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本日のお知らせ

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「明日、世界が終わりますよ」


いつも通りの満員電車。
それでなくても憂鬱なのに、加えてその日は月曜日だった。
一週間で一番憂鬱な日。
彼は長年そう思っていたし、今日も思っている。
憂鬱になるような原因に気付かなければ憂鬱にならないのだろうか。
例えば、今日が金曜日だと思い込みながら一日を過ごしたら。

そんなことをぼんやりと考えながら、彼はただ人混みに挟まれていた。
窓の方に顔を向けてはいるが、過ぎ去ってゆくいつもの景色に感想は何もない。


駅に着く。
彼の通勤先の駅の一つ前。
出入りする人の流れ。
手を繋いだ私服姿の少年と少女が乗ってきた。
ちょうど彼の真正面に位置する。
恋人同士だろうか。
だが、二人はとてもよく似ていた。
似ている、のレベルを超えた瓜二つ。
顔も服装も、彼よりいくらか低い身長も。
けれども何故か彼は二人の性別が違うことを直感的に感じた。
高校生、と言うには幼く、中学生と言うには大人びている気がする。
彼の目線に気がつき、二人が同時に彼を見上げる。
大分不躾に見ていたことに気がついて彼は気まずさを覚えながら視線をそらした。

「残念なことに」
「明日で」
「世界が」
「終わります」
「それでは皆さん」
「さようなら。お元気で」


まるでラジオのようだった。
生身の人間の声より無機質な声質、抑揚。
しかしそれは実際に彼を見上げる少年少女の口から交互に発せられていた。
だが、彼はちらっと一瞥しただけで、無視を決め込んでいた。
新手の宗教か何かだろうか。
そんなことを思いながらも他の乗客同様、何の反応も返さなかった。
そしてそのまま、彼が降りる駅への扉は開き、彼はいつものように勤務先に向かっていった。
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