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古の魔法
しおりを挟む「さあ、こちらへいらっしゃい。君はとても美しいから選ぶのが楽しみだよ。服が負けないようにしなくちゃね!」
グレタが両手で拳を作り、フンス!と無邪気に目を輝かせていた。柔らかくて落ち着いた雰囲気とのギャップでそれがとても可愛らしく見えた。
その様子に思わずノアが口元に手を添えてふふ、と笑うと皆がノアを凝視して顔を赤らめて固まった。
「………????」
皆の様子に気付いてノアが不思議そうに首を傾げる。
「君の色気…凄いね。オリバー様が夢中になるの、わかる……。」
溜め息を零しながらグレタが呟く。
「ノア……だよ、俺の名前。」
「じゃあ私もグレタって呼んで。」
微笑みながらノアが言うと、グレタはとても嬉しそうに頬をほんのり赤く染めて気恥ずかしそうに微笑んだ。
「私は側妃だけど、後宮には長くいるし後宮の事は殆ど任されているから、相談や困り事、何かあったらどんなに小さな事でも構わないから私に言ってね。」
準備をしながらグレタは自己紹介をした。
「さて」と皆で改めて仕切り直してグレタが手際よく服やアクセサリーを選んでノアに着せていく。
そのおかげで準備は予定より早く終わって、侍従が片付けを済ませて部屋を出て行き、一緒に部屋を出ようとするグレタをノアが手を掴んで引き止め、再びグレタと2人きりになった。
「…どうしたの……?」
不思議そうにしているグレタにノアは無言で抱きついた。
驚きつつも先程の妖艶な雰囲気と違って子供みたいにしがみつくノアが可愛くてグレタも優しく抱き締め返す。
頭一つほど身長が高いグレタの胸に小さなノアの身体はすっぽりと収まった。
(聞こえる…?)
『…っ!!?………聞こえるよ。』
ノアの声が頭の中に直接聞こえてきて、グレタは驚きつつも頭の中で返事をした。
(俺の本当の名前は……ヨル。)
『ヨル…。とても綺麗な名前…。』
リュカと同じ言葉…。
グレタを通してリュカを感じ、ノアは泣きそうになった。
その時、部屋のドアが開いてオリバーと宰相と執事が入ってきて抱き締め合っている2人を見て驚いた。
「お前達、何をしている……?!」
オリバーの顔が強張り、地を這うような低い声で聞いてくる。
「お世話をしていたら懐いてしまって」
グレタがノアの頭を優しく撫でながら穏やかな声で返事をする。
「さぁ、ご主人様がお迎えにきた。もう終わりだよ。行きなさい。」
幼子に語りかけるように言いながら、グレタが優しくノアの腕を解いたがノアは中々離れようとせず、ノアが動く前にオリバーがノアの元へ素早く歩み寄り、子供を抱くように太腿の辺りに腕を回して抱き上げた。
ノアはグレタに向かってふふっと優しく微笑んだ後、落ちないようにオリバーの首に両腕を回した。
ノアが…笑った。
こんな風に微笑みかけてくれたことなど私にはなかったのに……。
ほんの僅かな時間しか共にしていないグレタに…、ノアが優しく微笑みかけた。
オリバーの中に悶々とした複雑な黒い感情が生まれた。
「礼を言う。世話になった。」
「とんでもございません。」
礼とは言えない程キツい言い方だったが、グレタは構わずオリバーに恭しく頭を下げた。
オリバーはグレタをギロリと強く睨んでノアを抱いたまま部屋を後にした。
複雑な感情に苛つきながら廊下を歩いている時に宰相が興奮気味に話しかけてきた。
「さすがグレタ様…!センスが良いですなぁ…!…しかも、とても美しいお二人が並んでいる姿はとても絵になりました!!」
ノアの服は背中と胸元がお腹の辺りまでVの字に開き、下は両サイドに深いスリットが入っていて腰を紐で絞った天使のような白いワンピースに、広く露出した肌を埋めるようにバランスよく深紅の宝玉のアクセサリーが飾られていて、頭の左の耳上にはアクセサリーと同じ色の深紅の宝玉の髪飾りが添えられていた。
……確かに、露出は多いのに清楚な雰囲気があり、アクセサリーのバランスも派手すぎず元々持ち合わせている妖艶な色気と相まってノアの美しさがより際立っている。
「あ、ああ……そうだな。」
宰相の言葉に冷静になる。
最近はノアに夢中で全く会っていないのにも関わらず、こんなに良くしてくれたというのに…、少し当たりが強過ぎたかもしれぬ。
オリバーは自分の態度に少し反省した。
オリバー達が部屋を出てから、グレタは先程自分で言ったベッドのサイドテーブルの引き出しに薬の入った小瓶を忍ばせ、ベッドに座った。
さっきの会話方法は…エルフ族のみ使えるという古の精霊との交信術……。
精神の核に直接語りかける古い魔法。
精霊と対話出来るエルフ族でも歴史のある数少ない部族の長しか使えない。
小さい頃に母から話には聞いていた。
魔法が『魔法』という名が付く前から存在していると……。
私は先程受け手だったから会話出来たけど…、とても高度な魔法なのに。
何故、エルフ族でもないあの子が…?
魔力が強いとは聞いていたけど、魔法陣の効果を無視して…。
いや、だから…私に触れたのか。
肌に触れて精神の核に直接アクセスしてくる『交信術』は魔力を外部に放たない。魔法陣の妨害も受けないってことだ。……多分、この考えで合ってる気がする。
ノアの声を聞いた時、心に宵闇の中静かに佇んでいるような涼やかな風が吹いてとても心地良くて落ち着いた気分になった。
きっとあれがヨルの魂のオーラ…。
とても澄んで、清らかで美しい…。
見た目だけじゃなくて…、魂まで…。
ヨル…。とても不思議な子。
一瞬で心を奪われてしまう…。
兄さん……、今どこで何をしているの?
あの子…、ヨルは一体……?
暫く考えてみたものの、ここでいつまでもこうして悶々と考えたところで答えなど見出せるはずもない。
そう思い直してふぅ、と一つ大きな溜息をついた後、グレタは立ち上がり自分の部屋に戻った。
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