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二章 アヴァランチェ編

59 一時期ハマった食べ物

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 ◇◆◇◆◇


 翌朝目覚めまわりを見たが寝た時と変わりなく、アレナリアの姿もなかったので、ホッと胸を撫で下ろした。

「何を警戒してるのよ」

「ア、アレナリアおはよう」

「ええ、おはよう。まさか私が何かすると思ったの?」

「ま、まさか。さすがにアレナリアでも、そんなことは、しないでしょうから」

「私でもって何よ! それに初日から襲うわけないでしょ」

「……んっ? 初日から?」

「そこは気にしなくていいから」

 数日経ったら襲われるのか!? あとで部屋の掃除する時に、鍵が掛かるかしっかり見ておかねば!

「それで、朝食はカズが用意してくれるのかしら」

「ああ朝食ね。ハイハイ、ただいま用意します」

 っと言ったものの……何かあるかな? アイテムボックス内のリストを出して見てみるか。

 アイテムボックスに収納されている物を、調べる為にリストを表示させる。

 う~ん……今から使えそうな食料は、食パンみたいなのと、生卵が10個にあとは……塩とオリーブオイル(似たオイル)がちょっとだけか……

「……! アレナリアお酢ってないよね?」

「お酢? 何それ?」

「えーと、酸っぱい調味料って言えばいいのかな?」

「あれかしら?」

「あるの?」

「何かそれで野菜を漬けて食べる料理があって、前にロウカスクが『簡単だし酒のつまみになって美味いから作って見ろ』って言って渡してきたのよ」

「それで作ったの?」

「一回だけ試しに作ったけど、酸っぱ過ぎて止めたわ。あ、あったこれよ」

 アレナリアから液体が入った小ビンを渡され蓋を開けたら、酸っぱい匂いでお酢だと直ぐに分かった。
 念の為に【鑑定】してみたら『酢』と表示された。

「これロウカスクさんから、いつ渡されたの?」

「最近よ。確か五日前だったかしら」

「じゃあ大丈夫そうだね」

「それ使うの? 私、酸っぱいのは嫌よ」

「ちょっと使うだけだから、まあ見てて」

 食器棚から大きめの器と、泡立てることが出来そうな物を使って、生卵に塩とオリーブオイルあとはお酢と。
 おっとこれを作る前に、別でゆで卵を作っておかないと。
 小さな鍋に水と生卵をそのまま入れて、火にかけておく。

 さてと、先ずは大きめ器に生卵の卵黄だけ入れ、そこに塩とお酢を入れる。
 それをよくかき混ぜて、後からオリーブオイルを少し入れてかき混ぜるを数回。
 器の中身がクリームのようになったら出来上がり『マヨネーズ』の完成だ!
 量る物が無かったので、目分量でやったけど大丈夫そうだな。
 卵白はもったいないので、小ビンに入れて【アイテムボックス】に入れておく。

 丁度ゆで卵も出来たので、殻を向いた後に細かく切って、空の器に入れてそこにマヨネーズを加えながら混ぜて『タマゴサラダ』の完成。
 余ったマヨネーズも小ビンに入れて【アイテムボックス】に収納と。

「アレナリアお待たせ」

「いったい何を作ってたの?」

「まあ食べてみて」

 テーブルにパンを出し、それにタマゴサラダを挟んでアレナリアに渡した。

「ゆで卵ってパサパサしてあまり好きじゃないのよね。でもこれは刻んだゆで卵に、何かのソースを加え混ぜた物のようね」

 食に興味ないとか言ってるのに、食べ物に関してはうるさいのか?
 もしかしてアレナリアって、食に興味がないんじゃなくて、ただの食わず嫌いじゃないのか? あっ! 食べた。

「……なんだこれは! 黄身がソースと混ざってなめらかになって、白身の食感とパンの柔らかさがいい感じで……美味しい」

 どこぞのグルメ番組の食レポかよ!

「この『タマゴサラダ』凄く良いわ! カズもっと」

「はいどうぞ」

「うまっ!」

 バクバクと朝からよく食べるな。
 俺も食べるか! 久々の『たまごサンド』だ!
 うんこれが良い!

 再度アレナリアを見ると、口いっぱいに入れて、まるで子供だ。

「そんな焦らなくても、ゆっくり食べたら」

「ほ、ほうね。わふぁひぃとふぃたこふぉが……」

「口に食べ物入れたまんま喋らないの。何言ってるか分からないし」

 アレナリアは一旦落ち着き、口の中に残っているのを、飲み込んでから喋り始めた。

「カズこれはなんだ? このソース全然酸っぱくないぞ!」

「酸っぱく? ああっ! お酢を使ったって言っても、ちょっとだけだから」

「こんなの食べたことないわ。……もう一つ」

「ちょっと待った!」

「何よ! 良いじゃないの!」

「食べ過ぎると太るよ」

「うぐっ! あと少しぐらいなら……」

「もう終わり」

「えぇー! あとちょっとだけ! お願い!」

「朝食は終わり。残りはお昼に食べな」

「ぶぅ~。分かったわよ」

 まったくもう、アレナリアってこんなに食い意地が張ってるのか。
 結構カロリーが高いんだけど。
 この世界でカロリーって女性は気にしてないのかな?
 そもそもカロリーなんて観点ないか。
 しかし自分が好きで、マヨネーズを自作までしてた作ったタマゴサラダが、ここで役に立つとはな。
 喜んでくれた様だから良かったけど。

「そろそろギルドに行きましょうか」

「一緒行くのは不味いでしょ」

「私は構わないけど……そうね、カズは後から来なさい。それと回復薬のことをロウカスクに説明するから、ギルドについたらギルマスの部屋に来て。受付のスカレッタに言っておくから」

「そうか回復薬のことを、話すんだった」

「あぁそうだ。これ家の鍵ね、戸締まり宜しく」

「分かった」

「フフッ。同居って楽しいわ。いっそこのまま……」(小声)

「えっ!?」

「な、なんでもないわ。先に行くわね」

 ……ギルドに行く前に、部屋の掃除と鍵がしっかり閉まるか確めないと。

 こうしてアレナリアとの同居生活が始まった。

 部屋の掃除を終え、鍵が使えるか確認してからギルドにやって来た。
 朝アレナリアに言われたので、受付のスカレッタに確認をとってからギルマスの部屋に行った。

「おっ! カズ君来たか」

「遅くなりました」

「なぁに、呼び出した訳じゃないから構わないさ。アレナリアから話は聞いた、回復薬を見せてくれないか」

 既にアレナリアが話していたらしい。
 俺は【アイテムボックス】から回復薬が入った小ビンを、一つギルマスの前に出した。

「これがそうか。見た目は、よく売っている物と変わらないな。どれどれ……」

 ロウカスクは自分の腕をナイフで少し切り、そこに小ビンの回復薬を直接かけた。
 すると傷はふさがり、傷痕もなくなった。

「聞いてはいたが……カズ君は本当に、これを作れるのか?」

「間違いないわ。私の前で実際に作ってもらったから」

「どこかに売ったりは、してないんだよな」

「はい」

「それで他人に使用したのは、依頼に行った三人だけと」

「ええ、そうです」

「カズ君、これから回復薬を使う時は、この都市で販売されている回復薬と、同じ効果程に薄めた物を使ってくれ。作ることを止めはしないが、ここまでの効果がある回復薬は、アヴァランチェには、殆ど無いからな」

「分かりました。気を付けます」

「数があるようなら、オレが仕入れたと言ってギルドで買い取るぞ」

「ありがとうございます。その時はお願いします」

「ああ。こちらも品質の良い回復薬が入るのは有り難いからな。それとこれは依頼の報酬と、水晶の買い取り代金だ」

 渡された布袋には、大金貨三枚と金貨が五枚(350,000 GL)入っていた。

「多くないですか?」

「今回は迷惑も掛けたってことで、上乗せしておいた。ところで、昨日スノーウルフを置いてくのを……」

「あっ! すいません忘れてました」

「まあ、急いでる訳じゃないらかいいんだが」

「今から素材引き取り所に持っていきます」

「そうか、なら頼む。それに一匹じゃないだろ!」

「……」

「カズ君が倒したのも、持って帰って来たんだろ」

「ありますけど」

「ならそれも買い取るがどうする?」

「う~ん……また今度にします」

「そうか分かった。なら一匹だけ渡してきてくれ。」

「はい。直ぐに」

「あっと待った! 素材引き取りの者に、大きい物だと言えば、裏の広い場所に案内されるから、そこで渡してくれ」

「分かりました」

 俺は一階にある素材引き取り部屋に行き、そこに居た人に大きい物だと説明したら、裏にある解体用の広い場所に案内された。
 直ぐに【アイテムボックス】から、ポピー達三人が倒したスノーウルフを出した。
 解体担当の人は、スノーウルフを見て驚いていた。
 どうやら何を持って来るとは、聞いていなかったようだ。

 忘れてた用事を終わらせたので、俺はもう一度ギルマスの部屋に戻ると、何やらロウカスクが、ニヤニヤしながら話し掛けてきた。

「で、昨日はどうだった?」

「何がですか?」

「アレナリアの所に泊まったんだろ」

「……宿無しになったので、頼んで新しい宿を見付けるまで、空いている部屋を貸してもらうだけですが」

 アレナリアを見ると、顔を横に振って言ってないという動作をしてた。
 昨日の今日で、なんでばれたんだと不思議に思った。
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