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二章 アヴァランチェ編

83 からかい好きなクリスパさん

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 ◇◆◇◆◇

 収穫祭の前日まであと一日


 ……ん? 疲れがとれてないのか、なんか動きづらいな。
 それになんか『むにっ』と柔らかい物が……?

 目が覚めて、自分の状態を確認すると、アレナリアとキッシュだけではなく、何故かクリスパさんまでもが、俺のベットで寝ていた。
 まさかと思い、自分の下半身を見たが……大丈夫だった。
  三人を起こさないように、ベッドを抜けだし、静かに部屋を出て行く。
 椅子に座り一息付いて落ち着く。

 ふぅ~……三人共寝てて良かった。
 小さいながらも、立ってるのには、気付かれずにすんだ。
 でもなんで三人は、俺のベッドに入って寝てたんだ?
 アレナリアとキッシュはまだしも、クリスパさんまで、ベッドに入って来るなんて。

 ……そう言えば、昨夜寝てる時に、なんか近くで話し声がしてたっけな。
 あれは、部屋まで声が聞こえてたんじゃなくて、俺の寝てた部屋に三人が居て、小声で話してたのか!?
 でも部屋の鍵は、ちゃんと閉めといたはずだけど……?
 いくらアレナリアの家だからって、寝てる時の警戒心が低過ぎかなぁ?
 ……これは早急に改善のしないと、寝てる間に襲われそうだ。

「何か私達が、いかがわしいことを、したと思ってませんか?」

「わぁ! クリスパさん。起きてきたんですか」

「おはようカズさん。昨夜はよく眠れましたか?」

「え、えぇ」

「まぁ良かった! 私達の添い寝が利いたんですね」

「んぐっ。部屋の扉には、鍵がかかっていたはずなんですが?」

「ああ、あの程度の鍵開けなど簡単ですよ」

「いやいや、出来たとしても、やらないでくださいよ! 一応男の俺が寝てる部屋なんですから」

「寝ている部屋に、女性が入るぐらい良いじゃないの。男ならそんな細かいことを、気にしないの」

 細かいことって、襲う寸前の行動じゃないか!
 それを女性の口から言うかね。

「安心して、キッシュにも開け方を、教えといたから!」

「キッシュに変なことを、教えないでくださいよ!」

「そろそろ、キッシュとアレナリアも、起きて来る頃じゃないかしら。ほらカズさん、急いで朝食の支度しないと」

「さらっと話を変えましたね。分かってます。朝食を作りますよ」

 急かされて、アレナリアとキッシュが起きて来る前に、昨夜約束した朝食を用意する。
 食パンと卵は、朝食で使う分はある。
 ベーコンに使う肉は、まだ残ってはいるが、マヨネーズはこれで最後だ。
 キッシュとクリスパさんに、食べさせることが出来るから、良いとしよう。

 ゆで卵を作ってる間に、テーブルにポテトサラダを出して、切った食パンを置いておく。
 ゆで卵が出来たら、殻をむき細切れにして、残りのマヨネーズと、塩を一つまみ入れ混ぜ合わせて、出来上がり。
 あとは、ベーコンをカリカリになるまで焼いて、出来たら物をテーブルに持って行き、朝食の支度は終わり。

「へぇ~! これがカズさんが作った、朝食ですか。どんな味がするのか、楽しみだわ」
 
「料理と言えるような、物じゃないですけど」

「そんなことないわよ」

「それはど~も」

「それじゃあ私は、キッシュとアレナリアを、起こしてきますね。それともカズさんが、目覚めの口づけで、起こしますか?」

「朝っぱらから、そう言う冗談は、結構です!」

「二人は、喜ぶと思いますよ!」

「……」

「そんな黙らないでよ」

「もういいから、二人を起こして来てください!」 

「はいはい。分かったわよ」

 一晩たったら、クリスパさんのしゃべり方が、砕けた話し方に、なってきたな。
 でも、あまり親しく話されると、からかいも酷くなってくるから、多少は距離をおいて、他人行儀な方が良いかも。

「カズさん手伝ってあげたら」

「何を? ブッは!」

 クリスパに言われて、そちらを見る。
 そこには、眠そうに目元を擦り、服の胸元が、はだけた状態のキッシュが立っていた。
 キッシュから視線をそらしす。

「キッシュ寝ぼけてないで、しっかり起きて、そっちの部屋で着替えてきな!」

「ん~……なぁにカズ兄ぃ?」

「服が……」

「ふ…く……!? ひゃあ!」

 キッシュはやっと自分の格好に気付いて、胸元を手で隠し、着替えの置いてある部屋へと、入っていった。
 二人の反応を見て、クリスパは笑っていた。

「だからカズさんが、着替えを手伝ってあげれば、良かったじゃない」

「あまりからかわないで、ほしいんですが!」

「あら怒りましたか? それならお詫びに、体で払いましょうか!」

 クリスパが胸元を見せてきた。

「だから、朝からそういった冗談は、止めてって!」

「夜なら良いですか?」

「そうじゃなくて……(クリスパさんて、こんなキャラだったか?)」

「おはようカズ」

「アレナリアも起きて来たし、冗談はこのくらいにしときますね!」

 朝から凄い疲れた。
 リアーデで別れてから、いったい何があったんだ?
 素はこんな風に、からかう人なのか?
 そんなクリスパのことを考えていると、そこに着替え終わったキッシュが来た。

「えへへ……カズ兄見た?」

「み、見てない」

 キッシュから顔を背ける。

「見られちゃったか。まあカズ兄なら良いや」

「……ほ、ほら朝食出来るから、みんな座って食べよう」

「それじゃあ、飲み物は、私が入れてあげますね」

 クリスパが、ハーブティーを四人分入れて、それぞれの前に置いた。

「これがタマゴサラダで、こっちがポテトサラダ。好きな方をパンに挟んで食べて。こっちのカリカリのベーコン肉は、味が付いてるから、そのままで良いよ」

 アレナリアは、お気に入りのタマゴサラダをパンに挟み、タマゴサンドにして食べていた。
 キッシュとクリスパは、それを見て、同じ様に食べ始めた。

「んっ! これ美味しいよ。クリ姉!」

「あら、こっちのポテトサラダだったかしら? これも美味しいわよ。キッシュ!」

「喜んでもらえて良かった。使ったソースが、それで終わりだから」

「えっ! これに使ったソースが、無くなった!?」

 アレナリアが食べる手を止めて、固まっている。

「カズ兄、これどうやって作ったの?」

「私も知りたいわ」

「マヨネーズってソースを、混ぜ合わせるだけなんどけど」

「私そのソースの作り方知りた~い!」

「う~ん……」

「カズ兄駄目なの?」

「キッシュの頼みを、聞いてくれないなんて、カズさんが、そんな人だとは思っても……」

「ちょ、ちょっと待ってクリスパさん! 教えないんじゃなくて、マヨネーズを作る材料が、もう無いんです!」

「だったら今から、朝食を食べた後に、買いに行きましょう!」

「それが……この辺りでは、入手出来ない物なんですよ」

「いったいそれは、何ですか?」

「こちらでの名前は、分からないんですが、お酢という調味料なんです」

「お酢?」

「カズ兄お酢って何?」

「酸っぱい液体の調味料だよ」

「そのお酢が無いと、出来ないの?」

「お酢の代わりに、柑橘類の果物を使えば、出来るかもしれないけど」

「試してないんですか?」

「まだ試してないです。それに、マヨネーズの作り方はシャルヴィネさんに教えたので、上手くいけば誰でも買えるように、商品になる……かも」

「私それまで待てないよ~。だから作り方教えて。良いでしょカズ兄ぃ」

「それは良い考えね。どうせ収穫祭まで、私達には時間もあるから、その間に色々と、試せるし」

「クリスパさんもですか!」

「ねぇカズ、私もそれは良いと思うわよ! 出来たかどうかは、カズが帰って来てから、味見をして判断すれば良いじゃないの! それが良いわ!!」

「アレナリアが、食べたいだけでしょ」

「そ、そんなことは……」

 恥ずかしかったのか、アレナリアの顔が、少しピンク色になっていた。
 食後にキッシュとクリスパに、柑橘類を使ったマヨネーズの作り方を教えた。
 そして、カズとアレナリアはギルドに向かい、キッシュとクリスパは、マヨネーズを作る材料を買いに、市場へと向かって行った。
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