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高山くんと坂原さん
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午前中の授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。
昼休みだ。
何か飲み物を買いに行こう。
学校内の自動販売機に向かう。
自販機の前には先客がいた。
私と同じクラスの高山君だ。
高山君の後ろに立って順番を待つ。
百円玉を探しているのだろうか、財布の中を探っている。
やっと百円玉をつまみ上げた際に、彼の財布から五百円玉が転がり落ちた。
弾みがついた五百円玉はそのまま自動販売機の下に転がって行ってしまう。
チャリン、と手の届かないであろう床下に潜りこんだ音がする。
「あー……」
それを見ながら彼は百円玉でジュースを買う。
「もったいないね。箒か何かで取れるかな」
思わず声をかけてしまう。
「あ、坂原さん。ん、別にいいや。こんなとこで這いつくばるのは恥ずかしいし」
確かに自動販売機の前は人通りが多いので恥ずかしい。
「でも五百円って結構馬鹿にできない金額じゃない?」
「そうだね。まあ、今日の収入だからなかったものとして諦めるよ。プラスマイナス0ってことで」
収入、とは何のことだろう。
「収入って?」
私は飲み物を買いながら彼に尋ねる。
「あー、賭けに勝ったから」
高山君が賭けをよくしているのはクラスの中で見て知っていた。
天気等の些細なことから、到底彼が勝てると思えないような馬鹿馬鹿しいものまで。
例えば、学校の校庭に三日以内に隕石が降ってくる、だとか。
自分から賭けを持ちかけるものの、彼は大抵負けている気がする。
「好きだね、賭け事」
「うん。スリルがたまらないね」
勝った時はともかく、負けた時の損失は考えないのだろうか。
「そうだ、坂原さん、俺と賭けしない?」
教室へ向かう廊下を歩きながら彼が持ちかけてくる。
「負けた時に悔しいからそういうのはあんまりしないことにしてるの」
「えー。坂原さんが有利になるのでいいからさ」
「例えば?」
「坂原さんの履いてる下着が突然無くなるとか」
サラッととんでもないことを言われたような気がした。
「無くなりませんちゃんと履いてます。というか変態だったんだね高山君って」
「いやいや、俺程度で変態とか、褒められるには及びませんよ」
「褒めてないよ!」
冷静に対処したつもりがつい荒ぶってしまった。
「んで、坂原さんは無くならないって断言したわけだから賭けの内容は決まりだね」
「ちょ、勝手に
「五百円でどう?」
ごひゃくえん、と言われて心が微かに動いた。
高山君にも言ったが、馬鹿にできない金額だ。
「今日の放課後までに坂原さんが履いている下着が無くなる、それに俺は五百円賭けるよ」
今日の放課後までにパンツを脱ぐ予定は無く、当たり前にパンツが無くなるわけはない。
「それって絶対私が勝つよね」
「多分そうだね。んじゃ、賭けは成立。五百円用意しておくよ」
そう言って高山君は妙な勢いで私を押し切り、私は高山君と賭けをすることになってしまった。
放課後。
「坂原さん、どう?」
教室に残っていた私のところに高山君がやってきた。
「どう、って。普通に履いてるし賭けは私の勝ち以外にないじゃない」
当たり前に普遍的に履いている。なんら異変はない。
「本当に?」
「本当だってば」
「絶対そう言える?」
「言えるよ」
「嘘ついてない?」
「ついてない」
何度も確認する高山君にイライラしてくる。
「私を信用してないの?」
「いや、でもほら、お金が絡むことだから」
「何?証明しろとか言うわけ?」
「いや、別に証明するために見せてとは言わないよ」
言わせるまい。
「んー、じゃあ、色だけでいいよ」
「え?」
「色だけでも教えてくれたら信用して賭け金を払うよ」
ほら、と高山君は財布から五百円を取り出す。
「この変態」
「証明できなかったら五百円払ってもらうよ?」
後から思うと、この時いくらでも言い逃れできたはずだった。
けれど私は高山君の態度にイライラしていた挙句、お金に目が眩んでいた……。
受け取った五百円を財布にしまっていると、高山君のところにクラスの男子がやってきて無言で千円札を差し出した。
「どうも」
男子はチッと舌打ちをして去っていった。
「また何か賭けでもしてたの?」
「うん」
千円は高校生の賭け金としては多くないだろうか。
「どんな賭け?」
「いや、大したことじゃないよ」
「えー教えてよ」
「ただ、今日中に俺はクラスの女子に下着の色を教えてもらえる、に千円賭けただけさ」
この後、高山君が坂原さんに平手打ちを食らわされたか否かは、賭けるまでもない。
昼休みだ。
何か飲み物を買いに行こう。
学校内の自動販売機に向かう。
自販機の前には先客がいた。
私と同じクラスの高山君だ。
高山君の後ろに立って順番を待つ。
百円玉を探しているのだろうか、財布の中を探っている。
やっと百円玉をつまみ上げた際に、彼の財布から五百円玉が転がり落ちた。
弾みがついた五百円玉はそのまま自動販売機の下に転がって行ってしまう。
チャリン、と手の届かないであろう床下に潜りこんだ音がする。
「あー……」
それを見ながら彼は百円玉でジュースを買う。
「もったいないね。箒か何かで取れるかな」
思わず声をかけてしまう。
「あ、坂原さん。ん、別にいいや。こんなとこで這いつくばるのは恥ずかしいし」
確かに自動販売機の前は人通りが多いので恥ずかしい。
「でも五百円って結構馬鹿にできない金額じゃない?」
「そうだね。まあ、今日の収入だからなかったものとして諦めるよ。プラスマイナス0ってことで」
収入、とは何のことだろう。
「収入って?」
私は飲み物を買いながら彼に尋ねる。
「あー、賭けに勝ったから」
高山君が賭けをよくしているのはクラスの中で見て知っていた。
天気等の些細なことから、到底彼が勝てると思えないような馬鹿馬鹿しいものまで。
例えば、学校の校庭に三日以内に隕石が降ってくる、だとか。
自分から賭けを持ちかけるものの、彼は大抵負けている気がする。
「好きだね、賭け事」
「うん。スリルがたまらないね」
勝った時はともかく、負けた時の損失は考えないのだろうか。
「そうだ、坂原さん、俺と賭けしない?」
教室へ向かう廊下を歩きながら彼が持ちかけてくる。
「負けた時に悔しいからそういうのはあんまりしないことにしてるの」
「えー。坂原さんが有利になるのでいいからさ」
「例えば?」
「坂原さんの履いてる下着が突然無くなるとか」
サラッととんでもないことを言われたような気がした。
「無くなりませんちゃんと履いてます。というか変態だったんだね高山君って」
「いやいや、俺程度で変態とか、褒められるには及びませんよ」
「褒めてないよ!」
冷静に対処したつもりがつい荒ぶってしまった。
「んで、坂原さんは無くならないって断言したわけだから賭けの内容は決まりだね」
「ちょ、勝手に
「五百円でどう?」
ごひゃくえん、と言われて心が微かに動いた。
高山君にも言ったが、馬鹿にできない金額だ。
「今日の放課後までに坂原さんが履いている下着が無くなる、それに俺は五百円賭けるよ」
今日の放課後までにパンツを脱ぐ予定は無く、当たり前にパンツが無くなるわけはない。
「それって絶対私が勝つよね」
「多分そうだね。んじゃ、賭けは成立。五百円用意しておくよ」
そう言って高山君は妙な勢いで私を押し切り、私は高山君と賭けをすることになってしまった。
放課後。
「坂原さん、どう?」
教室に残っていた私のところに高山君がやってきた。
「どう、って。普通に履いてるし賭けは私の勝ち以外にないじゃない」
当たり前に普遍的に履いている。なんら異変はない。
「本当に?」
「本当だってば」
「絶対そう言える?」
「言えるよ」
「嘘ついてない?」
「ついてない」
何度も確認する高山君にイライラしてくる。
「私を信用してないの?」
「いや、でもほら、お金が絡むことだから」
「何?証明しろとか言うわけ?」
「いや、別に証明するために見せてとは言わないよ」
言わせるまい。
「んー、じゃあ、色だけでいいよ」
「え?」
「色だけでも教えてくれたら信用して賭け金を払うよ」
ほら、と高山君は財布から五百円を取り出す。
「この変態」
「証明できなかったら五百円払ってもらうよ?」
後から思うと、この時いくらでも言い逃れできたはずだった。
けれど私は高山君の態度にイライラしていた挙句、お金に目が眩んでいた……。
受け取った五百円を財布にしまっていると、高山君のところにクラスの男子がやってきて無言で千円札を差し出した。
「どうも」
男子はチッと舌打ちをして去っていった。
「また何か賭けでもしてたの?」
「うん」
千円は高校生の賭け金としては多くないだろうか。
「どんな賭け?」
「いや、大したことじゃないよ」
「えー教えてよ」
「ただ、今日中に俺はクラスの女子に下着の色を教えてもらえる、に千円賭けただけさ」
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