

「アレナリアさん、赤くなって可愛い」

「キッシュまで、大人をからかうんじゃないの!」

「えー。アレナリアさんはちっちゃくて、妹みたいで可愛いのに」

 「あっそうだ! 昼食後にシャルヴィネさんの所に行って話してたら、三人に頼み事をしようかって話になってね」

 キッシュとアレナリアに、シャルヴィネに言った、試作品のマヨネーズを作る手伝いと、味見役のことを話した。

「私は、お手伝いをしても良いよ。クリ姉には後で聞いておくね」

「ありがとうキッシュ。ちゃんと報酬もあるようだから。それにリアーデに帰ったら、宿で使えるように言ってあるから、上手くすれば名物になるしょ」

「ありがとうカズ兄」

「私も良いわよ。キッシュとクリスパの三人で行くなら、試食してあげても」

「アレナリアが気に入った味なら、売れそうだね」

「カズの頼みだから、聞いてあげてるんだからね」

「ありがとうアレナリア」

 そんな感じで話していると、離れた所から、クリスパが声をかけてきた。

「キッシュ、アレナリアお待たせ。あっ!
 カズさんも着いてましたか」

 クリスパと一緒に、スカレッタとルグルも来た。

「今夜は誘っていただき、ありがとうございます」

「二人とも、仕事は終わったんだから、そんなに畏まらなくてもいいわよ」

「はい。誘ってもらえて嬉しいです。仕事も早く上がれて、前夜祭に皆で行けるなんて」

「それでクリスパ、ロウカスクはどうだったの? なんか言ってた?」

「自分も家族と行くと言ってましたが、いつもサボっているので、今日ぐらいは夜勤の人が来るまで、受付に居てもらってます。それぐらいは、してもらわないとですよね。お二人とも」

「……」

「……」

 クリスパさんも、返事をしづらいことを聞くなぁ。
 それで『はい』なんて言えるなら、第二第三のクリスパさんになるよ。

「んっ? カズさん。! 私に言いたいことでも?」

 ビクッ 「な、なでもないですよ。今夜は皆で、前夜祭を楽しみましょう(クリスパさんの女の勘が発動したよ! こえ~)」

 新たにスカレッタとルグルを加えた六人で、前夜祭のやっている中央広場へと向かった。
 中央広場では、庶民が入りづらい店ではなく、リアーデの街でもあったような露店が並んでいる。
 安い手軽な食べ物やお酒に、子供向けのおもちゃに、お菓子等も売っているお店もある。
 収穫祭と言うだけあって、前夜祭にも関わらず、食べ物を売っている店には、山のように出来た物が積んである。
 それも直ぐに売れて、どんどんと作っている状況だ。
 広場中央にある噴水の周りでは、楽器を奏でて、踊る人も居た。

「前夜祭が始まったばっかりなのに、もうどこのお店も満員ですね」

「仕方ないですよクリスパさん。年に一度の収穫祭ですから、皆さん仕事を早く切り上げたり、昨日までにある程度終わらせて、今日の前夜祭から、収穫祭がある五日間を休みにしてる人達が多いですから」

「そうなんですよ。なのでこの時期ギルドには、都市内での手伝いが多くなって、大変なんですよね」

「さすがはギルドで受付をやっている、スカレッタとルグルね。都市での出来事を、よく知ってるわ」

「またまた。ギルマスにいうことを聞かせる、クリスパさんには敵いませんよ」

「ねぇクリ姉。話してないで、何か食べようよ。私お腹空いちゃった。カズ兄もお腹空いたでしょ」

「そうだね。どこか入れる店を探すか、それとも少し食べ歩きながら、空くのを待とうか?」

「……」

「アレナリア大丈夫? 人が多い所はまだキツイ? 無理しなくてもいいよ」

「……だい…じょうぶ……」

「そんなんだと、初めての夜はアレナリア抜きで、キッシュとカズさんの二人だけってことになるわよ」(小声)

「クリスパにそんなこと言われなくても、分かってるわ」

「! どうしたんですかサブマス?」

「なんでもないわ。それに今は仕事じゃないから、サブマスって呼ばないの。分かったルグル」

「分かりましたサブマ……アレナリアさん」

「ねぇ早く何か食べようよ。この美味しそうな匂いの中で待ってるの、私もう限界だよ」

「やっぱりキッシュだね。アレナリアも食いしん坊だけど、キッシュにはまだ敵わないな」

「むぅ~。またカズ兄は私のこと、食いしん坊って言う」

「ごめんごめん。ほらあの焼き鳥美味しそうだよ。買ってあげるから行こう」

「やったー!」

「あ……」

「アレナリアも食べるてしょ」

「……う、うん」

「キッシュとアレナリアばっかり、ズルいですよ。私達も食べたいです!」

「分かってますよクリスパさん。ちゃんと皆の分も買ってきますから」

「そんなカズさんに、ご馳走していただくなんて」

「あとは……楽しくなれる飲み物が欲しいわ」

「わ、分かってますよ。買って来ますから待っててください(クリスパさんは、全部俺に奢らせようとしてるな)」

 半ば強制的に、皆の食事を奢ることなった。
 スカレッタとルグルは、最初は申し訳なさそうにしてたが、クリスパには逆らえないこともあり、お酒が進むにつれて、気持ちが大きくなって、全く遠慮をしなくなってきた。

 ルグルさんはともかく、スカレッタさんは、第二のクリスパさんになりかねん。
 ただクリスパさんと違い、実力がある冒険者じゃないから、危ない目にあいそうなんだよな。
 これはアレナリアに言って、注意しといてもらおうかな。
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