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二章 アヴァランチェ編

73 新たな商談 と 責められる者!?

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 頼んでおいたアクセサリーを受け取り、用事が済んだので、再度お礼を言って、部屋を出ようかと思っていたら、シャルヴィネがこの後の予定を聞いてきた。

「今のところお昼に、ギルドで約束があるだけですが」

「そうですか。まだお昼まで時間がありますので、少しお話を宜しいですか?」

「ええ、構いませんよ。それでどういった話で?」

「ちょっとしたことを聞きまして、冒険者ギルドの方が、変わったパンを食べていたと」

「パンですか」

「はい。なんでも『卵のような黄色のソース』が、挟んであったとか」

「それをどこで聞いたんですか?」

「私共の店にも冒険者のお客様が来ますので、そこで話してる内容を、ちょっと耳にした者がいまして、変わった物ならカズさん聞けば分かるかと」

「変わった物ですか……本当のところは、どこまで知ってますか?」

「その口振りでは、当たっていた様ですね」

「なんのことでしょうか」

「分かりました正直に話します。最初に言った、冒険者の方が話していたのを、耳にしたのは本当です。ただ、話に出てきたパンを、カズさんが冒険者ギルドの職員に渡してるのを、見ていたと言ってまして」

「……さすがは手広く商売をしてる方だ。情報が速いですね。いつかは知れわたると思ってましたが、既に」

「これは恐れ入ります」

「それで何が聞きたいんですか?」

「その現物が見たいのと、出来れば作り方を知りたいと思いまして。どうですか? もちろん代金は、お支払します」

 シャルヴィネさんの言ってるのは、タマゴサンドのことだろう。
 教えても構わないんだが、マヨネーズの大量生産が出来るか不明だからな……さてどうしよう……。

「分かりました。シャルヴィネさんには、いつもお世話になってますから。とりあえず現物を出します」

「そうですか。では今お皿を用意します」

 シャルヴィネが用意してくれたお皿に、今朝作ったタマゴサンドを【アイテムボックス】から出した。

「どーぞ。タマゴサンドです」

「タマゴサンド? ですか」

 シャルヴィネはパンを開き、挟んであるタマゴサラダを見てから、一口大にちぎり食べた。
 味を確かめるように、じっくりと食べていた。
 表情からして、大して驚いてはいないように思える。

「……」

「どうでしたか?」

「カズさん……」

 何この間は? 駄目なの? それともどこかで食べたことあって、盗作とでも思われた? 

「これは美味しいですね。女性や子供が好きそうな味ですよ」

「そうですか。お気に召したようで良かったです(あの沈黙はやめてほしいが)」

「食べた感じだと、パンはどこにでもあるような物ですね。中の卵は茹でた物と分かりますが……これに使われてるソースが」

「おっしゃる通り、パンは市販されている物です。中は、ゆで卵を細かくしたもので間違いないです」

「それで、これに使われてるソースは?」

「これはマヨネーズと言って、油 卵 塩 お酢を使って作った物です」

「材料はそれだけですか? それにお酢とは?」

「シャルヴィネさんでも知りませんか。知り合いの方から頂いた調味料なんですが、実際は違う名前かも知れませんが、これです」

 【アイテムボックス】から、マヨネーズが入った小ビンと、お酢が入った小ビンを取り出し、テーブルに置いた。

「見せていただいても宜しいですか?」

「こちらのお酢は、かなり刺激が強いですから、気をつけてください」

 シャルヴィネは、お酢が入った小ビンを受け取り、蓋を開けて中の匂いを嗅いだ。

「これは凄い酸っぱい香りですね。これを使うんですか?」

「ほんの少量だけですが。それで、そのお酢に心あたりはないですか?」

「このように酸っぱい香りがする調味料は、今のところ知りませんね」

「そうですか」

「それがないと、マヨネーズと言うソースは、出来ないんですか?」

「お酢の代わりに、柑橘類を使えば、まったく同じとはいきませんが、出来ると思います。ただ、何をどの程度入れたら出来るかは……」

「柑橘類を代わりにですか」

「ええ。どうしますか? 作ってみるようでしてたら、基本的な作り方を教えますが」

「喜んでやらせて頂きます。新たな物を作り出し売るなんて、商人としての心をくすぐります!」

「それでは作り方と、こちらに出したお酢と、マヨネーズの小ビンを、シャルヴィネさんに差し上げますので、色々と試してみてください」

「宜しいのですか? 貴重な調味料とソースを」

「マヨネーズ方は在庫がありますので、お酢はそれで最後ですから、シャルヴィネさんのお役に立ててください」

「それはありがたい。出来ましたら一番最初にカズさんに報告致しますので、その際は試食をお願いします」

「楽しみにしています」

「では商談成立と言う事で、このソースレシピの代金は後日で構いませんか?」

「別に良いですが」

「ソースが完成したら、カズさんにも商品のアイディアをお聞きしたいので、その時にまとめてお支払いと言うことで」

「分かりました」

「ありがとうございます。カズさんと関わっていると、商売に繋がる新しい発見が多くてワクワクします」

「根っからの商人なんですね」

「ありがとうございます。 私には最高の誉め言葉です」

 話を終えたら頃には、お昼間近になっていたので、シャルヴィネさんに、アクセサリーのお礼を言って、お店を出てギルドに向かった。
 お酢が無くなってしまったが、上手くいけば誰でも、マヨネーズを入手出来るようになるかも知れない。
 これはシャルヴィネさんに期待だな。
 さて、急いでギルドに行かないと、遅れたらアレナリアが怒りそうだからな。

 ギルドに着くと、昼食の時間に少し遅れてしまい、すぐさま資料室に向かった。
 資料室に入り中を確めると、アレナリアの他にスカレッタとルグルも居た。

「遅れてごめん。用事がちょっと長引いちゃって」

「カズさん、約束はちゃんとまもらないと!」

「そうですよ! サブマ……アレナリアさんが、カズさんは必ず昼食までに来るって、言ってたんですよ」

「うぐっ!」

「カズ、今朝話したの覚えてる? 昼食の時間までには、来るって言ったわよね!」

「……言いました」

「せっかくスカレッタとルグルを誘ったのに、昼食が用意出来てないなんて……どうせ誘った私が悪いのよ……」

「そんなことないですよ。アレナリアさんは悪くないです。カズさんですよ」

「そうです。今回はぜーんぶ、カズさんが悪いんですから」

 スカレッタさんとルグルさんが、アレナリアと打ち解けてるようで良いけど、もの凄い俺が悪者にされてる。
 確かに昼食の時間に少し遅れたけど、そこまで言わなくても……でも、いや。
 ここは素直に謝っておこう。

「アレナリアごめん。直ぐに昼食の用意するから」

「……」

「アレナリア。アレナリアさん」

「お腹空いたから早くしてよ」

 急いで三人分の昼食を出す。
 機嫌を直してもらう為に、タマゴサンドとポテトサラダ、今朝作った甘い厚焼き玉子と、カリカリに焼いたベーコン(薄い薫製肉)と、デザートに昨日のプリンを出した。

「さぁどうぞ。スカレッタさんとルグルさんも、好きな物を食べてください」

「アレナリアが好きな、タマゴサンドも作って来たよ」

「! タマゴサンドっ! こ、こんなことで許してなんか……美味しい」

 機嫌直ったかなぁ?
 食べ過ぎないように、一食分だけ出すって、言ったばっかだったのに、今それをしたら、余計に機嫌が悪くなるから、今回は時間に遅れた俺が悪いから仕方ないか。

「カズ」

「な、何アレナリア」

「飲み物は?」

「あ、私が入れますよ」

「ルグルいいのよ。カズが入れたいらしいから」

「え、でも……」

「ルグルさんいいですよ。俺が入れますから」

「苦いのも、渋いのも嫌よ」

「わ、分かった。甘い物が多いから、サッパリしたお茶を入れるよ」

「それなら、あの箱に入ってる物を使ってください」

「ありがとう。ルグルさん」

 アレナリア機嫌直ってないのかぁ。
 どうしたら機嫌が直るんだ?
 こんなに怒るなんて思わなかったよ。

「アレナリア、ハーブティー入れたよ。熱いから気を付けて」

「あつっ、熱いわよ!」

「いやだから熱いって」

「熱いの!」

「分かったよ。冷ませばいいんでしょ」

 これは機嫌が悪いと言うか、ただふてくされるだけの子供みたいだ。
 今日はおとなしく、言うことを聞いてた方が良さそうだな。
 スカレッタさん達と二度目の昼食で、こんなことになっちゃうなんて……二人にも後で謝らないと。

 気不味い雰囲気のまま昼食を食べ終わり、スカレッタとルグルは仕事に戻って行き、アレナリアは食べ過ぎとばかに、椅子にもたれ掛かっていた。

 これで機嫌が直ってくれたら、良いんだけどなぁ。
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