上 下
53 / 788
二章 アヴァランチェ編

48 入り組む先の見学場所 と 偶然の借り

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇


 翌朝起きても、手の違和感はなかった。
 魔力操作の練習をし始めた頃は、翌日になると、手の痺れが残っていたりしたが、今はない。

 今日から久々に、遠出の依頼を受けようかと思い宿屋を出るが、ギルマスから依頼を受けずに、ギルドに居るようにと、言われていたことを思い出した。
 仕方がないので、のんびりとギルドに向かうとする。

 道中歩いていると、なんだか肌寒くなってきたように思える。
 雪が積もる山脈が近いこともあり、もともと朝方などは冷えたが、最近になって、昼間も少し気温が下がったと実感するようになった。

 ギルドに着いたが、受付のある一階は、依頼を受ける冒険者達で混雑しているので、こっちからギルマスの部屋に行くとする。
 人の合間を見計らって、受付嬢のスカレッタに、ギルマスが用があるらしいので、ギルマスの部屋に行かせてもらうと、言ってから部屋に向かう。
 忙しそうだったが、スカレッタは分かったと、軽く会釈をして通してくれた。

 ギルマスの部屋に着き、ノックをしてから部屋に入るが、居たのはサブマスのアレナリアだけだった。

「おはようアレナリア」

「おはようカズ。今日は朝からどうした? 私に会いに来てくれたの」

「ギルマスは居ないんだ。まだ来てないの?」

「相変わらずの反応だな。私は寂しいぞ。ロウカクスなら、もうすぐ来るでしょう」

「アレナリアは、いつも早いね」

「家に居ても一人だからね。雑務でも、ギルドに居る方がましなのよ。カズという話し相手も居るしね」

「朝から暗いこと言わないの」

「昨日までは、カズに色々と教えることがあって、毎日が楽しかったわ。でも、もう終わってしまったのね……」

 なんか、俺のせいみたいな言い方されてるよ。
 しかも憐れんでくれと言わんばかりに、チラチラとこちらを見てくるしさ。
 アレナリアって、親しくなると、図々しいと言うか、わがままなんだよな。

「ねぇカズ、誰か私と一緒に、住んでくれないかしら」

「ギルマスに頼んだら」

「パーティーを組んでいたとき分かったが、あいつは、イビキがうるさすぎる。それに既婚者よ」

「へぇ~既婚者……既婚者なの!」

「なんだ知らなかったのか?」

「初耳だよ! 驚いたな。本人はそんな話、一度も話さないからさ」

「ロウカスクは、家庭のこと等は、殆ど話さないからね。いっつも早く帰るから、さぞ幸せなんでしょうよ」

 アレナリアは、ずっと一人暮らしみたいだから、やっぱり寂しいのかなぁ?
 今までの人生が、人生だから余計にか。

 その時、部屋の扉が開き、ギルマスのロウカクスが入ってきた。

「やぁカズ君、来ていたのか」

「おはようございます。一階が混んでいたもんで、こっちに来させてもらいました」

「ああ、構わないとも」

「それで、今日の用事はなんですか?」

「アレナリアの教えを終えたから、ソーサリーカードの作る所を、見せる約束だったろ」

「ずっと言って来なかったので、忘れられてると思いましたよ」

「しっかり覚えていたさ」

「それなら良かったです」

「それじゃあ、行こうか」

「はい」

「行ってくる間は、アレナリアにギルドの仕事を変わってもらうか」

「何を言っているのよ。いつものことでしょ」

「アハハハッ。これは耳が痛いな。じゃあ頼んだぞ」

「仕方ないわね。カズが頼んだことなんだし」

「ありがとうアレナリア。行ってくるよ」

「お礼は同居で良いわよ」

「考えておくよ」

「えぇ考えておいて」

 アレナリアと、たわいない言葉のやり取りを終えて部屋を出る。

 ギルマスに連れられて、ギルドを出て、入り組んだ裏路地を歩いて行くと、隠れるようにある扉を、入ることを数回、とある建物に着いた。
 ギルマスが合図をすると、隠し扉が開き中へ入る。
 中には数人の魔法師(魔術師)と呼ばれる人達が居て、幾つかの部屋で分担して作業している。

「ここでの見聞きは、他言無用で頼むぞ。カズ君」

「分かってます」

「それでだ、ここを見せる条件が、ここの者達に何も聞いてはならない。ってことになっていてな」

「説明なしですか」

「すまんな。本来は見せるどころか、この場所を案内するのも、ダメなんだがな」

「そんな大変な所だったんですか。それをわざわざ連れてきてもらって、ありがとうございます」

「時間も限られてるから、早く見ると良い」

「はい」

 作業をしている人達を、スキル【万物ノ眼】を使い、使用している素材や、使っている魔法にスキルなど、ありとあらゆることを、逃さないように、分析 鑑定していく。

 なんとか一通り見た頃に、ギルマスからそろそろ時間だと言われ、もう少し見たかったが、無理を言う訳にはいかないので、素直に見学を終えて、建物を出ることにする。

 帰りの道も何度か扉を通って、ようやく見覚えのある裏路地に出た。
 行きも帰りも幾つかの扉に、迷いの魔法が掛けれてたようで、何か特殊な方法じゃないと、あそこには行けないようだ。

 ギルトへの帰り道に、ロウカスクがアレナリアのことを話してきた。

「なぁカズ君」

「何ですかギルマス?」

「職員の前でもないんだから、ロウカスクで良い。それよりアレナリアなんだが」

「アレナリアが、どうかしましたか?」

「君は、どう思ってるんだ?」

「どうと言っても、親しい友人ですかね」

「そうか……異性としては、どうなんだ?」

「う~ん……そういう方向では、あまり考えないようにしてます」

「アレナリアに、何か不満でもあるのか?」 

「そうでは無くて……って、なんで急にそんな話に!」

「カズ君が来てから、アレナリアが明るくなったのは良いんだが、日が暮れてくると、以前よりも寂しそうでさ。帰ると一人になるからなぁ」

 『一人になるからなぁ』って、その言い方だと、アレナリアの差し金みたいなんですけど……

「……アレナリアは、もう長いこと一人暮しなんですか?」

「以前に、クリスパがこの都市にいた頃は、一緒に住んで居たが、それからはずっと一人だな」

「クリスパさんと住んでたんですか! そう言えば以前に、魔道具で通信していた時、何やら親しそうでしたね」

「気になるなら、本人にでも聞いてみたらどうだ」

「ロウカスクさんは、いつも話が急なんですから。そう言えば既婚者だと聞きましたが、お子さんは?」

「……」

「家庭のことは、話したくないですか?」

「まぁギルマスの地位に居ると、逆怨みなどで狙われることもあるからな。どこで誰に聞かれてる、かわからんしな。オレは良いが、家族に何かあったらと思うとな」

「なるほど。詮索してすいません」

「気にするな。よくあることだ」

「それよりも、ソーサリーカードを作ってる所が、あんなに厳重に警戒されているとは思ってませんでした。よく連れていって見せてくれましたね。かなり重要な場所だったんでしょ? 本当に見せて良かったんですか?」

「今回は特別だな。あちらさんもカズ君には、借りがあったからな」

「んっ? 借りを作った覚えは、ないんですが」

「ああ。カズ君は知らなかったか。前に住宅区で、盗賊の一団を倒したこと覚えてるか?」

「ええ覚えてますが、それが?」

「あの後に分かったことなんだが、そいつらが、暴発するような粗悪品の、ソーサリーカードを作ってる連中と繋がっていてな、ずっと探していたそうだが、中々見付からなくて、行き詰まってたところに」

「俺が倒した盗賊がってことですか」

「そうなんだ。お陰で、この都市で作ってる、ソーサリーカードの評判が、悪くならなくてすんだってことだ。しかも捕まっていた人達は、それを作る手伝いをさせられてたり、酷い場合には、カード使わせて、実験台にするとこだったらしい」

「酷い連中だったんですね」

「だからカズ君に、借りがあったってことさ」

「まったくの偶然だったんですがね。ロウカスクさんが上手く報告してくれたんしょ」

「オレは何もしてないさ」

「そういうことにしておきます。ありがとうございました」

「それとまだ言うことがあるんだが、それはギルトに戻ってからにしよう」

 ロウカスクと、たわいない話をしながらギルト戻り、そのまま朝に居たギルマスの部屋に行く。 
 ギルド内でも今となっては、俺がギルマスやサブマスのアレナリアと一緒に居ても、悪目立ちしなくなった。

 最初の頃は、毎回呼び出されてたから、他の冒険者や一部の職員からも、厄介者と思われたりして視線が痛かったが、他の人がやらなかった水路掃除の依頼をした以降、職員からの印象は良くなった。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順
ファンタジー
ある日、異世界と行き来できる『門』を手に入れた。 友人たちとの下校中に橋で多重事故に巻き込まれたハルアキは、そのきっかけを作った天使からお詫びとしてある能力を授かる。それは、THERE AND BACK=往復。異世界と地球を行き来する能力だった。 しかし異世界へ転移してみると、着いた先は暗い崖の下。しかも出口はどこにもなさそうだ。 「いや、これ詰んでない? 仕方ない。トンネル掘るか!」 これはRPGを彷彿とさせるゲームのように、魔法やスキルの存在する剣と魔法のファンタジー世界と地球を往復しながら、主人公たちが降り掛かる数々の問題を、時に強引に、時に力業で解決していく冒険譚。たまには頭も使うかも。 週一、不定期投稿していきます。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...