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二章 アヴァランチェ編

38 素のアレナリア と ロウカスクのイタズラ

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「アレナリアさ…」

「いいの……里を出てから百年以上。人を欺(あざむ)き、今だに大勢の前では、姿を偽ったままで、冒険者ギルドで権威のある、サブ・マスターとしての地位に就いている私を……」

「アレナリアさん俺は別に…」

「分かっている。こんな話を聞かされたら誰だって……私になんか……」

 さっきから話を遮って、聞いてくれない。

「アレナリア聞いて。俺は君のことを、嫌いにならないから」

「……本当か? 私はずっと周りの者達に、魔法を使い、姿を偽って騙してきたんだぞ!」

「誰にでも、見せたくない部分はあるさ」

「こんなんだぞ! 同じエルフに比べて小さいし、それに……白い…し…」

「他の人(エルフ)と、比べてなくていいじゃないか。どの種族だって、大きい人もいれば小さい人もいるんだから。それに髪や肌の色だって、中にはそう言う人もいるさ」

「でも、でも私は異様と言われる『スノーエルフ』だし……」

 ……これは駄目だ、うつ向いたままだし、自分のこと話していたら、思い出して、意固地になっちゃっうパターンだ。
 なんか……昔の自分を見てるみたいだ。

 座り直し、うつ向いているアレナリアの方を見て話す。

「……それなら、気にしないって言ってる俺が、アレナリアさんのことを嫌いになって、もう会わない方が良い?」

 カズの言葉を聞いたアレナリアは、うつ向てた顔を上げ、真っ直ぐカズの目を見て話す。

「嫌! それは嫌だよ! この都市でロウカスク以外に、隠さずに会って話が出来るようになるカズに、嫌われたくないよ! これ以上隠さないで、話せる相手と会えないのは嫌やだぁ!」

「それじゃあ、俺には何も気にせずに、素のままで接してくれれば、良いじゃないか」

「……う、うん。分かった」

「そうか良かった」

「勝手にどっか行かないでよ」

「あぁ。アレナリアに内緒で、アヴァランチェから出て行ったりはしないから」

 アレナリアは目頭を赤くして、目に涙をため、小さな子供のように、べそをかいている。
 俺は、見ていたら愛おしくて、つい頭を撫でてしまった。

「あっ! ごめんアレナリアさん。つい」

「いやいい。別に嫌なではない、むしろ心地良いわ」

「そうか。アレナリアさんが嫌じゃなければ」

「カズ、その敬語はよして。他人行儀で、私は気にいらないわ」

「んっ? そうです……そうか、なら人前以外では、使わないようにする。それでいいかアレナリアさん」

「さん付けもよ!」

「分かったよアレナリア! でも他人行儀って言うけど、初めて会ってからまだ二日しか経ってないから」

「良いのよ。何だかカズ見てると、私と同じような気が……まさかね」

 ……この世界の女性は、ステータスに表示されないスキル『女の勘』が、みんなあるのか!?

 話を終えた頃、部屋の扉が開き、ギルマスのロウカスクが入って来た。

「いや~カズ君、アレナリアを任せてすまなかったな。話は終わったか? オレも仕事が一段落したから、戻って来たんだか」

「ロウカスクよ、タイミングが良すぎないか? 盗聴防止の魔道具は使っていたんだが」

「それならアレナリアが、ボケーッとしている間に、弱い効果の物と取り替えておいた」

「なっ!」

 アレナリアが置いてある布袋から水晶玉を取り出し、自分が常に持っている水晶玉と違う物だと気付く。 

「アレナリア駄目だぞ。冒険者として、自分の情報を相手に知られない為の、大事な魔道具を、取り替えられたことに、気付かないのは」

「ロウカスクお前、今までの話を全部」

「すまん聞いてた。正直オレは嬉しいよ。アレナリアが、全てを話せる相手が出来たことを」

「……ロウカスクありがとう。私も嬉しい」

「そうかこれで安心し…」

「覚悟は出来てるんだろうな! ロウカスク!」

「えっ?」

「私をからかうにもしても、今回はやり過ぎたな」

 アレナリアが壁に立て掛けてあった杖を、両手で正面に持ち、魔力を溜め、詠唱し始めた。

「おいアレナリア冗談だって、やり過ぎたと思うけど、何をやろうとしてるんだ!」

 アレナリアがブチ切れて、明らかに高威力の魔法を放とうとしているのが分かるので、止めに入る。

「アレナリア、たちが悪い冗談だけど、ギルマスも謝ってるから落ち着いて」

「……我が声の呼び掛けに答え氷雪の……」

「おいおいまずいぞ! 詠唱が終わっちまうぞ! アレナリア! アレナリアさん! すまん落ち着け! 冗談だって! カズ君頼む、何とかしてくれ!!」

 ダメだ、アレナリアまったく聞いてないぞ。
 仕方ない無理やりにでも、押さえるしか。

「ごめんアレナリア」

 アレナリアの後ろから、羽交い締めにして持ち上げる。
 驚いたアレナリアは、杖を落とし詠唱を中断して我に帰り、足をばたつかせる。
 溜めていた魔力は、霧散して消えた。

「カ、カズ何をしてるのよ!」

「正気に戻ったか」

「アレナリア冗談にも程があるぜ。ギルドごと吹き飛ばすきだったのか」

「ギルマスやり過ぎです」

「カズ君まで……すまん」

「大きな貸しにしときます」

「しっかりしてるな」

「私は許してないからな!」

 ギルマスの悪ふざけの処理も一段落して、話が終わった頃には、すでに昼になっていた。

「ねぇカズ、せっかくだから、昼食をここで一緒に食べよう」

「ああ構わないよ。なら何か買ってこようか?」

「いや大丈夫だ。おいロウカスク!」

「何かなアレナリア?」

「聞いてのとおりだ、昼食を食べるから、何か買ってこい!」

「何でオレが?」

「何でだと! よし外へ出ろ。先ほど撃ち込むはずだった魔……」

「わかった分かった。今すぐ買ってくるから落ち着け」

「なら良いでしょう。私とカズの二人分よ。もちろん支払いは、お前持ちで!」

「アレナリアそんなの悪いよ」

「カズ、庇うことはないの。ギルマス自ら行きたいそうだからな!」

「分かった。お詫びに、ご馳走すれば良いんだろ」

 渋々ながらも昼食を買いに出掛けたロウカスクは、これでもかと、大量に食べ物を買ってきた。
 それを見たアレナリアが、また怒こった。

「こんなに食べれる訳が無いだろう! しかもギルドの食堂から持ってくれば良いのに、わざわざ外まで買いに行って、お前は!」

「いつもギルドの食堂飯じゃあ、味気ないと思ってな、外に買いに行ってきたんだぞ。カズ君は男だから、いっぱい食べるれだろ」

「いや、さすがにこの量は」

「アレナリアもいっぱい食べないと、いつまで経っても、ちんちくりんのままだぞ」

「ロウカスクお前、全然反省してないじゃないか!」

「それじゃあ、あとはごゆっくりどうぞ」

 大量の食糧を置き、ロウカスクは逃げるように部屋から出ていった。

「まったくアイツめ。いつまで経ってもこういうイタズラをするんだから。冒険者上がりはこれだから。それでカズ、この量どうする?」

「とりあえず、食べる分だけ貰って、あとはギルド職員の人にあげようか」

「カズ言うなら、私はそれでいいよ」

「ギルマスから、皆への差し入れってことにすれば良いでしょう」

「ロウカスクのことなんか、気にしなくて良いのに。カズは優しいな」

「な、何を言ってるさ」

「カズも照れるんだね」

「誰か職員の人に、食糧を渡して来るから、先に食べてて良いよ」

 大量の食糧を持ち部屋を出て、ギルド職員に渡しに一階行くと、丁度スカレッタが居たので、さっき考えた理由を話し、大量の差し入れを渡した。

 部屋に戻ったら、アレナリアは昼食を食べてはいなかった。

「どうしたの? 先に食べてて良かったのに」

「食事は一緒に食べた方が、美味しいかなぁ~って」

 俺もご飯はずっと一人で食べてて、それが当たり前だったし、誰かと一緒に食べるようになったのは、こちらの世界に来てからだったな。
 俺なんかよりもずっと長く間、アレナリアも一人で、食事をしてたんだろうな。

「待っててくれてたの?」

「べ、別に先に食べてても良かったんだか、カズが一緒に食べたそうだったから、待ってたのよ」

 ほんと子供みたいだ。

「ぷっ。待っててくれてありがとう」

「何笑ってるの?」

「何でもない」

「本当?」

「さぁ、せっかく出来立てのパンを、買って来てくれたんだから、冷める前に食べようか」

 二人はパンを数個と、芋のサラダに、カズは鶏の唐揚げをとっておいた。

「アレナリアって言うか、やっぱりエルフとかって肉や魚は食べないの?」

「エルフはあまり生き物は食べないわ。私は生きる為に、食べるようになったが、好き好んで食べたりはしないわ」

「じゃあ俺が今、鶏肉を食べるの嫌だった?」

「別に何とも思わないわ。色んな種族を見てきたし、共に行動したこともあったから、もう慣れたわ」

「無理してるなら言ってくれ、アレナリアの前では、食べないようにするから」

「そんなに気を使わなくて良いのよ」

「そうか」

「フフフッ。カズって変わってるのね」

「そうか、変わってるか」

「気にさわった?」

「いいや、なんにも」

「やっぱり変わってて面白いわ」    
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