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明治維新編10 大阪会議
大阪会議(5)
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次の日、馨は大阪行きの船に乗った。
部屋に荷物を置くと、食堂室に向かった。陸奥からの文によると、食堂室で知り合いにあったかのように振る舞いたいとあったからだ。
食堂に行き、見回すとそれらしい二人組は、まだ見当たらなかったので、ブラックティーとスコーンを頼んだ。
「井上さんですね。小室と古沢です」
不意打ちのように声をかけられた。
「井上馨です。小室くんと古沢くん。よろしく」
「あぁすいません。僕らも同じものを」
すぐに、ふたりにもブラックティーとスコーンが運ばれた。
「井上さん、本当にイギリス帰りなんですね。ここのメニュー日本茶もあるんですよ。それでもティーとスコーンを頼む人、それほど多くないですよ」
小室が気さくに話しかけていた。
「小室くんも古沢くんもイギリスか」
「そうです。政治学です。コンスチチューショナル・モナーキーと言ったことを」
古沢が答えた。
「政府の目的を立てるのに、法を重んじる方法を取る。つまりは立憲政体だな」
「そうです。それで、板垣さんに目をかけてもらって、民撰議院設立建白書に関わることになりました」
「板垣さんともつながりがあるんだな」
「井上さんは木戸参議の右腕とお聞きしてます。僕たちで面白いことができると思います」
「まぁ、ティーも冷めてしまう。ゆっくり飲もうじゃないか」
馨はそう言って、二人に笑いかけた。
ゆっくりとティーを飲みながら、イギリスのことを馨は聞いていた。
「僕らは初めてロンドンに住んだ日本人なんでな、本当に何をしたらよいかわからなかった。だが、東京の水もテムズ川につながっていることを、体験できたのは忘れられん」
「海国兵談ですね」
小室が言った。馨は気分よさげに笑っていた。
「よう知っとるな。一緒に行った連中は知らんかったよ」
「そうですか。それは寂しかったですね」
「まぁそんなもんだろう。続きは夕食後わしの部屋に来てくれ」
「わかりました。夕食もまたここで」
小室と古沢はそう言って、別れていった。
イギリスか、一年もいられなかった。また来るぞと思っても、その機会は来なかったな。それなのに俊輔はアメリカと欧米周遊したんだ。こっちはいくら取引をしても、あちらに行くのに、金がかかりすぎて行けないのに。行けるようになるくらいの規模にするのだと決心した。
船の甲板に出て、夕日を楽しんだ。天気の良い日の水平線に沈んでいく夕日は美しいと思った。
さて、もう夕食だ。馨は一度部屋に戻り、ディナー用に服装を整えるとレストランに向かった。そして、小室と古沢と合流すると、ティタイムと同じように三人で気楽な世間話をしながら食事を楽しんだ。
「それじゃ。部屋に行こうか」
馨は二人を連れて、自分の部屋に行った。
「ウイスキーはどうかな」
馨は盆にのせたウイスキーとグラス、水の入ったピッチャーをテーブルに置いた。
「井上さん、ストレートではすぐに酔っ払ってしまって、話ができないですよ」
「まぁ水だが用意はしちょる」
「自分で薄めて飲みます。いただきます」
「わたしも少しづついただきます」
「おういい心がけだのう」
馨が嬉しそうに言った。
「なかなかウイスキーを、飲むものに会えなくて残念だったんじゃ」
笑顔をひっこめた馨は、真摯な目をして二人にしっかり聞かせようと話しかけた。
「それで、話と言うのは、僕は土佐の民権派と組めるのであれば、手を組みたいと思っている」
「井上さん、それはつまり、板垣さんと木戸さんを組ませるということですか」
「そうじゃ。大久保さんや大隈達と対抗していきたいのだ」
「ですが、たとえば僕らと井上さんは妥協できても、木戸さんと板垣さんが妥協できるのかわからないと思います」
「僕は君たちと組むことができれば、あっちの二人もできると思っておる」
「最終的には、木戸さんと、板垣さん、大久保さんの三人で大阪あたりで会合を持つことになる。そこで、立憲政体について道筋をつけたいんじゃ」
「それで、土佐からは私達がピックアップされたということですね」
小室は古沢と顔を合わせ、頷きながら言った。井上馨に声をかけられた意味、これがやっと腑に落ちた。
「そうじゃ。君たちの急進性と僕たちの漸進性をうまく折り合いをつけるようにしていきたい」
「わかりました。板垣さんにうまく持っていこう思います」
「木戸さんは下野されてから山口に引き籠もっているとか」
「山口で、士族授産の仕事を張り切ってやっている。ただ中央の政治の力を実感しているかもしれないしの」
「良い話と、久しぶりのウィスキー、とても楽しかったです。今度は板垣さんを連れて、大阪あたりでお会いしましょう」
小室がそう言うと、古沢も続けて言った。
「立憲政体の道筋づくり、かならず我々でやっていきましょう。これからもよろしくおねがいします」
「これは、僕もやらんといけんな」
馨は笑いながら、二人と握手をして部屋から送り出した。
これは久々に元気をもらったな。まだ情熱を信じられた頃に気持ちが戻るようだった。馨は考えたことが形にできそうで、ワクワクしている自分を感じていた。
部屋に荷物を置くと、食堂室に向かった。陸奥からの文によると、食堂室で知り合いにあったかのように振る舞いたいとあったからだ。
食堂に行き、見回すとそれらしい二人組は、まだ見当たらなかったので、ブラックティーとスコーンを頼んだ。
「井上さんですね。小室と古沢です」
不意打ちのように声をかけられた。
「井上馨です。小室くんと古沢くん。よろしく」
「あぁすいません。僕らも同じものを」
すぐに、ふたりにもブラックティーとスコーンが運ばれた。
「井上さん、本当にイギリス帰りなんですね。ここのメニュー日本茶もあるんですよ。それでもティーとスコーンを頼む人、それほど多くないですよ」
小室が気さくに話しかけていた。
「小室くんも古沢くんもイギリスか」
「そうです。政治学です。コンスチチューショナル・モナーキーと言ったことを」
古沢が答えた。
「政府の目的を立てるのに、法を重んじる方法を取る。つまりは立憲政体だな」
「そうです。それで、板垣さんに目をかけてもらって、民撰議院設立建白書に関わることになりました」
「板垣さんともつながりがあるんだな」
「井上さんは木戸参議の右腕とお聞きしてます。僕たちで面白いことができると思います」
「まぁ、ティーも冷めてしまう。ゆっくり飲もうじゃないか」
馨はそう言って、二人に笑いかけた。
ゆっくりとティーを飲みながら、イギリスのことを馨は聞いていた。
「僕らは初めてロンドンに住んだ日本人なんでな、本当に何をしたらよいかわからなかった。だが、東京の水もテムズ川につながっていることを、体験できたのは忘れられん」
「海国兵談ですね」
小室が言った。馨は気分よさげに笑っていた。
「よう知っとるな。一緒に行った連中は知らんかったよ」
「そうですか。それは寂しかったですね」
「まぁそんなもんだろう。続きは夕食後わしの部屋に来てくれ」
「わかりました。夕食もまたここで」
小室と古沢はそう言って、別れていった。
イギリスか、一年もいられなかった。また来るぞと思っても、その機会は来なかったな。それなのに俊輔はアメリカと欧米周遊したんだ。こっちはいくら取引をしても、あちらに行くのに、金がかかりすぎて行けないのに。行けるようになるくらいの規模にするのだと決心した。
船の甲板に出て、夕日を楽しんだ。天気の良い日の水平線に沈んでいく夕日は美しいと思った。
さて、もう夕食だ。馨は一度部屋に戻り、ディナー用に服装を整えるとレストランに向かった。そして、小室と古沢と合流すると、ティタイムと同じように三人で気楽な世間話をしながら食事を楽しんだ。
「それじゃ。部屋に行こうか」
馨は二人を連れて、自分の部屋に行った。
「ウイスキーはどうかな」
馨は盆にのせたウイスキーとグラス、水の入ったピッチャーをテーブルに置いた。
「井上さん、ストレートではすぐに酔っ払ってしまって、話ができないですよ」
「まぁ水だが用意はしちょる」
「自分で薄めて飲みます。いただきます」
「わたしも少しづついただきます」
「おういい心がけだのう」
馨が嬉しそうに言った。
「なかなかウイスキーを、飲むものに会えなくて残念だったんじゃ」
笑顔をひっこめた馨は、真摯な目をして二人にしっかり聞かせようと話しかけた。
「それで、話と言うのは、僕は土佐の民権派と組めるのであれば、手を組みたいと思っている」
「井上さん、それはつまり、板垣さんと木戸さんを組ませるということですか」
「そうじゃ。大久保さんや大隈達と対抗していきたいのだ」
「ですが、たとえば僕らと井上さんは妥協できても、木戸さんと板垣さんが妥協できるのかわからないと思います」
「僕は君たちと組むことができれば、あっちの二人もできると思っておる」
「最終的には、木戸さんと、板垣さん、大久保さんの三人で大阪あたりで会合を持つことになる。そこで、立憲政体について道筋をつけたいんじゃ」
「それで、土佐からは私達がピックアップされたということですね」
小室は古沢と顔を合わせ、頷きながら言った。井上馨に声をかけられた意味、これがやっと腑に落ちた。
「そうじゃ。君たちの急進性と僕たちの漸進性をうまく折り合いをつけるようにしていきたい」
「わかりました。板垣さんにうまく持っていこう思います」
「木戸さんは下野されてから山口に引き籠もっているとか」
「山口で、士族授産の仕事を張り切ってやっている。ただ中央の政治の力を実感しているかもしれないしの」
「良い話と、久しぶりのウィスキー、とても楽しかったです。今度は板垣さんを連れて、大阪あたりでお会いしましょう」
小室がそう言うと、古沢も続けて言った。
「立憲政体の道筋づくり、かならず我々でやっていきましょう。これからもよろしくおねがいします」
「これは、僕もやらんといけんな」
馨は笑いながら、二人と握手をして部屋から送り出した。
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