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第1章:全てを司りし時計の行く末

1章20話 転入前日の準備

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「お兄さん、どうもこの透過効果は重量制限があるみたいにゃるね」

「ああ、そうみたいだな、マーニャ」

湊とマーニャは武器に時空間属性の魔力を込めると、投げた後に物体を透過する透過効果が発現することを確かめた。今度は武器以外の、例えば人間自体には適用できないかと考えた。
そのため、ミミに対して魔力を付加してオブジェクトに体当たりしてもらったり、色々試した結果、どうも軽い物体にしか透過効果が付与できないことが分かった。

「つまりこの短剣とか誘導鉄杭とか、数キロ程度の物体が透過効果付与の限度という訳か」

「そうみたいにゃるね、お兄さん」

しかしそれでも応用範囲は広く、あらゆる戦術が考えられる状況となった。

「俺が戦術上利用できるのは、残消転移、リバレット、そしてこの透過効果のある武器になる訳か」

湊は自身の考えられる戦術を頭で整理し、実際の転入試験を乗り切るピースを着々と揃える。

「お兄さん、この透過効果付与は僕の魔力を与えて発現するにゃる。お兄さんが頭の中でその量とタイミングを調整できるようにしておくから、存分に使うといいのじゃ」

いちいちマーニャに武器へ魔力付加をお願いするのは手間であるため、彼女は湊に使い勝手がいいように、感覚的にその付加の量・タイミングを調整できるようにしてくれた。

「よし、恐らく転入試験を乗り切るピースは揃っただろう。後は練習あるのみだな」

「お兄さん、どんどん強くなるね。え”へ、えへ、かっこいい……」

ミミは湊とマーニャの特異的な魔法に魅了されて、なんだか気持ち悪いとも考えられる奇妙なうめき声をあげていた。

「えへミミが出ちゃってるよ、ミミ……」

「あ、ごめん……お兄さん」

湊は、ミミが興奮した時に発する「え“へ⭐︎」や「えへ、えへ」などという、普段の彼女からは考えにくい顔と呻き声を放つ状態を「えへミミ」と呼称していた。
ミミが湊の魔眼に惹かれて、街で倒れていた彼を家に持ち帰った時も、時折この「えへミミ」が発現する時があり、どうもカッコいいものに惹かれて興奮する際にそれが現れるようであった。

もしかしたらチマルポXにより両性の呪いを掛けられたことによる二時的な副作用なのではと考えることもあるが詳細は定かではなかった。

「まあでも今日は転入試験のための練習をしたいから、もうちょっと付き合ってくれるか、ミミ?」

「分かった……お兄さん。大歓迎、えへ……」

分かったお兄さんと、ミミはダブルピースで了解の合図をしてみせた。


その後ミミは水属性魔法を使用しながら湊の対戦相手となり、夕方まで特訓を重ねたのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「湊きゅんとミミちゃん、今日は訓練場にいってたのかい?」

「そうだよ、クイーンハート校長」

仕事が片付いてきたのか、訓練場帰りの湊、ミミ、そしてマーニャの前にクイーンハート校長が現れた。どうも彼女は転入試験の詳細に関して伝えたいようであった。

「湊きゅん、転入試験に関してなんだけど」

「もしかして日程が決まったのか?」

「そうだよ、湊きゅん。明日に決まったよ」

「へ、明日!?早すぎだろおい!」

クイーンハート校長は突拍子もない発言を湊達にぶちかました。そう、転入試験が早速明日行われるというのだ。そのことに湊は困惑し、ミミも流石に早すぎると反論する。

「クイーンハート校長、流石にそれは、早すぎるんじゃ……。お兄さんも、心の準備が……」

「まあ早いっちゃ早いけど、お姉さん的には早く魔眼持ちの湊きゅんの保護をしたいし、何より今日の訓練場での身のこなしを遠目で見てたら、十分戦えるような気がしたんだよね⭐︎」

クイーンハート校長はどうも訓練場での湊とミミの戦闘練習を見ていたようで、その上で転入試験を明日開催すると決めたらしい。

「俺、魔法女学院の生徒と本当に戦えるのかよ……」

「湊きゅん、私が大丈夫と言ってるんだよ」

クイーンハート校長はどうも本気のようで、魔眼持ちの湊の保護を優先したいのもあり、明日転入試験を行うことは確定事項のようであった。

「クイーンハート、お前もなかなかに強引にゃるねえ、僕でも引くにゃる」

「まあまあ、マーニャ様も湊きゅんの判断力の高さは認識してるでしょう?」

「まあ確かにそうにゃるが……」

マーニャでもやや引き気味であるが、クイーンハートにやや押され気味で反論ができなかった。

「じゃあ湊きゅん、ルールを再度確認しようか」

「ああ……」

「ルールは簡単。湊きゅんは魔法女学院の2学年より選ばれた3人と1人ずつ戦ってもらう。例えば相手が立てなくなったり、降参した時点で試合は終了。簡単でしょ?」

ルールは非常に単純であった。選ばれた3人と1人ずつ戦って、ただ勝てば良いのだ。攻撃を当てて、もしも相手が戦闘不能になったり、降参した場合が勝ちの条件である。

「分かったよ、クイーンハート校長……やってやるさ」

唐突に明日の転入試験を聞かされた湊はやや困惑気味であるが、既に確定事項らしく、しょうがないと渋々同意した。

「ちなみに、対戦相手がどんな奴かってのは、教えてくれるのか?」

「内緒だよ湊きゅん⭐︎」

「だよね……」

対戦相手は勿論教えて貰えなようで、湊はますます魔法女学院の生徒とやり合うのが不安で仕方なくなった。

「大丈夫、お兄さんならきっと勝てるよ」

「ミミ、そうだといいけどな……」

「だって、リービル大森林で私を助けてくれたお兄さんだもん」

そう言って湊はミミの励ましに癒された。
また生徒達には今の段階では魔眼のことについて黙っておくように言われ、カラコンは手放さずに左目にはめておく。

明日行われる転入試験の話は終了し、湊とマーニャ、ミミは寮室へと戻った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さて、どんな生徒が俺の対戦相手になるのかな……」

湊は寮室に戻ってからも転入試験への不安を呟いていた。

「大丈夫、心配しなくても大丈夫だよ、お兄さん」

「そうかなあ……」

「うん、今日はゆっくり休もうよ、お兄さん」

ミミはそう言って時計を指差した。

「もう20時だから、お風呂に入りましょ?」

「ああ、確かに温泉の貸切時間は20時だから……って、なんでミミも一緒に入るみたいな雰囲気してるの?」

「えっ、ダメなの……お兄さん?」

ミミがレッドミミとなり、性格が積極的に変化、男性の物がお股に現れたあの時、彼女は湊のいる温泉へと突入してきた。しかしそれはあくまで普段の大人しいピンクミミからやや気性の荒いレッドミミに変化していたからあんな行動を行ったと考えていた。

しかし、どうも現在の完全に女性の状態であるピンクミミも、湊と一緒に温泉に入りたいようであった。

「まあいいじゃないにゃるか、裸の付き合いも大切にゃる」

顕現しているマーニャはミミを後押しした。

「でも……やっぱり女の子と一緒に温泉なんてダメじゃないか……」

湊はやはり別々にお風呂に入るべきだとミミに提案するが、本人はそれを頑なに拒否するようであった。

「お兄さん、私に恩があるよね……?」

「恩?」

「武器、買ってあげたでしょ……?」

ミミは湊に転入試験に備えて武器を買ってくれた。それを引き合いに出され、それを理由に湊に自身の提案を押し通そうとしてる。

「確かに、買ってもらったけど……」

「じゃあ、その対価……温泉に行こうよ?」

「うっ、それを言われると……」

ミミは湊に強引に要求を飲ませ、湊もまた渋々逆らうことができず、恩を仇で返す訳にはいかないと要求を飲み込んだ。

「ミミ、結構強引な所あるにゃるね……恐ろしい娘にゃる」

マーニャはやや引き気味にミミを恐ろしいと称して呟いた。

「じゃあそうだな、特別だぞ、ミミ」

「うん、お兄さん」

そう言って湊、マーニャ、ミミは再び2度目の温泉へと向かうのであった。

前回一緒に入った温泉では色々な騒動があった。ミミが両性の呪いを掛けられていて、元々は女性であるものの、状況により男性の物がお股に発現して、性格も激変する。その事実を知った湊とマーニャが困惑して、ミミとの間にいざこざが生じたあの一件。

あの時はゆっくり温泉を謳歌することができなかったが、今回は穏やかにゆったりできそうなそんな雰囲気があった。

「お兄さん、なんでさっきから目を隠してるの」

「いやいや、ちょっとバスタオルを巻いてくれないかな、ミミ!?」

現在湊とミミ、マーニャがいる魔法女学院構内の巨大温泉。一緒に入ることになった3人であるが、ミミはスッポンポンで現れたために湊は困惑していた。

「ん?なんか変かな……お兄さん?」

「ミミも鈍感な奴にゃるねえ。湊がミミの裸体に興奮してしまって、目を開けられないのにゃる」

マーニャがミミに助言した。

「お兄さん、背中流してあげる」

「へ!?何を言って――」

ミミはマーニャの言葉を気にせず、湊の手を掴み、シャワーの前まで連れていき、用意された椅子に座らせた。水魔法でお湯がシャワー状に散水されており、そこで身体を洗うことができた。

「恥ずかしいなら、目は瞑ったままでいいよ……お兄さん」

ミミは早速ボディーソープをつけて湊の身体を洗い始めて。

「ふあん、ミミ、まずいって!」

湊は逃げようと立ちあがろうとした。しかし、ミミはすぐに聞いたことのある魔法を詠唱した。すると、水でできた縄のようなものが出現し、それが湊を身体をガチガチに拘束したのだ。

「嘘だろ!動けない」

「もう逃げられないよ、お兄さん」

湊は以前にもこの拘束魔法をミミより喰らったことがあった。まさかこんな状況でそれが使用されるとも思わず驚いてしまった。

「楽しい楽しい入浴タイムを始めようか……お兄さん?えへ、えへ」

「ゆる、ゆ、ゆ、ゆるしてミミさん!!」

こうして湊とミミ、マーニャの2度目の温泉パラダイスが幕を開けたのであった。



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