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一章 リアーデ編

23 依頼をこなしてランクを上げよう 9 飲んべい と 後始末

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 訓練場を後にして、クリスパさんとココット亭へ戻る道すがら、俺はちょっと気になったことを聞いてみた。

「クリスパさん、あの転移の魔法が込められてる水晶玉って、魔道具と言ってましたが、遺物(アーティファクト)ですか?」

「あれは違うわ。ソーサリーカードと同じような作りかしら。以前は訓練場に、転移のソーサリーカードか、転移できる人と一緒に行くしかなかったんだけどね」

「ソーサリーカードと同じでも、消滅はしないんですね」

「特殊な作りで、魔力も費用も凄いかかるみたいなの。だから、とても珍しい物なのよ」

「水晶玉を使う意味があるんですか? 硝子や金属とかでは?」

「硝子や金属類に比べ、魔力が安定して、内部に蓄積されやすいみたいなの。より大きくキレイな球体ほど、効果が良いらしいわ」

「水晶玉にそんな効果があるんだ!」

「私も詳しくは知らないけどね」

 話をしていたら、ちょうど酒屋の近くに来たので、カズは寄って行くことにした。

「クリスパさん、ちょっと買い物して良いですか」

「今から買い物ですか? 何を買うんですか?」

「今日ブレンデッドさんに言われたんですけど、俺のことでクリスパさんに、大変な苦労をかけたと。なのでお酒を一緒に飲んで、気晴らししてやれと言われまして」

「そんな、気にすることはないんですよ(ウフフッっ師匠もたまには良いこと言うじゃないの)」

 クリスパさん、多少は機嫌が良くなったかな。
 ブレンデッドさん、フォローはしときましたよ。

「それでクリスパさん、何が飲みたいですか? あまり高いのは、勘弁してくださいよ」

「カズさんの金銭事情は、だいたい分かりますから、安心して下さい!」

 財布を握られてるみたいで、これからが怖いな。
 しかも酒屋に入ってから、目がキラキラしてるんですけど。

「え~っと、この果実酒と、そっちの果実酒も、後は……あの麦酒も!」

「もしも~し、クリスパさ~ん。俺のお財布事情を、分かってるんじゃないんですか?」

「分かってますよ。分かってますとも! だから今日は、これだけにしますから」

「え? 今日は? これだけ? あの~」

「なんせ明日は、訓練場の後始末がありますから!」

「そ、それはブレンデッドさんが……」

「師匠の判断で、あーなったのは分かってますが、実際に穴だらけにしたのは、誰ですか?」

「うぐ、それはそうですが……」

「これで済むんだから安いでしょ。まだ新人冒険者なんだから、どんどん働きなさい。高ランクになるためには、お金も必要よ」

「それもそうですけど、そんなに働き過ぎなくても」

「何を言ってるよ。向上心は必要! だから、私が毎晩飲むお酒のために、がんばりなさい!」

「何ですとぉ! 勘弁して……」

「男が細かいこと気にしないの。さあ早く宿に戻って、義母さんの食事を摘まみに飲むわよ!」

「ほどほどにしてください(クリスパさんに頼ってばっかりいると、ランクを上げる前に、宿に泊まることすらできなくなってしまう。本当に俺の、金銭事情分かってるのかな?)」

 その後ココット亭に戻った二人は、夕食を食べながら楽しく? お酒を飲み、食後すぐに就寝した。 


 ◇◆◇◆◇


 翌朝はキッシュに起こされて、目が覚めた。

「カズさん起きてください!」 

「ん…あぁ……おはよう。キッシュ」

「クリ姉は、もうギルドに行きましたよ。昨夜は、だいぶ飲まれてたみたいですけど、大丈夫ですか?」

 この世界に来て、あんなに飲まされるとは……昨日買ったお酒、クリスパさん全部飲んじゃったし、毎晩なんか付き合えないぞ。

「まあ何とか。クリスパさんはどうだった?」

「いつもと変わらず、というか、いつもより元気でした」

「あれだけ飲んで、どーなってるんだか。キッシュは、ああなっちゃダメだよ」

「なりませんよ。でも、クリ姉見てたら楽しそうだったな。私はまだお酒飲めないし、飲むと楽しいのかな」

「飲むようになっても、ほどほどにした方が良いよ」

「飲むようになったら、そうします。さあカズさんも朝食済ませて、ギルドに行きましょうね」

「はいはい、分かりました」

 キッシュに急かされて、朝食を取りギルドに行くが、まだ頭がぼーっとする。
 毎度同じくギルドに着くと、クリスパがこちらに気付き、無言で『こっちに来て』と目線を送ってくる。


 依頼書を見たかったんだけど、受付行かないと。

「おはようございます。カズさん。早速ですが、ギルドカードを出してください」

「ギルドカードですか?」

 懐から出す動作をして【アイテムボックス】から出して、クリスパに渡す。

「では、今日一日預かります。夕方には渡せると思いますから」

「何をすんるですか?」

「あーそうでした。カズさんが、FランクからEランクに『昇格』しましたので、カードを新しくするために、一旦預かるんです」

「昇格ですか!」

「はい。なので今日は、街中での依頼を受けてください。というか、これをどーぞ」

 クリスパが、数枚の依頼書を渡してきた。

「どれとれ、建物の解体作業に、屋根の掃除と修理の手伝い」

「それをお昼までに終わらせて、ギルドに戻って来てください。では、行ってらっしゃい」

「え、あ、はい。行ってきます」

 言われるがまま、依頼をやる羽目になってしまった。
 とりあえず今日は、ギルドカードが無いから、街の外へ行く依頼は受けられないので、言われた依頼をやる。

 解体作業は、崩れかけた倉庫のため解体というよりは、破壊して良いらしいので、とっとと終わらせて、次の依頼に行った。
 屋根の掃除と修理は、依頼した人が腰を痛めてできないために、呼ばれたようだ。
 二件だけだったので、何とか昼までには終わり、ギルドへ戻ることができた。

「あらカズさん。依頼終わったんてすか?」

「ええ。終わらせましたよ、なんとか。 それで、午後から何があるんですか?」

「カズさん。ご機嫌斜めですか」

「説明もなしに、いきなり依頼書を渡されたあげく、短時間で終らせるとか、勘弁してくださいよ」

「依頼をどんどん回すと言ったでしょ」

「言ってましたが、時間キツキツに入れるのは、勘弁してください」

「覚えてはおくわ。一応ね」

「一応は困るんですけどって、聞いてますか!」

「今そんなことはいいの。午後は師匠と、昨日の後始末をしてもらいますから」

「えー! このやり取り、前にもあったか? クリスパさんが、何とかするんじゃないんですか?」

「後始末があると言っただけで、私がやるとは言ってません」

「そ、そんな(このようなやり取り、前にもあったような気が……?)」

「昨日の場所に師匠が居ますから、直ぐに行ってください」

「遠慮がないというか、どんどん本性が出てきたな」(ボソッ)

「な・に・を、言ってるんですか!」

「なんでもないです」

 カズはすぐさまギルドを出て、昨日行った建物へと向かう。
 中に入ると、ギルマスのブレンデッドが居た。

「お待たせして、申し訳ないです」

「なーに。オレもさっき来たばかりだからな、さっそく訓練場をなおしに行くか。でないと、クリスパが怒るからな」

「ブレンデッドさんが、あの程度大したことないって言ったじゃないですか!」

「クリスパに見つかる前に、すぐになおせば問題ないと思ったんだかな。ダメだったな」

「ハァー。師弟揃って、勘弁してください」

「まあ良いじゃない。さっさと片付けちまおう。魔力操作の訓練もかね)」

 話しが終わり、水晶玉に魔力流して、訓練場へ転移した。

「それで魔力操作の訓練とは、なんですか?」

「魔力適正を調べるときに、物質変換したのを覚えているか」

「物質変換? 火や水を出したりしたあれですか?」

「そうだ。カズ君はそれで、土の適正を調べるときに、砂を出したと聞いているが、どうかね」

「確かに土を出すより、砂の方が良いかと思って出しましたが」

「なら話は早い。外から修理用の土や砂を運ぶより、魔力変換や魔法で、出した方が早いからな。聞くからにカズ君は、魔力変換が得意そうな感じだからな」

「そうですか? あれ以来やってないんですけど」

「尚更訓練には、ちょうど良いじゃないか」

「……そうですね。やってみます」

 それから魔力操作と、魔力変換の訓練をかねて、土や砂以外に水も出し、穴を埋め戻していった。
 なんとか夕方までには終わり、ギルドへ戻ることができた。

「カズ君、お疲れさん」

「魔力変換もこれだけやると、思ってたよりキツいですね」

「魔法は使わずに、魔力変換だけで修理に必要な資材を出しちまうんだからな。まったく末恐ろしい」

 そう言えば魔力変換できる量は、せいぜい一握り程度の量だとか、火だと蝋燭の火程度って言ってたな。
 あんなに変換して出せるのは、やっぱり異常かなぁ?

「これからは、クリスパさんに怒られるようなことしないでください。と言うか、巻き込まないでください」

「つれないなぁ。今日はお疲れさん。ギルドカードを受け取ったら、帰えってゆっくり休むんだな。明日からは、一つ上のランクの依頼をやってみると良い」

 受付にクリスパの姿はなく、他の受付に居る女性職員からギルドカードと、午前の依頼報酬を受け取ココット亭に帰る。
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