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二章 アヴァランチェ編

62 空腹のちびっ子

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 依頼を終えてギルドに着いたら、スカレッタがまだ帰らずに残っていた。

「カズさんお疲れ様でした」

「あれ? スカレッタさん。もう仕事は終わってるはずじゃ?」

「ギルドカードを、お渡ししようと思ったので待ってました」

「わざわざスカレッタさんが待っていてくれなくても、他の職員の方に引き継げば」

「カズさんに、お詫びもしたかったので」

「お詫び? なんのことですか?」

「先輩……ノシャックさんの宿屋を追い出されたと聞いたので」

「いや追い出された訳じゃないですよ。この時期にどこの宿屋も値上げして、観光客を相手にするのを、知らなかった俺も悪かった訳ですから」

「そんなカズさんは、何も悪くないです! 教えてあげなかった、先輩が悪いんです!」

「ところで、どこで俺がノシャックさんの宿屋を、出たことを知ったの?」

「カズさんがサブマスに頼んで、部屋を借りたって話を聞いて、おかしいと思い先輩に問い詰めたんです」

「ノシャックさんに、黙っててくれって言われたのが、無駄になったか」

「先輩が私に黙ってるようにって、言ったんですか!」

 あ……つい口に出してしまった。

「まあまあ。今は住む所もあるから、ノシャックさんをそんな責めないでやってよ」

「そうですか……まあ、カズさんが良いと言うなら」

 今のところ、アレナリアに何もされてないからだけど。

「それではこれが新しいギルドカードです。あと依頼の報酬も渡しますね」

「ありがとう。もう暗いから送ってくよ」

「そんな、依頼で疲れてるのに、悪いですよ」

「気にしないで。待っててくれたんだから、それぐらいは」

 新しいギルドカードと報酬を受け取ったあと、待ってくれていたスカレッタを、家の近くまで送って行った。
 それからアレナリアの家に帰る。

「ただいま」

「カズ、今日は遅かったわね」

「ああ、帰りにスカレッタさんを送ってきたから」

「なんだ私だけじゃ物足りずに、スカレッタを狙っているの」

 何を言ってるんだ、このちびっ子は?

「そんな訳ないでしょ。それに何が物足りずだよ。何にもしてないだろ」

「何かしても良いのよ」

「ハイハイ。おやすみ」

「えっ! 寝てしまうの? もう少し話し……あと食…事……」

 少々めんどくさくなったので、アレナリアの話を聞かずに、俺は借りている部屋に入った。

 今日は寝る前に空いている小ビンに、回復薬を魔力変換で出した水で、五倍に薄めてから詰める作業をする。
 ギルマスにも言われたのもあるので、誰でも持っている程度の、回復薬を用意しておくことにした。
 回復薬を小ビンに入れては薄めてを繰り返し、せっせと作業をする。
 そして詰める小ビンが無くなってしまったので、終了して寝ることにした。


 ◇◆◇◆◇


「……カズ起きてる?」

 扉をノックする音と、微かに聞こえてきた声で目が覚めた。
 起きて扉を開けると、アレナリアが壁に寄り掛かるようにして立っていた。

「どうしたの? アレナリア」

「……お……」

「お?」

「お腹すいた……」

「お腹すいたって、何も食べてないの?」

「昨日カズが帰ってきたら食事を作ってくれると思って、なにも食べなかったからそのまま……もう駄目」

「ちょ、ちょっとアレナリア!」

 空腹で倒れたアレナリアを、俺が今まで居たベットに寝かせて、急いで食事を作ることにした。

 この家に何か食べ物は置いて……あるのは茶葉だけか。
 アレナリアって、今まで食事はどうしてたんだ? まったく世話の掛かるちびっ子だな。
 う~ん……すぐに出来るのは、タマゴサラダが残ってるから、また同じタマゴサンドになっちゃうな。
 アレナリアは気に入ったみたいだから、良いんだけど……これからは買い溜めしとかないとな。

 とりあえずタマゴサンドを作って、あった茶葉で飲み物を用意してから、アレナリアをお越しに行く。

「アレナリア朝食出来たよ。アレナリア!」

「な~にもう朝?」

「寝ボケてないで、起きなよ」

「えっ! ここカズの部屋? 私を連れ込んで何をしたの?」

「何もしてないって言うか、空腹で倒れたから、一旦ベットに寝かせただけだ! ほらお腹すいたんでしょ」

「そうだったわね……カズの匂いがする」(小声)

 なぜかベットで『くんくん』してるけど見なかったことにした。
 しかし考えない様にしてたけど、アレナリアの行動がストーカーに見えて、背中がゾクッとした。

「お待たせカズ。何を用意して……タマゴサラダのパンだ!」

「タマゴサンドね」

「いただきま~ふぅ」

 言いながら食いついたよ。

「これよこれ! おいふぃい」

「そうかそうか。それは良かったな」

「カズもう一つ」

「それで終わりだよ」

「えっ! なんで、まだ一つしか食べてないのよ! 意地悪しないで頂戴よ!」

 アレナリアはテーブルを回り込んで、思いっきり詰め寄ってきた。

「意地悪じゃないよ。昨日作ったのはそれで終わりなの」

「じゃあまた作ってよ! あの酸っぱいのまだあるでしょ。全部あげるから早く作ってよ!」

「お酢はあっても、他の材料が無いから、買って来ないと出来ないの。ほら朝食も食べたんだし、ギルドに行こう」

「私まだお腹すいて動けないから、もう一眠りする。だからその間に作っておいて!」

「サブマスが何言ってるのさ。しかも自分の部屋に行かないで、なんで俺のベットに行くんだよ!」

「良いじゃないのよ。減るもんじゃないんだし」

「そんなことより、ギルドに行くよ!」

「やーだー! 一つじゃ足りない、お腹すいた! もっと食べたい!」

 ベットの上でジタバタと、完全に駄々っ子じゃないか。

「ハァー。分かった材料買ってきて作ってあげるから、ギルド行こうね」

「……いつ食べれるの?」

「お昼までには、持って行っくから」

「分かったわ。絶対にお昼までに持ってきてね!」

「あ、ああ……」

「それじゃあ私は、一足先にギルドに行って、仕事をしてるわね。お昼が楽しみだわ!」

 アレナリアは上機嫌で、ギルドへと出掛けていった。

 朝っぱらから、どっと疲れた。
 今朝のアレナリアは、いったいどうしたんだ?
  昨日何か嫌なことでもあったのか?
 ……今考えても仕方がない、とりあえず新鮮な鶏卵を買いって来て、タマゴサンドを作ってから、風呂場の掃除をしてギルドに行くか。
 その頃にはもう、依頼も少なくなっちゃってるだろうけどしょうがないか。

 朝の市場で目的の鶏卵とパン、それに色々な食材を買って家に戻り、マヨネーズとタマゴサンドを多く作って【アイテムボックス】に入れてストックしておく。
 アイテムボックス内は、時間が経過しない設定にしてるので、食料も腐ることなく便利で凄く良い!
 次は、お風呂場の掃除に取り掛かる。

 殆ど使ったことが無いようなので、誇りが溜まっているが比較的キレイだ。
 まず排水溝が詰まってないか、水を流してみたが、問題なかった。
 魔力変換で、魔力を水に変えて高圧洗浄機のように、室内を一気に流していく。
 次に魔力で風をお越し室内を乾かす。
 それでも汚れている所は、ダメ元で〈クリア〉の魔法を使ってみたら、効果があったらしくキレイになっていた。
 最初から使えば良かったと……いや便利過ぎると駄目になりそうなので、掃除ぐらいは、出来るだけ魔法に頼らないようにしようと思ったが、魔力変換を使っていては同じだと気付く。

 こうしている間に、お昼間近になって来たので、ギルドに行くことにした。
 ギルドが見えて来たら、ポピー達三人が出て来て、こちらに気付き声を掛けてきた。

「あれ? お~いカズさ~ん」

「やぁ」

「カズさんは今来たとこですか? 遅いですね」

「ちょっと用事があってね」

「私達は今から、依頼で都市の外に行ってくるんです。カズさんと行った時とは違い、数日掛かると思うんですがね」

「そうか。ボルタにワットも、ポピーをしっかり守れよ!」

「任せてください。ボク達だけでも大丈夫です!」

「オイラだって、装備も新しくしたから大丈夫だ!」

「過信は禁物だぞ! ポピーも無理しないように」

「はい大丈夫です。昨日サブマスに、魔法の特訓をしてもらいましたから」

「アレ……サブマスに?」

「はい。なんかサブマスに余計なことを言っちゃったらしく、最後の方なんかは足腰立たなくて……それで依頼に出掛けるのが、こんな時間に」

「何言ったの?」

「それだけ強くて綺麗なのに、今だに独り身なんですか? って」

 それで、今朝アレナリアの様子が、変だったのか?

「それとも一緒に住んでるから、カズさんと付き合ってるんですか? って言ってしまって」

 この娘は何を言ってるんだ? アレナリアが真に受けたら、俺にとっても危険な一言じゃないのか!

「付き合って無いから! 泊まる所が無くなったもんで、空いてる部屋を借りてるだけだし、その代わりに、食事を作ったりしてるけど」

「そうなんですか『あの冷徹のサブマスが、男と暮らすなんて!』とか、噂になってましたから」

 アレナリアには、聞かせられないな。

「でもそれは最初だけで、今はそんな噂は、ながれてないですがね」

「そうなんだ良かった。ああそうだ! これあげるから、お腹が空いたら食べると良い」

 【アイテムボックス】から、タマゴサンドを取り出し三人に渡した。

「ありがとうございます。これはパンですか?」

「ああ。タマゴサンドって言うんだ。長持ちしないから今日中に食べて」

「はい。じゃあ私達そろそろいきます」

「気を付けて」

 ポピー達三人を見送ったあと、ギルドへと入って行く。
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