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二章 アヴァランチェ編

63 お裾分け と 俺探し?

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 お昼間近と言うこともあり、冒険者の殆どは依頼に出ていて、ギルド内の人は少ない。
 俺は受付で、アレナリアの居場所を聞いた。

「こんにちはスカレッタさん」

「こんにちはカズさん。今日は遅いですね」

「ちょっと用事がありまして、サブマスはどこに居ますか?」

「さっきは資料室に居ましたが、今はどうでしょうか? 居なかったらギルマスの部屋に居ると思いますから、行ってみてください」

「分かりました。それで話は変わりますが、昼食はまだですか?」

「これからですが」

「良かったらこれ、ルグルさんと食べてください」

「何ですか?」

「タマゴサンドって言います。ちょっと多く作り過ぎてしまったので、いつもお世話になってるお二人にお裾分けです」

「ありがとうございます。あとでルグルと一緒に食べます」

 スカレッタにタマゴサンドを渡して、アレナリア居ると思われる資料室に行く。
 資料室に着くと、一人で仕事をしているアレナリアが居た。

「アレナリアお待たせ」

「やっと来たか! それで私の昼食は?」

「ハイハイ今出しますよ」

 アレナリアの前にタマゴサンドを、一杯出した。

「これを待っていたわ!」

「よだれ」

「いふぁふぁくぅまふぅ」

 言う前に食い付いてるよ。
 ガツガツと他の人には見せられないな。

「アレナリア、他の職員が来るかも知れないから、もっとゆっくり食べた方が良くないか?」

「らいりょうふ……仕事の邪魔になるから、入って来ないように、言ってあるから」

「と言っても、入って来る人はいるよ。ほら」

「何を食ってるんだ!」

「んふぅ? ろうふぁくふぅ!」

「おいおい。どんだけ口に入れてるんだ!」

「ほっとけ、私の甘美な時間を邪魔するな!」

「これがアレナリアがハマってる食い物か? どれ一つ」

「あっ! 勝手に食べるな!」

「一つぐらい、良いじゃないか。これゆで卵か? ……旨いな! もう一つくれ」

「駄目だ! これは私の昼食だ!」

「良いじゃないかケチ!」

「なんだとロウカスクの分際で!」

「ちょっと二人共喧嘩しないでさ。ロウカスクさんにもあげますから」

 【アイテムボックス】から、タマゴサンドを出しロウカスクに渡した。

「なんだまだあるじゃないか! すまんなカズ君」

「あっ! 別にこんな奴に、くれてやる必要はないんだぞカズ」

「独り占めするなら、もう作ってやんないよ!」

「えっ! ひょ、ひょんな~」

「冗談だから、そんな泣きそうな顔しないでよ」

 まったく、アレナリアの素がこんなんなら、姿を偽ってなくても、ギルドの女性達と楽しくやっていけると思うけどな。
 まあいつか近い内に、分かり合える日が来るだろう。

「旨いなこれ! なぁカズ君、女房に食わせてやりたいから、作り方教えてくれ」

「ええ良いですよ。そう言えばお酢は、ロウカスクさんがアレナリアに渡したんですよね」

「お酢?」

「あの酸っぱいやつだ! 私に野菜を漬けろと言ったあれだ」

「ああ、オレがアレナリアにやったものだが」

「まだありますか?」

「少しだが残ってたと思うが」

「それを使います」

「何っ! だとすると、大した量は作れないのか」

「元は知り合いの冒険者に、もらったと聞きましたが?」

「そうなんだ。この辺じゃ中々手に入らない物らしいんだ」

「なんだと! おいロウカスク、もうあれが無いと言うのか! なんとかし……」

「はい。アレナリアはいいから、黙って食べてる」

 このあとギルマスに、一通りマヨネーズの作り方と、タマゴサラダの作り方を教えた。

「なるほど。そんに難しくはないんだな」

「なぁカズ、お酢……」

「分かってるから。それでロウカスクさん、もうお酢は入手出来ないんですか?」

「う~ん。そいつを持ってきた冒険者が来ないとな。オレには分からない」

「そうですか……あっ! そう言えば野菜を漬けて食べてるって聞きましたけど、少し分けてもらえませんか?」

「おっ! カズ君も興味持ったか! 残り少ないが良いだろう。これを教えてもらったからな。夕方にオレの所に来てくれ、用意しておく」

「分かりました。お願いします」

 ギルマス経由で、お酢の入手が難しくなってしまった。
 アレナリアに昼食を届けたので、俺は依頼を探しに、一階の掲示板を見に行くことにした。
 掲示板の前に立って貼ってある依頼書を見ていると、スカレッタとルグルが話し掛けてきた。

「カズさんご馳走さまでした」

「ご馳走さま。あんなの初めて食べました。とても美味しかったです」

「口にあったようで良かった」

「それで実は、気になる依頼が入ってまして、それをカズさんに聞きたくて」

「俺に?」

「はい」

 ルグルが言うには、人探しの依頼が来たのだが、その探し人の特徴を聞くと、どうも俺らしいのだ。

「いったい誰が俺を探してるんですか?」

「それが……観光で来てると思われる、貴族の方なんです」(小声)

「貴族? 俺にそんな知り合いは、いないけど」(小声)
 
「特徴からカズさんだと思い、依頼書を貼り出して無いのですが……どうしますか?」

 どうすると言われても、貴族なんかと関わり合いになりたくないし……

「会ったら何されるんでしょうか?」

「そこまでは分かりかねますが、ただ話を聞くだけだと言っていました」

「話ですか……分かりました。会ってみます」

「そうですか。それでは依頼人の方に、都合の良い時間を聞いておきますので、よろしくお願いします」

「はい」

 スカレッタとルグルは、それぞれの受付に戻り、俺は良さげな依頼が無かったので、お酢の変わりになる物を探しに、商店巡りに行くことにした。

 ぶらぶらと商店を見ていたが、やはりお酢は見付からなかった。
 そこであることを思い出し、人が来ない裏路地の隅っこに行き【アイテムボックス】から『スマホ』を取り出した。
 アイテムボックス内は時間が停止しているので、電池は残っており使えた。
 ただし電波が無いので通信は出来ない。(当たり前だ)
 以前メモに、マヨネーズを作る時に、お酢を使わずに作るやり方を、書き込んだことを思い出した。

 メモを見てみると、お酢の変わりに柑橘類(レモンやすだち)を使って作ると書いてあった。
 ただし日持ちはしないので、早目に食べた方が良いらしい。
 柑橘類なら、こちらの世界にもあるので、お酢が入手出来なかったら、それを使って試してみることにする。
 見終わったので、スマホを【アイテムボックス】に戻した。(電池は残り79%)

 とりあえず、柑橘類の売ってる店に行って、適当に買ってみるか。
 あとは色々と食料を買っておいて、他には……酒でも久々に飲むか。
 風呂にも入れそうだし、今日はのんびりするかな。
 酒の肴になりそうな物も買ったし、そろそろギルドに戻って、ギルマスに酢漬野菜を貰って帰ろう。

 夕方には少し早いが、ギルドに向かうことにした。

 そしてギルドに着き、新たな依頼書が貼り出されてないか、時間潰しで見ていると、スカレッタが慌てた様子でこちらに向かって来た。

「ハァハァ。カズさん丁度良かったです」

「そんなに慌てて、どうしたんですか?」

「昼間話した方が……」

「貴族の使いの方が来たですか?」

「いえそれが……本人が来てまして……」

「んっ? 本人と言うと?」

「カズさんを探してる貴族の方が来てまして、今ギルマスが相手をしているとこです」

「えっ! 本人が直接ですか!?」

「ギルマスの部屋に居ますので、直ぐに行って下さい」

「あ、はい。分かりました……」

 何で行きなり貴族が来てるんだ! 俺なにかやらかしたのか? 行きたくねぇー。

 嫌々ながら覚悟を決めて、ギルマスの部屋に行くことにしたが……やっぱり行きたくねぇー。(全然覚悟が出来てない)
 扉をノックをして、返事を待ち中に入る。

「失礼します」

「来たか。こちらの方々が、カズ君のことを探していると言ってな、夕方にはギルドに戻って来ると話したら、待っていると言われて、ここにお通ししたんだ」

「こんにちは。先日はありがとうございました」

「ありがとう……ございました」

「あれっ? あの時の!」

「やはり探し人は、カズ君であっていたようだな。まあ話を聞いたら、そうじゃないかとな」

「話?」

「こちらの御二人が絡まれている所を助けて、名乗らずに去ったと聞いて、おそらくカズ君だとな」

「そんな安易な」

「だがあっていただろ」

「うぐっ……確かに……」

「この度は、お嬢様方を助けて下さり、ありがとうございました。私くしは御世話役をしている『ジルバ』と申します」

「これはどうも。カズと言います」

「そしてこちらのお二人が」

「私は『デイジー』と申します」

「ぼくは『ダリア』です」

「本日は旦那様から、お礼と謝礼の方を渡すようにと、仰せつかっておりまして」

「私達もお礼を言いたくて、ジルバに付いてきたんです」

「本来はお屋敷の方に来ていただき、旦那様が直接お礼を申し上げたかったのですが、お仕事の関係で、今朝アヴァランチェを出発してしまったので、代わりに私くしが来させていただいたのです」

「そんなお礼だなんて、たまたま通り掛かっただけですから」

「何を仰いますか。御二人を救ってくれたのは事実ですし、旦那様も直接お礼が言えなくて、申し訳ないと仰っておりました」

「その気持ちだけで十分ですから、どうか頭を上げてください」

「ありがとうございます。それとこちらが旦那様からお預かりした、謝礼金となっております。どうぞお受け取りください」

「かえって申し訳ないです」

「当然の権利ですので、お受け取りください。持ち帰ったら私くしが怒らせてしまいます」

「それでは有り難く」

 貴族が来ていたから何かと思ったが、面倒事じゃなくて良かったと思い一安心した。
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