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第1章:全てを司りし時計の行く末

1章5話 魔法女学院と校長

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「ここが、魔法女学院まほうじょがくいん……でけえ」

「へへへへ、お兄さん驚いてる」

湊とミミ一行は現在、ハーギルの誤解を振り切り魔法女学院の正門付近に到着した。道中、ミミとの会話もはずみ、2人の距離間が短時間でかなり短くなった。
湊のミミへの印象、それは初め清らかな静かな美少女であった。ピンク色のショートカットに美しい瞳、誰がどうみても可愛い少女そのものであった。

しかし、やや気掛かりなこと。それは……

「ミミ、距離感結構近くね」

「え”へえ”へえ”へ、そんなことないよお兄様」

「急に様付け?」

ミミはかなり距離感が近い。比較的物静かな少女に思えた当初の印象。しかし、気絶した湊を自室に招き入れたり、優しいのか、人との距離感が近いのか、警戒心がないのような印象も伺えた。
さらには、笑い方が清楚な少女のそれとはことなり、え”へえ”へ、といったようなやや奇怪な笑い方をする一面も見られるようになった。

「ミミの生態には謎が深まるばかり」

「変なこと言って、お兄さんは、もう」

「おい、急に肩を触ってきて、どうした」

「男性の身体付きしてるのね」

「それはそうだろ、男なんだから……」

「ふふ、それはそうだよね、お兄さん。え”へ⭐︎」

やや奇怪なやり取りを行う湊とミミを観察するハーギル先生。ハーギルがやれやれと首を横に振りながら、しかし何かコメントすることもなく正門を潜り抜けていく。
魔法女学院。その巨大な学院は見るからに魔法学校と言ったような見た目をしていた。

この水の都ウンディーネの名に恥じない、その圧倒的な水の質量。

「それにしても、魔法女学院……壮観だなおい」

「当たり前だろ、湊君。この水の都ウンディーネの優秀な魔法使いの育成学校なのだから」

湊は魔法女学院の大きさに見惚れた。さらには、学園内に超巨大な滝や噴水が存在し、学校の建物を渦巻くように水のトンネルが存在する。よく見ると、その中を生徒が移動しているのが見て取れる。街でも見かけたその水のトンネルによる移動手段は、この魔法女学院にも存在していた。

「さて、湊君。君のその左目の魔眼。私も見たことのない類のものだ」

「ハーギル先生、魔眼について詳しいのですか?」

「いや、特に詳しい訳ではない。しかしそんな私にも、その時計紋様の魔眼を見たら一目で異様であることが感じ取れる」

ハーギルから見ても湊の魔眼は異様である。特にハーギルは魔眼について詳しくないものの、素人目から見てもその奇怪さを認識するのだろう。

「さて、湊君。君には一度この魔法女学院の校長に会っていただく。校長室はこの先を抜けた所にあるが、一先ず事情を話してくるから待っていたまえ」

「分かりました。ハーギル先生」

「それと、さっきは君に無礼を働いて悪かった」

「いえ、そんなこと」

ハーギルは湊にとってとっつき難い性格の人物かと感じられたが、その印象とは裏腹に、素直で正直な一面も持ち合わせているようであった。
そんな些細な会話をして、ハーギルは校長室に入っていった。

「校長先生、お兄さんの入学許してくれるといいな」

「ミミ、結構俺の入学推してくれるよな」

「うん。だって私、お兄さんの魔眼に見惚れちゃったから」

「え?」

「私、かっちょいいの好きなの」

湊はミミから、かっちょいい、という言葉が出てきたのが意外だった。やや無邪気な男の子っぽい発言のようで、ミミのことがさらに分からなくなる。

「お兄さん、その魔眼の力はなんなの?」

「ああ、この魔眼の能力か……まあ、言ってもいいんだけど」

「教えてよ、お兄さん」

「まあ、今は色々立て込んでて、頭こんがらせちゃうから。後でな」

「む、意地悪」

ミミはぷくっと頬を膨らまし、意地悪と呟く。ミミは相当湊の魔眼に興味深々なようで、距離感が近いのもそのせいなのかもと感じてきた所であった。
そんなこんな会話している内に、早くもハーギルが湊達の元に戻ってくる。

「校長がお呼びだ、湊」

「分かりました、ハーギル先生」

「そしてミミ」

「ミミも入っていいの?」

「ああ。私は外で待っている。湊君とミミで校長と面談してきたまえ」

「え、ハーギル先生は来ないんですか?」

「ああ。校長は湊君とミミとだけ話をしたいそうだ」

校長はなぜか湊とミミとだけ会話することを求めているようで、ハーギルは校長室の外で待機するようだった。
湊はそうかと頷き、やや不思議に思いながらミミと校長室に入る。

「ここが魔法女学院の校長室……まるで雰囲気が違うな」

魔法女学院の校長室。湊は元いた地球の大学院の教授部屋を想像していたがまるで印象が異なる。
端的に表現するのなら、何かしら儀式を行うかのような神殿のような構造をしていた。一般的な学生の講義部屋が多く存在する中、そんな魔法女学院の一室である校長室が神殿のような内装をしていては、驚くのも当然である。

「あれれ、ちみが湊きゅん?」

「はえ?」

神々しい神殿のような広々とした校長室の最奥、立っていたのは……

「校長先生、もしかして生徒達からロリっ子呼ばわりされない?」

「むむ、初対面の相手にロリとはああ、君も度胸があるねえ、湊きゅん。お姉さん、怒っちゃうぞ」

湊が校長室の最奥に見つけたロリ。金色の豪華な長髪をしており、片手には魔導書らしき本を一丁前に持つその少女。世間は彼女のような人間をロリと表現する。

「湊きゅん。早速だけども、色々立て込んでるらしいじゃないかあ。その左目のこ、と、で♡。ハーギルに聞いたよ」

「ロリ校長……その、左目の魔眼について話したいのは俺もそうなんだけど。なんか、校長が思ってたのと違くて話入ってこないんだわ」

校長は厳格で威厳のある人物。そんな固定観念を湊は完全打ち砕かれ、やや目の前にいるロリ校長をバカにしつつある。

「まあ、気持ちは分かるけどお、そんなに見惚れられちゃ、興奮しちゃうよお姉さん」

「はあ、ミミ。これ、本当に魔法女学院の校長で合ってる?」

「ん。合ってるよ、お兄さん。正真正銘、魔法女学院の校長、クイーンハート校長だよ」

「豪華な名前だなおい」

クイーンハート、それが魔法女学院の校長、否、湊の前に佇むロリっ子の名前であった。

「ごほん。まあ、なんだ。ロリっ子なんて表現して悪かった。俺の相談に乗ってくれるようで、素直に感謝するさ。ぷふ」

「ちょっと湊きゅん。レディーに、しかもこの校長にその態度とはあ……まあよい、こっちに来たまえ」

湊は先程からクリーンハート校長を小馬鹿にしており、しかし慣れているのか当の本人はそんなには怒らない。しかし一方、やや神妙に顔つきに変わったようにも感じた彼女は、湊を呼びつける。

湊は流石にこのままずるずるとこの雰囲気を続けるのも悪いと思ったのか、素直に彼女の元に歩み寄る。

「湊きゅん、君がこの魔眼を手にしたのはいつから?」

「1日前?」

「君は何歳だい?」

「37歳」

「ふっ」

クイーンハート校長は何やら神妙な顔つきで、しかし愛おしげにその左目を見つめる。

「湊きゅん、君、マーニャとは喋ったか?」

湊は唐突にクイーンハートから飛び出すマーニャというワードに意識が向く。

「マーニャ?」

「そうさ、マーニャさ。湊きゅん」

「どこかで」

「そう、ゆっくりで良い。思い出すのだ、湊きゅん」

「は!そうだ、あれは」

湊がマーニャという単語を複数口ずさんだあと、記憶の彼方、その言葉の出所を電光石火のごとく思い出し……

「俺、そいつに腹パンして遊んだ」

「はえ?冗談か何かかい、湊きゅん?」

そうだあれはと湊は記憶を探る。異世界転移したばかりでこの街のこともよく分からず、探索している最中に気絶して倒れ込んだ。ミミの家で覚醒するまで、湊はとある夢を見ていたことを思い出す。

「あれは、白髪、猫耳、ジト目のロリだった」

「マーニャだねそれ……」

クイーンハート校長は呆けた顔で呟く。

「語尾がにゃる、なんて猫語で……」

「いやだからそれマーニャだよ、湊きゅん……」

「ついつい夢だからと、腹パンして、ロリ虐して……」

「なあにしてんじゃ貴様あ!」

クイーンハート校長は顔面蒼白になり、倒れるように項垂れたかと思えば、涙目になりながら湊を糾弾する。

「おまおま、お前えええ!時空の魔神、マーニャの機嫌を損ねたらどうするんじゃあああ!」

とうとう辛抱たまらんと、校長は湊に泣けさんだ。当の湊はなぜこんなにも校長が慌てているのか分からない様子で、しかしだんだんと何かまずいことをしてしまったのかと校長を見つめる。

「え、だってあれは夢で」

「湊きゅん、確かに本来夢では何してもいいかもしれないけども」

「もしかして俺、変なことしちゃった」

「いや、どうだろうか……いや、当の本人が嫌がっていなければよいの……か?」

湊のマーニャ(夢の出来事)への腹パン宣言を、本人が嫌がっていなければ良いのかと校長は開き直りそうになった。しかし、そんな会話に耐えかねたのか、第三者が口を挟む。

「クイーンハート。お兄さんの腹パンをこの僕が好んで受けたとにゃ?痛かったぞ、湊よ。殺そうかと思ったぞ……にゃる⭐︎」

湊とクイーンハートとの会話に突如として現れた第三者の存在。そこにいたのは、

「あ、俺の夢に出てきたロリ」

「マ、マーニャ様!やはり、生きておられたのですね!」

マーニャと名乗った人物がそこに立っていたのだった。









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