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第2章 生きるために闘う
第10話 生きるために必要なこと
しおりを挟む「食材が、ない?」
僕は耳を疑った。出会って8時間で童貞を奪われるというAV企画もののような現実に、この世界の常識を疑いはじめた矢先の話だ。
わずかに休んだ体を無理やり起こして厨房に向かったものの、待てど暮らせど食材が配送される様子はない。
ならば市場に行こうとヨーコを起こすも、彼女はどこ吹く風だ。そもそも服も着ていない。えっろい。
「しょうがないでしょう。ショウは知らないでしょうけど。今この国は未曽有の食糧難なのよ」
「食糧難?こんなに豊かそうな国で?」
どう考えても幸せいっぱいのこの国のどこにそんな要素があるというのだ。昨日町中を歩いたが、皆幸せそうだったし、次に何のショーを見るかなんて話をしていた。
「んーまあ説明してあげるわ。この国は平和が過ぎて難民を大量に受け入れてね、ここ数年で一気に人口が増加したの。広大な国有地のほとんどを農地に変えたんだけどそれでも食料は足りない。仕方がないから輸入を増やしたけど、値段はどんどん吊り上る」
「隣国はいくつかあるんじゃないの?なら価格競争も起こるだろうしそこまで急激にインフレなんて」
「このピース王国はね、かつては戦争の国ってくらい軍事産業が盛んだったのよ。敗戦で平和な国に一新したものの、周りの国との友好関係はまだ浅いの」
しかも難民って言われてはいるんだけど、住みやすい新天地を求めて隣国からの移民も多かったの。
周りの国からしたら自国の市民に裏切られた感覚よ。敗戦国のくせに、と隣国は価格協定を作ってピース王国への馬鹿高い食材の料金を共有しちゃったの」
「分かりやすいくらいにカルテルですね」
「まあ戦争敗戦国な手前外交は弱いのよ。文句も言えず、仕方がないから外貨獲得のためにアミューズメント街を作ったらこれがまた大当たり。世界各国から観光客が押し寄せたわ」
「もう嫌な予感しかしない…」
「周りの国は更に価格を吊り上げだして食品の物価は2倍3倍、恐れた貴族は食料買いしめ、あっという間に食糧難」
何とも皮肉な話だ。そして一般市民は少ないパイの取り合いか。貧富の差も激しくなってそうだな。
「そして食料は原則現金買いになったの。ツケも月末払いも無し。更にひどい事にこの家にはそもそも現金がないわ。経営難で借金だらけなんだもの、けど安心して。私には独自のルートがあるの。体目当てでツケにしてくれる怪しい店から廃棄前の食材を安く仕入れていることに成功したわ」
ニヤリと笑い親指を立てるヨーコにリアクションが取れない。
これが、僕の初体験の相手なのかと思うと泣けてくる。せめてまず服を着てほしい。
「国有地を農地にしたっていったけど湖沿いの森はそのままだったよ?伐採して開墾すればいいのに」
「まあモンスターが多いところは開発が遅れるものなのよ。農地にしたってモンスターに襲撃されたらすべて0。リスクが高いの」
詰んでるな。この店に借金がどれくらいあるのかもわからないし、高い材料買いこんでこのボロ屋に客が入るとも限らない。そもそも少ない食材を何のコネもなく正規の料金で手に入れられるのかも謎だ。
「・・・じゃあこの店で、僕は何をすればいいんだ?」
「うーん・・・・・・セッ〇ス?」
「はいっ没シュート。」
ヨーコは自分のことではないかと様に首をかしげている。俺は果たして今日の夜給料をもらえるのだろうか?2000イエンなければ3日目の夜には捕まるか、腕がちぎれてしまうんだが、
「ヨーコ、ちなみにお前いま現金でいくら持ってる?」
「えっと…2500イエンくらい?」
終わったかもしれない。こいつの全財産をもらえても今日中にこの国を出ないと罪人確定だ。
「ちなみにバイト代は」
「んーツケにできない?それか体で///」
終わってた。もうどうしようもない。右腕が無くなったらどうしよう。また生えてくるとかないかな。自動再生スキル的な。
「そんな絶望しないの。入門証の事でしょ。大丈夫。お姉さんにいい考えがあるわ。ショウも助かるし、尚且つお金も手に入る」
「っそんな方法があるのか?」
妄想の世界から一気に引き戻される。ヨーコの方を見ると服を着替え終えている。
「まあな。行くわよショウ。着いて来なさい」
「はいっ店長!」
少し嫌な予感がしながらも、僕達は町の南へと足を走らせた。
それが新たな地獄の始まりになろうとは、今の僕にはそれを想像し、受け入れるだけの余裕も何もなかったのだ。
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