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幕末動乱篇6 攘夷の渦の中へ
攘夷の渦の中へ(2)
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聞多と俊輔は交渉して、3日後の船に乗ることができることになった。
その間上海で落ち着かない日を過ごした。
港を見下ろせる高台で艦船の様子を見ることしかできなかったのだ。
「あぁ歯がゆいのう。時が惜しい。こうやって見ることしか出来んとは」
港の様子を見ていたが、聞多の表情は嶮しくなっていた。船の大きさ、大砲の数どれも圧倒されていた。
「焦っても仕方ないじゃろ。ここで疲れては持たんよ」
俊輔は落ち着いていようと心掛けていた。
「俊輔の落ち着きがうらやましい。わしはそういかん」
そう言う聞多の顔を見て、俊輔は大きく息を吐いた。僕だって本当は焦っているんだ。
「おうそうじゃ、ええこと思いついた。米を食いに行くか。気持ちを落ち着かせるためじゃ」
聞多は急に立ち上がって、大声で言った。
「そんな金あるんか」
聞多は笑って何も答えなかった。
二人は商会の人に紹介された料理店に行ってみた。
飯とスープいつくかの炒めものを前にすると、気分が高まってくる。
「これはええ」
俊輔が感嘆の声を挙げた。
「じゃろう」
聞多も飯をかきこんで言った。
「イギリスの飯は味気なかったのう。あれはあれで大男の体を作っておるんじゃから大したもんなんだろうな」
「体に気が回ってくるのがわかる」
俊輔も笑顔になった。金のことは気になったが、聞多のやることに口を挟むつもりもなかった。
翌日、やっと上海を出る船に乗ることができて、聞多と俊輔は、甲板から艦隊の様子を眺めた。
「あの船を迎え撃つ事にならんように、やるべきことをやらんとなぁ」
「イギリス領事は、ガワーのままなのでしょう。話は聞いてもらえます」
「そうじゃ、そこからじゃ。やってやれんことはない。、、、、はずじゃ」
「ゆっくり寝られるのもこの船の中ぐらい。今のうちに休んで、のう聞多」
「酒でも買うとくべきじゃったかの」
「酒って」
「部屋に行こうか」
「えっ、聞多まて」
俊輔は部屋に行こうとする聞多を慌てて追いかけた。部屋につくと聞多は先にベッドに転がって本を読み出していた。
「聞多、昨日の飯とか酒とかって」
「あぁそれは大丈夫じゃ。心配するな」
そう言うと背中を向けて寝てしまった。
こうなると俊輔には取り付く島もない。
ふたりとも横浜に着くまでの数日は、船の中を歩き、本を読んで過ごした。
いよいよ房総半島のさきが見え、三浦半島との狭い浦賀水道までくると横浜はすぐだ。
行きは隠れて、見ることが叶わなかった景色も眺めつつ、下船の準備を怠らなかった。いかにも外国人然として降り立ち、イギリス領事館に向かうのだ。
無事イギリス領事館に着くと、領事のガワーに面会を申し出た。ガワーに二人は帰国の趣旨を述べて、出国に骨を折ってもらったのに、こんなに早く戻ってくることになったことにも、謝罪をした。
ガワーはイギリスを始めとする四カ国が下関を攻撃する計画があることを教えてくれた。
合わせて公使館にも便宜を図って、通訳官でもあるアーネスト・サトウに面会をさせてもらうことができた。アーネスト・サトウは日本語にかなり通じていたので、難しい話もすることができた。
自分たちが長州の藩士であり、山口に行き攘夷の無駄なことを説明したい。もちろん、下関海峡の封鎖もやめさせるので、この攻撃を中止させて欲しいという話をした。
この話を聞いたアーネスト・サトウは公使のオールコックに会見が出来るよう取り計らってくれた。オールコックは二人の話を聞いて、他の三カ国と協議をすると約束してくれた。
「この後君たちはあてがあるのかな」
笑いながら、サトウが聞いてきた。
「特にあてはない。適当に宿をとって待っている」
聞多が答えると、サトウは声を上げて、笑い出した。
「君たちは自分たちが、どう見えるか自覚したほうがいい。その風体と態度で歩き回るのは無理だ。ホテルを手配するから、そこで外国人、ポルトガル人がいいな、として過ごすんだ。日本語を話すのはやめろ。これだけは守って欲しい」
聞多と俊輔は互いを見やると、髷もなく洋服を着ている自分たちに改めて気がついた。
「アーネストの言うとおりにする」
俊輔が答えた。
「OK。それじゃ行こう」
ポルトガル人ということにして、居留地内にある外国人専用ホテルで過ごすことになった。
部屋で二人きりの時以外は、英語を使うしかないので、ホテルのサービスを頼むのも英語だった。向こうは相手が日本語をわからないと思って、悪口を言うこともあった。
これに気が付かないふりをするのも、けっこう大変だった。これには手持ちの金のほぼない二人の、チップの払いの悪いことも原因であったのだが。
「それにしても肩身が狭いのう」
聞多が流石に不満を口にした。
「多分2、3日の我慢じゃ」
俊輔がなだめるように言った。
「あっそうじゃ。少し外に出てくる」
聞多が気軽に言うので、俊輔が驚いて聞いた。
「外とはどこへ」
「なに、少し必要なものを用意してくる。二人で出ると言葉が大変じゃ」
そう言って出ていってしまった。
「あーいつもこうだ。聞多が気ままに動くのを僕はいつも待ってる。いや振り回されてる。いつか思い知らさせてやる」
聞多が戻ってくるまで、それほど時間がかかったわけではないのに、俊輔には長い時間のように感じられた。
帰ってきた聞多が包を開いて買ってきたものの説明を始めても、俊輔は相対しようとはしなかった。
「外に出て着物を買うてきた。あわせて笠もな。これで頭を隠すんじゃ。いいかんがえじゃろ」
「そんな金持っとたんか」
ずっと言いたかった疑問を口にした。
「こんな事もあろうかと僅かだがな。もともとは藩の金じゃ」
にんまりと笑う聞多を見てしまった俊輔は、怒り続けることもできなかった。
3日程過ごしていたところ、深夜にアーネスト・サトウが迎えにやってきた。
「艦隊の出発の前に先遣隊がでる。君たちはその先遣隊と共に行って、山口に向かうんだ」
「わかった」
俊輔が答えた。
「藩庁と交渉できるのは何日だ」
聞多が聞いた。
「細かいところは艦隊の指揮官のクーパーと公使のオールコックと話してもらう」
サトウが説明をした。
公使館につき、公使たちと会談を行った。
結論として、長州の近くの姫島までイギリスの船で行き、そこから12日後までに回答を持って戻ることとなった。話の最後に、聞多と俊輔が一連の好意に感謝を述べると、オールコックが切り出した。
「君たちがやろうとしていることは困難を極める。もしうまく行かなかったときはイギリスに戻るということは考えないか」
聞多は即座に答えた。
「確かに難しいことに違いない。しかし我らはすでに命はないもののと、思ってここまで来た。その意志を貫徹するだけだ」
オールコックを始めとする人たちは、その意志を称えることしかできなかった。
そして、藩公、防長国主へ渡して欲しいと親書を持ってきていた。聞多がこれを受け取った。
「了解した。必ずお渡ししましょう」
そう言って、オールコックと握手して別れた。
姫島までの海路にサトウが同道してくれるのは、二人にはとても有意義なものになった。日本に戻ってくるまでの、様々な出来事の説明を受けることもできたし、英語の勉強も続けることができた。オールコックからの親書も翻訳した。
これは素直に渡せるものでは無いと、理解できたのは一つの成果だった。
その間上海で落ち着かない日を過ごした。
港を見下ろせる高台で艦船の様子を見ることしかできなかったのだ。
「あぁ歯がゆいのう。時が惜しい。こうやって見ることしか出来んとは」
港の様子を見ていたが、聞多の表情は嶮しくなっていた。船の大きさ、大砲の数どれも圧倒されていた。
「焦っても仕方ないじゃろ。ここで疲れては持たんよ」
俊輔は落ち着いていようと心掛けていた。
「俊輔の落ち着きがうらやましい。わしはそういかん」
そう言う聞多の顔を見て、俊輔は大きく息を吐いた。僕だって本当は焦っているんだ。
「おうそうじゃ、ええこと思いついた。米を食いに行くか。気持ちを落ち着かせるためじゃ」
聞多は急に立ち上がって、大声で言った。
「そんな金あるんか」
聞多は笑って何も答えなかった。
二人は商会の人に紹介された料理店に行ってみた。
飯とスープいつくかの炒めものを前にすると、気分が高まってくる。
「これはええ」
俊輔が感嘆の声を挙げた。
「じゃろう」
聞多も飯をかきこんで言った。
「イギリスの飯は味気なかったのう。あれはあれで大男の体を作っておるんじゃから大したもんなんだろうな」
「体に気が回ってくるのがわかる」
俊輔も笑顔になった。金のことは気になったが、聞多のやることに口を挟むつもりもなかった。
翌日、やっと上海を出る船に乗ることができて、聞多と俊輔は、甲板から艦隊の様子を眺めた。
「あの船を迎え撃つ事にならんように、やるべきことをやらんとなぁ」
「イギリス領事は、ガワーのままなのでしょう。話は聞いてもらえます」
「そうじゃ、そこからじゃ。やってやれんことはない。、、、、はずじゃ」
「ゆっくり寝られるのもこの船の中ぐらい。今のうちに休んで、のう聞多」
「酒でも買うとくべきじゃったかの」
「酒って」
「部屋に行こうか」
「えっ、聞多まて」
俊輔は部屋に行こうとする聞多を慌てて追いかけた。部屋につくと聞多は先にベッドに転がって本を読み出していた。
「聞多、昨日の飯とか酒とかって」
「あぁそれは大丈夫じゃ。心配するな」
そう言うと背中を向けて寝てしまった。
こうなると俊輔には取り付く島もない。
ふたりとも横浜に着くまでの数日は、船の中を歩き、本を読んで過ごした。
いよいよ房総半島のさきが見え、三浦半島との狭い浦賀水道までくると横浜はすぐだ。
行きは隠れて、見ることが叶わなかった景色も眺めつつ、下船の準備を怠らなかった。いかにも外国人然として降り立ち、イギリス領事館に向かうのだ。
無事イギリス領事館に着くと、領事のガワーに面会を申し出た。ガワーに二人は帰国の趣旨を述べて、出国に骨を折ってもらったのに、こんなに早く戻ってくることになったことにも、謝罪をした。
ガワーはイギリスを始めとする四カ国が下関を攻撃する計画があることを教えてくれた。
合わせて公使館にも便宜を図って、通訳官でもあるアーネスト・サトウに面会をさせてもらうことができた。アーネスト・サトウは日本語にかなり通じていたので、難しい話もすることができた。
自分たちが長州の藩士であり、山口に行き攘夷の無駄なことを説明したい。もちろん、下関海峡の封鎖もやめさせるので、この攻撃を中止させて欲しいという話をした。
この話を聞いたアーネスト・サトウは公使のオールコックに会見が出来るよう取り計らってくれた。オールコックは二人の話を聞いて、他の三カ国と協議をすると約束してくれた。
「この後君たちはあてがあるのかな」
笑いながら、サトウが聞いてきた。
「特にあてはない。適当に宿をとって待っている」
聞多が答えると、サトウは声を上げて、笑い出した。
「君たちは自分たちが、どう見えるか自覚したほうがいい。その風体と態度で歩き回るのは無理だ。ホテルを手配するから、そこで外国人、ポルトガル人がいいな、として過ごすんだ。日本語を話すのはやめろ。これだけは守って欲しい」
聞多と俊輔は互いを見やると、髷もなく洋服を着ている自分たちに改めて気がついた。
「アーネストの言うとおりにする」
俊輔が答えた。
「OK。それじゃ行こう」
ポルトガル人ということにして、居留地内にある外国人専用ホテルで過ごすことになった。
部屋で二人きりの時以外は、英語を使うしかないので、ホテルのサービスを頼むのも英語だった。向こうは相手が日本語をわからないと思って、悪口を言うこともあった。
これに気が付かないふりをするのも、けっこう大変だった。これには手持ちの金のほぼない二人の、チップの払いの悪いことも原因であったのだが。
「それにしても肩身が狭いのう」
聞多が流石に不満を口にした。
「多分2、3日の我慢じゃ」
俊輔がなだめるように言った。
「あっそうじゃ。少し外に出てくる」
聞多が気軽に言うので、俊輔が驚いて聞いた。
「外とはどこへ」
「なに、少し必要なものを用意してくる。二人で出ると言葉が大変じゃ」
そう言って出ていってしまった。
「あーいつもこうだ。聞多が気ままに動くのを僕はいつも待ってる。いや振り回されてる。いつか思い知らさせてやる」
聞多が戻ってくるまで、それほど時間がかかったわけではないのに、俊輔には長い時間のように感じられた。
帰ってきた聞多が包を開いて買ってきたものの説明を始めても、俊輔は相対しようとはしなかった。
「外に出て着物を買うてきた。あわせて笠もな。これで頭を隠すんじゃ。いいかんがえじゃろ」
「そんな金持っとたんか」
ずっと言いたかった疑問を口にした。
「こんな事もあろうかと僅かだがな。もともとは藩の金じゃ」
にんまりと笑う聞多を見てしまった俊輔は、怒り続けることもできなかった。
3日程過ごしていたところ、深夜にアーネスト・サトウが迎えにやってきた。
「艦隊の出発の前に先遣隊がでる。君たちはその先遣隊と共に行って、山口に向かうんだ」
「わかった」
俊輔が答えた。
「藩庁と交渉できるのは何日だ」
聞多が聞いた。
「細かいところは艦隊の指揮官のクーパーと公使のオールコックと話してもらう」
サトウが説明をした。
公使館につき、公使たちと会談を行った。
結論として、長州の近くの姫島までイギリスの船で行き、そこから12日後までに回答を持って戻ることとなった。話の最後に、聞多と俊輔が一連の好意に感謝を述べると、オールコックが切り出した。
「君たちがやろうとしていることは困難を極める。もしうまく行かなかったときはイギリスに戻るということは考えないか」
聞多は即座に答えた。
「確かに難しいことに違いない。しかし我らはすでに命はないもののと、思ってここまで来た。その意志を貫徹するだけだ」
オールコックを始めとする人たちは、その意志を称えることしかできなかった。
そして、藩公、防長国主へ渡して欲しいと親書を持ってきていた。聞多がこれを受け取った。
「了解した。必ずお渡ししましょう」
そう言って、オールコックと握手して別れた。
姫島までの海路にサトウが同道してくれるのは、二人にはとても有意義なものになった。日本に戻ってくるまでの、様々な出来事の説明を受けることもできたし、英語の勉強も続けることができた。オールコックからの親書も翻訳した。
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