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明治維新編3 脱隊騒動

脱隊騒動(3)

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 聞多はあまり眠れないまま夜を過ごした。朝になり、朝食のときに大隈に例を言いに本宅に上がった。
「井上様、お食事いかがです」
 綾子が声をかけた。顔色の冴えない聞多を、何事もないようにすると、綾子は決めていた。
「遠慮なくいただきます」
 聞多が答えた。聞多の方も眠れなかったことを無いように気を張っていた。
「おう、井上、途中までだが一緒にどうだ」
「いや歩いていくからええ」
 食べ終わった盆を持って、聞多は台所まで行った。
「ごちそうになった」
 えっとした顔で受け取ったのが武子だった。
「ありがとう存じます」
 武子に笑って挨拶をすると、大隈に向き直った。
「はち、それじゃ世話になった。行ってくる」

 神田の毛利邸につくと、広沢たちが待っていた。事態の緊迫を重たく受け止めているようだった。隊の暴発がどれほどのものなのか、知る必要があるのだ。
 まずは、聞多に山口の状況の説明を求めた。
「脱隊兵たちは山口を包囲しております。藩知事居館を囲んでおりまして、知事公を救援に向かった干城隊を打ち破りもしております。ただ、戦は場数を踏んで個々人の力量はありますが、指揮系統はまともにあるとも見えません。首領を打ち取れれば案外脆いものかと存じます」
「それで、兵部省の方はどのようじゃ」
 広沢が尋ねた。声が硬く緊張を隠せないようだった。
「兵部省に関しては、大阪の兵学寮から数十人すでに山口に向かっております。また正式に討伐軍も派遣をすることが決しております。わたくしもこの後、兵部省に赴き討伐のための許可をいただき山口に向かいます」
「皆様方、井上の報告いかがでしたか。我らとしても山口の軍を動かし、中央の支援を受け討伐を行うということでよろしいか」

 聞多には朝議での対応を願わなくてはいけないことがあった。前原を山口に行かせないように策を施してもらわなければ、いまやろうとしていることも水泡に帰すことになる。それだけは絶対に避けなければならない。

「それと、三浦とも話したのですが、前原さんの帰国何としても止めていただきたい。三条公からお言葉をいただけるようにしていただきたいのです」
 出席者は口々に「異論なし」と言っていた。
「これにて決することとなった。三条公には私から」
 広沢がはっきり言った。その広沢と、出席者の面々を眺めて、聞多は気が引き締まる思いだった。やらにゃいけんことをやるだけだった。
「ありがとうございます。これより、兵部省に参ります」

 聞多はそう言うとすぐに部屋を出た。

 人力車が待たせてあって、それに乗ると兵部省に向かった。
「井上聞多 山口藩に差し向ける」という辞令を受け取ると、三浦と横浜に向かい、下関に寄港する船に乗った。
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