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背中合わせ
しおりを挟む「……や、…もぉ…っ、いやぁ…っ」
淫らな宴の中、私がノアの身体を後ろから激しく揺さぶっていると掠れた声でポツリと呟き、ノアは気を失った。
ノアの身体が力を失ってゆっくりと倒れ込み、その先で目に入ったのはグレタの変わり果てた姿。
可憐な花のように淡く鮮やかに輝いていたグレタの髪がすっかり色が抜けている。
「………っっ!!??…な…っ!!?」
グレタも気を失ってしまっていたようで胸でノアを受け止めたまま、ピクリとも動かない。
ーー兄のように信仰を失ったのか…?!
ノアの胎内から肉棒をゆっくりと引き抜いてグレタの髪を指先に絡めてじっくりと観察してみる。
…いや、ルーカスよりももっと輝きがなく色が薄い。
注意深く見つめているとある事がふと脳裏によぎった。
エルフ族の髪の色は魔力の象徴。寿命が近付くと魔力が弱まり、髪の色が抜けていってしまうという。
それが浮かんだ瞬間、考えるより先にスーッと背筋が凍りついた。
いや…、まさか…!!
後宮では魔法は使えぬ。
グレタを引き留める為にルーカスもまたわざわざ国庫に眠る魔法石を使わせたりして魔法の使用を最小限に制限させていた。
だからこそ無駄に魔力を消費する事もなくルーカスもグレタも通常のエルフより長く若々しく生きてこられたのだ。
あの『長い夜』を越えられるほど……。
グレタが………、死ぬ………?
私を置いて…………?
以前の後宮から逃げようとするのとは訳が違う。『死』は絶対に引き留められないからだ。私のように特別な力がない限り…。
こんな…、急に…!!?
何故…っ!!?何故だ!!!??
言いようのない不安と喪失感が身体中を駆け巡った。
不安を抑えようと咄嗟にグッタリと意識を失ったままのノアを抱き寄せてみるが、一向に不安は治らない。
ーー何故だ?……おかしい。
いつもノアに寄り添えば穏やかになるはずの心に今はただ冷たい嵐が吹き荒れる。
横で眠るグレタの顔がジワジワと無意識に込み上げてくる涙で滲んだ。
……ああ、ノア。
精霊の愛し子。
『グレタを愛せ』と言ったのは神託だったのか?
グレタの命が尽きるのがわかっていたから…?
…………いや、まさか。
今の私は動揺で頭が混乱している。
おかしな妄想が過って、すぐに我に返って自嘲した。
いくら混乱しているとはいえ、なんと愚かな妄想だろうか。
とにかくこのままでは気が狂ってしまいそうだ。この息苦しさを紛らわそうと二人を私の自室に運んだ。
グレタを失えば…、私にはもうノアしか残されていない。
「ああ…、ノア。ノア、愛しいノア。俺から離れないでくれ…。」
突然湧き上がるこの訳の分からない感情を誤魔化す為に、ただひたすら眠っているノアの身体に縋り付いて祈り続ける。
ノアさえいればいい。
……そうだ、私にはノア一人さえいれば。
私の愛する者はただ一人だけ。
ノア一人だけなのに………。
なのに……、なのに…、何故……っ!!?
何故こんなに辛く…、そして虚しい?
何故こんなに苦しい…!?
次々と押し寄せる不安と苦痛、そして深い哀しみと強い虚無感に襲われ続けているうちに、いつの間にか記憶は途絶え、ふと瞼を開くと腕の中にノアがいた。
私はいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
酷い悪夢だった、と一息ついた瞬間に謎の鈍痛に襲われて身体を起こした。
頭…?…いや、顔が痛い…。
何だ……?これは………?
首を傾げると、不意にグレタの姿が目に入ってあの『現実』が再び胸を刺した。
やはり……、髪の色が……。
「…………んぅぅ~…っ」
不安の波に再び押し寄せようとした時、ノアが可愛い声をあげて目をゴシゴシ擦り始めた。ノアのあどけない仕草に思わずときめいてしまい、それと同時に顔の鈍痛や胸の痛みが和らいだ。
「……ノア、おはよう。」
寝ぼけてむにゃむにゃと小さく口を動かすノアの額や頬にそっとキスを落とす。
「………ん…。」
微睡みの中で私の口付けを無意識に受け入れるノアの姿が堪らなく愛しい。
そうしているうちにいつの間にか不安は消えてしまった……かに思えた。
相変わらず素っ気ない態度のノアに見送られ、王宮で仕事をしている間ずっとグレタの髪の事が脳裏をよぎった。
そしてその度に何度も何度もグレタと過ごした長い日々の断片が通り過ぎていった。
照れて頬を赤らめて恥じらう顔。
私が悪戯をした時のグレタの困った顔。
怒って少しいじけて拗ねた顔。
そして春の陽だまりのような温もりのある穏やかな笑顔。
……昔のグレタは今よりずっと活発で表情も感情も豊かだった。
ずっとつまらない、退屈だと思っていた何気ない日々が今振り返ると何故こんなにも輝かしく思えてくるのだろうか……?
あんなに感情が豊かだったグレタはいつしか泣き顔しか見せなくなっていった。
長い間ひたすら泣き続けて涙が枯れた頃には、今のように穏やかな笑顔の瞳の奥に薄らと冷たく哀しい影を感じる仮面のような笑顔しか見せなくなっていた。
グレタをそうしたのは私だ……。
そう思うと強い征服感に満たされた。
だが他人と深く心を重ね、寄り添う事に臆病になっていた私は、グレタに背を向けた。
そしてグレタもまた私に背を向けた。
私の背中にぴったりと寄り添ったまま。
背中に誰よりも近い距離で互いの温もりを感じながらも、決して向かい合う事はない。
こんな歪な関係が私達にはこの上なく心地良くてちょうど良かった。
私達……、いや、グレタからしたらどうだったのだろう?
今思えば…、私が背を向けたのは無意識のうちに生まれた罪悪感からくるものだったのかもしれぬ。
心地良かった……、か。
………………本当に?
兄を人質にし、ひたすら陵辱を繰り返して無理矢理私の色に染め上げられたのに…?
しかし…、それでもグレタが時折見せてくれた笑顔や優しさ、そして傍で常に感じていた温もりは本物であったと思いたい。
何度も思いを巡らせて自問自答をしているうちにふと昔のグレタの笑顔が見たくなった。
ーーー………そうだ。
死ぬ前に…、もう一度。もう一度だけ。
あの慈愛に満ちた温かい笑顔を。
ふと思い立ち、グレタ宛に『ノアの夜伽と引き換えにノアが眠りについた後、私の部屋まで来るように。』という内容を手紙に書いて執事に渡した。
執事が部屋を出た後に、普通に誘えば良いものを…。
また脅す形をとってしまったと少し反省しつつも、今更違うやり方が思いつかない。
もう、時間はないのだ……。
………私も随分と変わってしまったものだ。
他人を気遣い、反省するなど…。
こうして自らの欲望以外の感情で、罪や想いと真剣に向き合う日が来るとは。
そう、変わった……ーー。
私の世界の、何もかも。
改めて実感してフッと何度目かの自嘲しながらも何故か不思議と嫌な気分にはならなかった。
「何の用でしょうか?」
深夜に私の部屋に訪れたグレタは少し冷たさを感じる声で言った。
「……部屋へ来て最初の言葉はそれか?」
「早く仰って下さい。…ノアにここに来ている事が知られたら……。」
私が少し眉を寄せて困ったように首を傾げて見せると、グレタは少し気まずそうにそっと目を背けた。
「…知られて困る事などないだろう?ノア自身が望んだ事だ。」
「…………っ」
言葉を遮るように言うとグレタはピクリと一瞬だけ表情を歪ませ、沈黙したまま下唇を薄く噛んだ。
私はグレタの元へ歩み寄り、その身体を抱き締めた。ノアを抱き締める時のように優しく包み込み、しっかりとこの胸の中へ閉じ込めた。
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