上 下
46 / 136
幕末動乱篇9 薩長同盟

薩長同盟(6)

しおりを挟む
 この件は翌日大きく動いた。藩主敬親公が木戸の上京の目的を状況探索として命じたのだ。
 これによって、奇兵隊、各諸隊から同行者の人選も進み、希望通りといかないまでも、品川、三好、早川、田中といった面々が木戸の同行者として決定した。

 上京した木戸一行は西郷隆盛の屋敷に入ることになった。その後小松帯刀の屋敷に移動し、話し合いを持った。

「木戸殿、公儀はいくつかのご処分を長州にくだされるのではという話を聞きました」
 小松がまず切り出した。
「我らにとって処分とは、先だって行われた家老三名の切腹によって終わったものと考えております。重ねての処分などありようはずもないと思います」
 木戸はこれ以上の処分は受けるつもりはないと、きっぱりと言い切った。
「どうしても、ご処分を受け入れろと申されるのなら、征討を打ち払うまでのことでございます」
 長州の立場はあくまでも、公儀を迎え討つことだと強調した。これだけは、曲げることのできない話だった。
「確かに、戦への備え、我が薩摩もお手伝いさせていただいので承知しております」
 小松は傍に控える西郷と少し話をしていた。
「一応、処分案として、十万石の減封や藩公の隠棲が上がっていることはお話いたします。実際お国のご事情もありますから、薩摩として申すこともあまりございませんゆえ」
「我らからのお願いがございます。こたび戦になり、勝つにしても負けるにしても。もっとも負けるにしても簡単には負けるつもりはございません。一年以上保ってみせます。朝廷に対し朝敵の汚名を雪ぎ、藩主復権の周旋をよろしくお願いしたい」
「それは我が薩摩にしても、長州様と手を結ぶ以上当然のことと考えております。お引き受けいたします」
「かたじけなく存じます」

 こうして、会議を終えて一人になった木戸はこの結果をどう持ち帰るべきか考えていた。話し合いに参加した長州側は自分ひとりで、この立場を説明できるのも自分自身のみ。
 せめて誰か第三者が証明してくれなければ、成果と呼べないのではと思った。とりあえずこの会議の内容を文章にして、相手の小松、西郷に確認を取る。そのうえで誰かに証明してもらえば良い。ただし時間もない。どうやったらうまくいくのか。

 次の日話し合いの場に行こうとすると、反対側から坂本龍馬が歩いてくるのが見えた。木戸はその姿を見て、一つひらめいたことがあったので、坂本を呼び止めた。

「坂本さん、少しお時間ありますか」
「大丈夫ですが」
「これから、小松殿と会談をすることになっているのですが、坂本さんにも立ち会ってもらいたいのです。坂本さんなら小松殿もご了承していただけると思います。ご一緒してください」
「わかりました。ぜひにも、どうぞお連れください」

 ふたりで、会談の場に臨んだ。小松が西郷を引き連れてすでに座っていたので、木戸も坂本ともに席に着いた。
「私が、昨日までの成果を文書にいたしました。小松様にもご確認いただき、坂本さんに証明文をつけていただきたいがどうでしょうか」
 木戸から提案をしてみた。小松と西郷は少し話し合いをしていたが、納得できたようだった。
「木戸様のおっしゃる通りで問題ありません。そこに書かれている内容で間違いはありません、坂本君証明をしてくれないか」
 坂本もその文を見て「これなら薩摩様もご納得でしょう」と言って証明をした。これを受け取った木戸は、安心納得して帰国していった。

 木戸はこの会談の成果を、覚書として残すことができた。
 具体的な形での両藩の交流としては、同行者の一人品川弥二郎等が薩摩藩京屋敷に入り、情勢探索をできることになった。
 また黒田清綱が薩摩の使節として長州に派遣されて藩主茂久、父久光からの親書を奉呈した。その返礼で木戸が薩摩に行くという交流も行われた。様々なやりとりで両藩の関係は強化されていった。
 
 その裏で、長州が購入を希望しているユニオン号の帰属に関して、問題も起きており、なかなか一筋縄ではいかない状況になっていた。仲介の亀山社中と長州藩政要の山田宇右衛門が出てきて、交渉することでどうにか長州が権利を持つことで決着を見た。

 村田蔵六改め大村益次郎が木戸の抜擢により兵制改革を行い、装備の近代化も図られ、挙国一致の戦時体制が作られつつあった。
 一方で薩摩は長州への再征に大義はないとして出兵を辞退している。それでも公儀特に一橋慶喜を中心とする一派は、長州征伐に向けて動き出していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

新説 呂布奉先伝 異伝

元精肉鮮魚店
歴史・時代
三国志を知っている人なら誰もが一度は考える、 『もし、呂布が良い人だったら』 そんな三国志演義をベースにした、独自解釈込みの 三国志演義です。 三国志を読んだ事が無い人も、興味はあるけどと思っている人も、 触れてみて下さい。

女髪結い唄の恋物語

恵美須 一二三
歴史・時代
今は昔、江戸の時代。唄という女髪結いがおりました。 ある日、唄は自分に知らない間に実は許嫁がいたことを知ります。一体、唄の許嫁はどこの誰なのでしょう? これは、女髪結いの唄にまつわる恋の物語です。 (実際の史実と多少異なる部分があっても、フィクションとしてお許し下さい)

FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-

IZUMIN
歴史・時代
時は天正18年、東北最大の勢力を持つ「伊達家」と九州最強の勢力を持つ「島津家」、二つの武家の分家に当たる会津を治める「鬼龍家」の若き当主、『鬼龍 真斗』は家老『河上 源三郎』と共に平安京を訪れていた。 そこで真斗は平安京一の美女、『竹取(かぐや)姫』の求婚の為の無理難題を聞き、自身の力試しの為に難題に挑む。 かぐや姫は初め、五人の求婚者と同じであろうと考えたが、真斗の純粋な手作りの品々に心ときめかせ、真に真斗への愛を抱いた。 その後、二人は皆に祝福されながら結婚した。そして二人は天下統一の戦いや魔王による日ノ本へ侵攻、ヨーロッパへの大遠征による欧州戦没、そんな残酷も美しい戦国の世を強く生きるのであった。

平安ROCK FES!

優木悠
歴史・時代
2024/06/27完結 ――つまらねえ世の中をひっくり返すのさ!―― 平安ROCK FES(ロックフェス)開幕! かつての迷作短編「平安ロック!」が装いも新たに長編として復活。 バイブス上がりまくり(たぶん)の時代ライトノベル! 華やかな平安貴族とは正反対に、泥水をすするような生活をおくる朱天と茨木。 あまりの貴族たちの横暴に、ついにキレる。 そして始まる反逆。 ロックな奴らが、今、うごめきはじめる! FESの後にピリオドがいるだろう、って? 邪魔なものはいらないさ、だってロックだもの! 時代考証も無視するさ、だってロックだもの? 部分的に今昔物語集に取材しています。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

織姫道場騒動記

鍛冶谷みの
歴史・時代
城下の外れに、織姫道場と呼ばれる町道場があった。 道場主の娘、織絵が師範代を務めていたことから、そう呼ばれていたのだが、その織姫、鬼姫とあだ名されるほどに強かった。道場破りに負けなしだったのだが、ある日、旅の浪人、結城才介に敗れ、師範代の座を降りてしまう。 そして、あろうことか、結城と夫婦になり、道場を譲ってしまったのだ。 織絵の妹、里絵は納得できず、結城を嫌っていた。 気晴らしにと出かけた花見で、家中の若侍たちと遭遇し、喧嘩になる。 多勢に無勢。そこへ現れたのは、結城だった。

曹操桜【曹操孟徳の伝記 彼はなぜ天下を統一できなかったのか】

みらいつりびと
歴史・時代
赤壁の戦いには謎があります。 曹操軍は、周瑜率いる孫権軍の火攻めにより、大敗北を喫したとされています。 しかし、曹操はおろか、主な武将は誰も死んでいません。どうして? これを解き明かす新釈三国志をめざして、筆を執りました。 曹操の徐州大虐殺、官渡の捕虜虐殺についても考察します。 劉備は流浪しつづけたのに、なぜ関羽と張飛は離れなかったのか。 呂布と孫堅はどちらの方が強かったのか。 荀彧、荀攸、陳宮、程昱、郭嘉、賈詡、司馬懿はどのような軍師だったのか。 そんな謎について考えながら描いた物語です。 主人公は曹操孟徳。全46話。

処理中です...