上 下
16 / 30

梅のつまみ

しおりを挟む
店に戻るとよしさんが起きていた。

「おはようございます。」

「おはよう。今日は随分早く起きたのねぇ。」

「目が覚めちゃって。さっき時次さんの友人に出会って注文を頂きました。おにぎりと甘酒とこの持参した梅干しでの料理だそうです。」

今日の朝の出来事を話した。
よしさんは少し困っている様子だ。

「材料がないんじゃない?甘酒は無理なんじゃ…。」

その事について話そうと口を開いた時、外から時次さんの声がした。

「すいませーん。」

急いで外に向かう。
外には時次さんが立っていた。

「時次さん、おはようございます。材料の件ですよね。」

持って来るの早すぎるような気がするけど…。

「おはようございます。こちらが米麹です。私の友人も甘酒をとても気に入っていました。本当にありがとうございます。」

お辞儀をしたあと、米麹が入った袋を渡された。

「いえいえ、気に入ってくれて良かったです。確かに米麹受け取りました。ご注文の方ですがおにぎりと甘酒、後梅干しを使った料理でよろしいでしょうか。」

袋の中に米麹が入っている事を確認し、注文の内容の方も一応確認しておく。

「…梅干しの料理…ですか…。それは…初耳ですね。」

時次さんの眉間にしわが寄っている。
あれ…知らなかったのかな…。

「先程時次さんのご友人さんに会いまして、その時に梅干しを頂いたんです。その梅干しで料理をして欲しいと言われたんですが…。」

時次さんの眉間のしわが深くなり、頭を抱えている。

「えっと、時次さん大丈夫ですか?」

ため息をついて時次さんはこちらを見た。

「はぁ…、聞いてなかったものですから。ではそちらもお願いします。いつも急ですいません。」

やっぱり、知らなかったんだ。
時次さんも大変なんだなと思い苦笑いしてしまう。

「大丈夫ですよ、仕事ですから。ご友人から先に頂いた代金ですがこれだと少し…いや、かなり多くて。もしかしたら手持ちが無かったのかと思いましてこちらお釣りです。」

本当は作ってからお釣りを渡そうと思ったけど、代金が大きいのでなるべく早く解決したかった。
時次さんは一向にお釣りを受け取ろうとしない。
やっぱり…作ってからの方が良かったかな…。

「いえ、こちらはお釣りではなく、お礼分だと思いますので、貰っても大丈夫だと思いますよ。」

チップみたいな物だろうか。
だとしても多すぎる、一日の売り上げの何倍もある。
やっぱり受け取れない。
時次さんの手を取りその手に代金をのせる。

「これは受け取れません。」

時次さんは驚いた様子だった。

「受け取れない理由を聞いてもよろしいですか。」

代金が多すぎると理由もあるけど…。

「このお釣りがお礼という事なら私の料理を食べてからでお願いします。今回の料理もお気に召すかわからないのに代金以上の金額は受け取れません。そしてできれば、お礼と思うのでしたら代金を多くするよりも一品多くお料理を頼んでくれる方が嬉しいです。」

時次さんは私の話を聞いて頷いてくれた。
良かった、納得してくれたみたいだ。

「わかりました。このお釣りは受け取ります。」

代金の件はこれで大丈夫かな。
そろそろ山に行かないと店の開店時間になってしまう。

「私そろそろ山に行かないといけないのでこれで…。」

時次さんに背を向けた時、声を掛けられた。

「あの、私も一緒に行ってもよろしいでしょうか。」

特に一緒に行ってはいけない理由がないので承諾することにした。

「いいですよ。ちょっと待っててください。今準備してきます。」

急いで山に行く準備をして、時次さんと山に向かった。
私はいつもどおり山菜を採り、時次さんも手伝ってくれた。

その時にきゅうりっぽいものを見つけた。
気になり籠の中に何個か入れる。
何かに使えればいいなぁ。

そろそろ帰ろうと立ち上がろうとした時に時次さんが口に一指し指をおき、草むらを指さした。
指さした方向を目を細めて見てみるが何がいるか私にはわからない。

おもむろに時次さんが下に落ちていた石を拾う。
狙いを定めて草むらに石を投げると、バサッと何かが倒れる音がした。

「少し待っていてください。」

時次さんは石を投げた方向に歩いて行くと何か手に持つ。
それを持って私の方に近づくにつれて持っているのが鳥だというのがわかった。

私はポカーンとしながらその光景を見て、拍手をした。
やすさんが言っていた事をこの目で見る事が出来るとは思わなかった。

「私はあまり料理しないので貰って頂けると嬉しいです。今簡単にさばいときますね。」

そう言ってその場でさばき始めた。
料理しない割に刃物の扱いにに慣れている気がする…。
鳥はありがたく貰うことにした。

「ありがとうございます…。」

山での採取の手伝いといい、鳥といい時次さんなりのお礼なのかなと考える。
さばいている間私は少しだけ山菜の採取を続行した。
その後山を下りて時次さんと別れて店に戻った。

店が開店してからよしさんと交代しながら甘酒を作る。
今日も早めに売り切れたので店を閉めた。

やっぱり、少しづつだけどお客さん増えてるような気がする。
毎日作る量を増やしているが近頃は毎日売り切れである。
繁盛することは嬉しいからいいけど、明日も作る量増やさなくては。

店は閉めたがまだ注文は残っている。
ひとまず、昨日と同じおにぎりを作った後に梅のつまみを用意する。

今日作ろうと思ったのは現代でもお馴染みの鳥ときゅうりの梅和えだ。
居酒屋とかにたまにある。
さっぱりしていて美味しいんだよね。

作り方も簡単だ。
問題はこのきゅうりもどきだ。
きゅうりぽいって理由だけで取って来たので、きゅうりという保証はない。
きゅうりもどきを切ってみるけど中は私が知っているきゅうりと同じ。
匂いもきゅうりの匂いがする。

味噌を用意してきゅうりもどきに付けて食べてみた。
うん、味も私が知っているきゅうりだ。

きゅうりが使える事を確認して料理を開始。
蒸した鳥肉ときゅうりと種を取り除いた梅、塩少々を混ぜ合わせれば完成。
一息ついていた時、外からやすさんの声が聞こえた。

「菜ちゃん~。さば持って来たぞ~。」

外に出るとやすさんがさばを持ってよしさんと話していた。
桶の中にはさばが入っていた。
やすさんが私の顔をキラキラした目つきで見て来る。
あぁ…、これは私に料理してくれってことかな…。
やすさんの顔を見てよしさんと私はあきれながら笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...