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第4章 生きるために紐解く

40話 殺人事件

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とんだビフォーアフターだ。あんなに頑張って作られた畑は、あえて大地を掘り起こすようにめちゃくちゃに、みんなの未来の為に作った学校は、押しつぶされるように壊されている。

そして、何より笑顔と笑い声で溢れたあの子供たちが、一人もいない・・・。

「はぁっはぁっはぁっ」

村中を所狭しと駆け回る。一体どこに。死体も無い。

「いっいやっ!」

リュネの声だ。そういえば目を離してしまった。相変わらず肝心な所で冷静さを欠いてしまう。

入り口に必死に戻ると既にヨーコが戻っていた。岩場の陰に誰かが倒れている。

「ワース!!!」

血塗れのワースが、そこに倒れていた。

「夫の(友人)の疲れも一瞬で癒す、家庭魔法!オアミー!」

ワースの体が光に包まれる、しかし効果が見えない

「ワースしっかりしろ。声が聞こえるか?」

「シ、ショウ?か?なぜっネ?痛ぅ!」

「話し続けろ。意識を失うなよ!」

「襲われたんだ。たぶんネ。2人…子供たちは、逃げた、はず…でも」

「良かった。無事なのか。あっそうだっこれを食え、体力が回復する」
僕はオレンジスライムジャーキーを差し出す。しかし噛みきれないだろう。歯が砕けている。僕はジャーキーを細かく千切って水に入れ、ワースの口へと持って行く

「特性の回復薬だ。HPもMPも一気に回復する秘薬だ。飲むんだ」

「あぁ、すまんネ。恩に着る」

「あぁリュネのおかげだ。感謝しろ」

「リュ。あの子っが、うぅっ」

「ワース、死なないで!お願い!」

リュネは憚らずワースに抱きついた。僕はスライムを必死に飲ませた。回復して欲しい。HP・MPほぼ完全回復薬なはずなんだ。これが効かないってことは・・・

「たのっ。うぅっ。山を、のぼっ・・れ。こどもったち・・・そこ、ぐぅっ」

「喋るな、何でだっ!効いてない!?」

「お願い、ワース、死んじゃ嫌だよ!」

「山に、なかまが、守ってr。俺の、最後の、nがっ・・・、・・・・・・・・・・・」

「ワース!ワース!!!ヨーコ回復を、」

「やってる!でも、でも・・・」

「ワースの、脈が無いわ・・・」

リュネの言葉に、僕達は言葉を失う・・・。

「ワース、ワーズ…ワーズゥ・・・」

リュネの鳴き声だけが村に響く。

「山を登ろう。子供達を保護するんだ。たぶんそれが、ワースの最後の…」

ヨーコは回復魔法を解く。そして、頷いた。

リュネの肩をたたき、頭を撫でる。僕は両手を合わせ、ワースに頭を下げる。

「約束は、果たしてみせるよ。」



涙を流すよりも、しなければならない事がある。



村の裏手には大きな山がそびえ立っている。僕達はリュネの案内でそれを登る。

「安全な道は少ないの。ワースが見つけたの。山には食べ物が多いから、でも子供達にはあんまりはいっちゃダメだって」



ただこの時僕を押したものは、勇敢さや使命感ではなく、明らかな怒りと、敵への明確な殺意だった。
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