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二章 アヴァランチェ編

89 前夜祭当日 昼間

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 今夜は一人で、気持ちを落ち着かせる為に、部屋で静かに寝ようとベットに横になったが、なかなか寝付けない……

 そりゃあそうだよ。
 いきなりキッシュとアレナリアを、なんて話になったんだから。
 二人のことは好きだけど、経験が無いのに、二人同時に相手をするなんて、どうしたらいいんだ!

 そういったことも、ソロプレイだったし、そういった職業の人達が絡み合ってる映像を、見たのを思い出して、参考にするしかないんだけど、大丈夫だろうか……不安だ。
 そういった行為の知識があっても、経験が無いから分からない。
 もうなるよう、なるしかないか……

 結局考えが纏まらないまま、いつの間にか寝てしまった。


 ◇◆◇◆◇


 収穫祭の前夜祭当日。

 起きて部屋を出たら、キッシュとアレナリアが既に起きていた。

「おはよう」

「お、おはようカズ」

「カズ兄おは…よう」

「三人とも、朝っぱらから今夜のことを考えていると疲れるから、一旦忘れて朝食を食べましょう」

 ぎこちない三人に、気を抜くように言ったクリスパだったが、お互いに意識して、ぎこちないのは消えなかった。
 そして朝食を食べ終わり、今日の予定をクリスパが聞いてきた。

「前夜祭は、夕方ぐらいから始まるみたいだけど、それまでアレナリアとカズさんは、どうします?」

「私はギルドで書類仕事を、片付けてしまうわ」

「俺もギルドに行って、早く終りそうな依頼を探すよ。キッシュとクリスパさんは、どうするの?」

「そうね……私とキッシュは、またマヨネーズでも作ってようかしら」

「そうだね。カズ兄が居る間に、完成させたいから」

「それじゃあ、俺とアレナリアはギルドに行ってくるよ」

「お昼までに、マヨネーズの試作を幾つか作って、それで昼食を作り持っていくわ」

「分かったわ。それじゃあ、お昼頃にギルドの資料に来て。カズと待ってるわ」

 今日の予定をお互い話したあと、俺とアレナリアは、ギルドに向かった。
 キッシュとクリスパは、新たな材料を買いに出掛けた。
 ギルドに着いたら、アレナリアは資料室に、俺は依頼書の貼ってある、掲示板の所に行った。
 依頼書を見ていると、受付のルグルに呼ばれた。

「カズさん、ちょっといいですか?」

「なんですか?」

「実は、急な依頼が入ってきたんですけど、カズさんにお願いしようかと」

「俺に? どんな依頼なんですか? 遠出ですか?」

「場所は生産区で、配達の依頼になるんですが、問題は運ぶ物が大量で、他の冒険者だと、かなりの人数が必要になってしまうので、それで……」

「そういうことですか。アイテムボックスが使えるからってことですね」

「はい。すみません急に」

「別に構いませんよ。それで、生産区のどこに行けばいいのですか?」

「東門より少し南側の、外壁付近です。端っこなうえに、中央広場まで運ばなければならなく、量も多いので、頼める人がいないんですよ。カズさんお願いします」

「分かりました」

「前夜祭に使う食材らしく、下準備をする時間がいるので、お昼までに届けてほしいとのことです」

 配達依頼をやることになり、ルグルから依頼書を受け取り、言われた生産区の場所に急いで向かう。
 東門より少し南側だと言っていたので、大通りを東門まで行ってから、内側を外壁に沿って、道を進むことにした。
 ギルドを出発して、目立たない程度に走って来たが、目的の場所に着くまでに、三時間も掛かってしまった。

 直ぐに依頼に話を聞いて、言われた食材を全て【アイテムボックス】に入れて、直ぐに中央広場へと戻って行く。
 今度は路地裏から、東門に続く大通りへと出て、先程より少し早めに走って行く。
 なんとかお昼までには中央広場に着き、指定された数件の建物へ、食材を届けることが出来た。

 間に合いそうになかったら、覚えたてのゲートを使って、アレナリアの家に移動しようかと思ったが、キッシュとクリスパさんが居るかもなので止めた。
 配達依頼が終わったので、ギルドに戻り報告をして、アレナリアが待つ資料室に行くことにする。

「ルグルさん。配達の依頼を、終わらせて来ましたよ」

「カズさんお疲れ様でした。無理言ってごめんなさい。それで間に合いましたか?」

「ええなんとか」

「そうですか良かったです。ありがとうございました」

「それじゃあ俺は、アレナリアの所に行きますが、スカレッタさんとルグルさんはどうしますか?」

「私達も昼食に呼ばれているので、これが片付いたら行きますよ」

「そうですか分かりました。俺は先に行ってます」

「はい」

 ルグルと一旦別れ、アレナリアが居る資料室に向かった。
 資料室に入ったら、アレナリアが一人居ただけで、キッシュとクリスパは、まだ来てなかった。

「アレナリア、書類仕事は終わった?」

「ええ。私のやる分は、終わったわよ」

「私のやる分は?」

「そうよ。ロウカスクの分は、しっかり本人にやらせてるわ。クリスパが居るから、真面目に仕事をしてるのよ。よっぽど奥さんに言われたら、まずいことでもあるのかしらね」

「さすがクリスパさんだ。色んな人の弱味を握ってるなんて」

「そうね。クリスパは、勘だけは鋭いから、直ぐに相手のまずい所を見つけるのよ。それもあって、今だに独り身のようだけど」

「クリスパさんが聞いたら怒るよ」

「本人も自覚しているから、いいのよ。クリスパにも、そういった部分を、受け入れてくれる男性が、現れたら良いのにね」

「余計なお世話よ!」

「わぁ! いつの間に来たのよ」

「今着いたとこよ」

「お待たせアレナリアさん、カズ兄」

「まったく待っている間に、そんな話をして。今のところ私より強くて、受け入れてくれる男性なんて、カズさんぐらいよ。そうだ! 私がカズさんの奥さんに、なろうかしら!」

「な、何を言ってるの! カズはあげないわよ」

「カズ兄は、私のカズ兄だから、クリ姉にはあげない!」

 カズの両腕に、キッシュとアレナリアが、それぞれ抱き付きいた。

「クリスパさん。そう言う冗談はよしてよ」

「あらあらごめんなさい。二人とも明るい内からもう始めるのかしら?」

 キッシュとアレナリアは、お互いに顔を見合って、恥ずかしてそうにカズから離れた。

「そろそろ、スカレッタさんとルグルさんも来る頃だから、その話は出さないでよクリスパさん」

「分かったわよ(でもカズさんの奥さんになりたいのは、少しは本気なんだけどなぁ)」

 クリスパが、からかうことを止めて一段落したとき、スカレッタとルグルが、昼食を一緒に食べるために、資料室にやって来た。

「お待たせしました。こちらに来る直前に伝言を預かっていたら、遅くなってしまって」

「ちょうど俺達も、話が終わったとこでしたから」

「あれ? アレナリアさんとキッシュさん、なんか顔が赤い様ですけど、熱があるんですか?」

「なんでもないわ。平気よルグル」

「なんでもないです。カズ兄と今夜……なんでもない!」

「えっ? カズさんが、どうかしました?」

「あぁー! なんでもないですよスカレッタさん。さぁ皆で、昼食を食べましょうしましょう!」

 キッシュは、また顔が赤くなり、それを見ていたクリスパは、クスクスと一人で笑っていた。
 その様子にスカレッタとルグルは、不思議そうな顔をしていた。
 スカレッタとルグルに、少し変に思われていたが、皆で昼食を食べ始めたら、いつものように、楽しく話しながら食事をしていた。

 昼食を食べ終わり、スカレッタが受付に戻る前に、さっき言っていた伝言を伝えてきた。

「そうだ! さっき話した伝言なんですけど、カズさん宛なんですよ」

「俺ですか?」

「はい。シャルヴィネさんの使いとかで『約束した物の試作品が出来たので、昼食を食べてからでいいので、来てください』とのことです」

「分かりました。確かに伝言を、受け取りました。ありがとうございます」

 スカレッタは伝言を言い終わると、待っていたルグルと一緒に、受付に戻って行った。

「ねぇカズ兄、四人で前夜祭に行くんでしょ?」

「大丈夫。そんなに時間は掛からないから、前夜祭が始まる前には、戻って来れる」

「それならいいよ」

「それじゃあ、私とキッシュとアレナリアの三人で、買い物に行って来るから、カズさんとは、夕方にギルドで合流しましょう」

「分かりました」

「買い物? 私も行くの?」

「そうよアレナリア。仕事は終わったんでしょ」

「何を買うの?」

「それは後のお楽しみ! キッシュも一緒に買うからね」

「なんだろう? 楽しみにしてるよクリ姉」

「それじゃあ、俺はシャルヴィネさんの所に行って来るよ。あ! その前に、クリスパさんとキッシュが作ったマヨネーズを、少し分けてもらえるかな?」

「いいよ。クリ姉もいいよね?」

「ええ。残り少ないけど、これ持っていって良いわよ」

「ありがとう」

 キッシュの承諾を得て、クリスパから試作品のマヨネーズを分けてもらい、シャルヴィネの店に向かうために、ギルドを出て行く。
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