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二章 アヴァランチェ編

47 勉強会の終了 と 装飾品店

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 瞬く間に時は経過して、アレナリアから勉強を教わり始めて、あれから数十日が過ぎた。


 今日も朝からギルドの資料室で、アレナリアに勉強を教わっている。
 ただ毎日勉強の最中に、アレナリアはしつこく一緒に住もうと誘ってくる。
 最初の頃は一日一回だったが、ここ数日は二度三度と言ってくる。
 別に一緒に住むのが嫌な訳ではない。
 互いの部屋はあるので、一人にもなれるし、家賃もいらないと言うからありがたい。
 だか、ステータスが高ろうと、女性にたいしては、今一歩踏み込む自信がない。(いわゆるチキンだ)
 そして今日、その勉強が終わる。


「今日までで、一通りのことは教えたわ。更なる知識を求めるなら、今度は一緒に探究しましょう」

「そうだね。また二人っきりで一緒に」

「ようやくその気になってくれたのね。なら今日から一緒に住みましょ……」

「冗談はこれぐらいにして、俺は昨日受けた依頼の続きを、やりに行くから」

 アレナリアの言葉を、話半分で聞いて、俺は資料室を出ていく。

「カズったら最近、ああやって話を流すのよね」

「カズ君もアレナリアの扱いが、分かってきたってことじゃないのか」  

「そうなのかしら。って、ロウカクス! いつからそこに居たのよ」

「いつからって、アレナリアがカズ君に『そろそろ一緒に住んでも』とか『部屋は別々だから良いでしょ』などと、勉強の最中にしつこく誘ってた頃からだが」

「殆ど最初の方からじゃないの! ギルマスが、何を悪びれることなく、盗み聞きしてるのよ!」

「あえて言うなら、アレナリアの反応が面白いからに決まってるだろ!」

「ふざけるなっ! 仕事しろ!」

「はいはい。仕事に戻りますよ」

 ロウカスクは、やりかけの書類の確認仕事に戻った。
 アレナリアは、一人資料室で虚空を見つめ、カズを家に誘うのを、諦めようかと考えていた。

 その時カズは、指輪やブレスレットなどを加工する、装飾品生産工場の依頼を受けていた。
 作業は簡単で、ブレスレットにヤスリをかけてキレイにしたり、不良品がないか検品をする流れ作業のようなものだ。
 いわゆる、大量生産のお土産品だ。
 なんでも近日中に、アヴァランチェに観光で多くの人が来るそうだ。
 だから人手が足りずに、ギルドに大人数の依頼が来たらしい。

 俺は、アレナリアから教わる勉強が一段落ついたので、わざわざ近くの依頼を受ける必要がないから、この依頼は今日で終わりにする。

 依頼が終わったので、買い物をしに、大通りを、中央広場の方へ歩いて行く。
 すると偶然シャルヴィネに会ったので、女性に相手にプレゼントするなら、何か良さそうな装飾品はないか相談した。(依頼で作っていたお土産品ではなく)
 すると、お店まで案内してくれると言うので、お願いして連れて行ってもらった。

 案内されたのは、中央広場から少し路地に入った小さな装飾店で、冒険者が装備するような物も売っているお店だと言う。
 もちろん店のオーナーは、シャルヴィネだ。

 中に入ると、店長がシャルヴィネに挨拶して、何やら話をしている。
 数分後、カズの元にシャルヴィネが戻ってきて、店内にある商品を説明しだした。

「こちらで扱っている物なら、カズさんが求めている物があると思います」

「相変わらず、色々な品物を扱っていて凄いですね」

「ありがとうございます。それで、どのような品物をお探しですか?」

「常に身に付けていて、それでいて仕事に支障にならない、小さい物が良いですかね」

「それですと……指輪かネックレス、あとブレスレットはどうですか。でも贈る相手の、仕事にもよりますか」

「う~ん……」

「実物を見た方が良いでしょう。よろしければ冒険者用の装飾品(装備品)もありますよ」

「冒険者用ですか。どんな物があります?」

「見た目は、たいして変わりませんが、例えばこのように、イヤリングやネックレスの宝石部分が、少量の薬を入れることが、出来る構造になっていたりします」

「なるほど。そちらの指輪は?」

「こちらは、宝石部分が水晶で出来ていて、着けているだけで、自らの気配を、ほんの少し減少させる効果が備わっています。新人冒険者や狩人に、好まれる効果ですかね」

 そう言えば、水晶玉には魔法を込めることが、出来るとか言ってたな。
 水晶玉じゃなくても、水晶だけでも良いのかな?

「使用後に、水晶が消滅したりしませんか?」

「ソーサリーカードど違い、消滅はしません。ただある程度使用すると、効果が無くなります」

「効果が無くなるまでは、どの程度?」

「この指輪の効果は、装着者の魔力を使い、常に発動状態になりますので、外さなければ二日で効果が無くなります」

「と言うことは、効果を使用したい時のみ着けると?」

「そうです。狩などをする方が、気配を消したい場合、その時だけ着ける物ですね」

「効果が無くなると、ただの指輪ですか?」

「スキルや魔法で、水晶に『付与(エンチャント)』出来る方に頼むことが出来れば、魔法が再度使えます。私共でも、別料金で付与(エンチャント)するとことができますが」

「他に水晶を使った装飾品で、付与(エンチャント)されていない物はありますか?」

「それですと、装飾品に加工したあと、魔法を付与(エンチャント)する前の物ですかね」

「それはありませんか?」

「ないこともないんですが、契約した方以外には、本来は販売してないんです。でもカズさんなら良いでしょう。ただし身分証として、ギルドカードの提示と、書類にサインをお願いしますよ」

「分かりました。無理言ってすいません」

「カズさんなら悪用しないと思いますし、この都市に来てからも、噂は聞きますから」

「信用してもらえるのは嬉しいですが、噂ってなんですか?」

「少し前のことになりますが、中央広場から東南にある水路を、新人の冒険者が、一日で土砂を片付け掃除をしたとか」

「……」

「他には、私達がアヴァランチェに来た日に、住宅区で盗賊団を倒して、捕まっていた人達を解放したと。しかもそれが、見慣れぬ冒険者だったとか」

「…………」

「私は、それがカズさんだと思ってますが、どうですか?」

「人の噂って怖いですね」

「当たっていたようですね」

「かも知れないと、言っておきます」

「アハハハッそうですか。では、話はこのぐらいにして、ご希望の装飾品があるか、店長に聞いてきます」


 店の奥で、シャルヴィネと店長が相談をしている。
 話は終わり、直ぐにカズの元に戻ってきた。

「カズさん。お待たせしました。店長に確認したところ、現物が幾つかあると言うので、ご覧になってください」

「付与(エンチャント)前の物が、よくありましたね?」

「定期的に、品物を確認するのに、持って来てるそうです」

 奥から店長が、水晶に魔法が付与(エンチャント)されていない装飾品を持ってきて、見せてくれた。
 その中から一番安い指輪とブレスレットを、試しに買わせてもらって、プレゼント用は、次の機会にした。
 今回は試し品ということもあり、ギルドカードの提示も、書類にサインもしなくていいと言われた。
 シャルヴィネにお礼を言って別れる。

「シャルヴィネさん、今日はお忙しいところ、急にすみませんでした」

「構いませんよ。何かあったら、いつでも訪ねて来てください。それに、これから冷える季節になりますから、それ用の服をお求めなら、いつでもどうぞ」

「さすが商売人ですね。その時は、よろしくお願いします」

 シャルヴィネと別れて、ギルドに依頼終了の報告と、報酬をもらいに行くことにする。

 ギルドに着いて受付嬢のルグルに、依頼終了の報告と依頼書を渡して、装飾品生産工場に行っていた、五日分の報酬を受け取る。

 するとルグルが、ギルマスから伝言を預かっていて『明日は依頼を受けずに、ギルドで待っているように』と、言っていたと教えてくれた。

 伝言のお礼を言ってからギルドを出て、ノシャックの宿屋に帰ることにした。

「アレナリアとの勉強が一段落して、遠出の依頼を受けられると思ったのに。いったいなんの用だろう?」

「カズ。何をブツブツと言ってるんだ?」

「あ、すいませんノシャックさん。ちょっと考え事を」

「冷めない前に、食べてしまえよ」

「はい。いただきます」

 食事を待っている時に、考えてることが、声に出てしまったようだ。
 この癖がたまに出てしまうんだよな。
 せっかくの暖かい食事なのだから、冷めないうちに食べる。

 食後部屋に行き、寝る前の日課となっている魔力操作の練習をする。
 魔力変換で、各指ごとに、違う効果を同時に使えるよう練習中。
 右手は、人差し指からは『水』を、中指は『風』を、そして左手親指からは『火』を、小指からは『土』をと、使う指をかえて、一度に何種類ものことが、出来るようにしている。
 今はやっと四種類を、同時に使えるようになった。

 この操作が大変で、集中力を使うので結構疲れるので、三十分ぐらい練習したら、いつも寝るようにしている。
 今夜も同じように、練習してから寝ることにする。
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