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奥の手
しおりを挟むご主人様の涙がおさまった頃、改めてきちんと色々な話をした。
ご主人様の大まかな生い立ちとか。
前妻さんのことや息子さんのこと。
首輪の効果のことも。
そして僕への気持ち……、想いを。
「私は醜い…。自覚している。今は首輪の効果でそのように思わないだろう。
しかし私は……。ルーシェが前妻のように私に怯え、嫌われるのがとても怖い。私は心からルーシェを大切にしたい。性奴隷としてではなく、子供の事もあるし本当はきちんと正妃として迎えたい。…だが、美しいお前に私のような獣は相応しくない……。」
ご主人様は時々項垂れつつも、辿々しく話してくれた。
僕は暫く考えた後、口を開いた。
「僕…、初めて会った時…知らない場所で知らない人が入ってきて抵抗も出来ずに急に抱かれて怖かったけど……。」
「わかっている。…申し訳なかった」
ご主人様はそれを聞いて俯き、今にも泣きそうな顔をしている。その大きな身体がとても小さく見えた。
「醜いとは思わなかったよ」
ご主人様がハッとして顔をあげた。
僕は真っ直ぐご主人様の目を見てキッパリと言い切る。
「ご主人様は醜くないよ」
「…私に気を遣っているなら…」
「僕を信じられないの」
「………………………。」
僕の強い言葉に、ご主人様は少し狼狽えてまた俯いて黙ってしまった。
「じゃあ首輪、取ってみてください」
僕の言葉にご主人様はギョッとした。
「……っ!!い、いやだ!!それだけはならぬ!!許さんっっ!!!」
激しく首を振りながら拒否をする。
「取ったら、またすぐに着けて下さって構いません。……ねぇ、お願い……。」
僕はご主人様に信じて欲しくて、意を決して禁断の奥の手を使うことにする。
僕は眉根を寄せてご主人様を見つめる。
犬が耳を伏せて眼をうるうるさせながら上目遣いできゅうん、となってるみたいな。
僕の「必殺お願いポーズ」だ。
普段は恥ずかしいし冷静に考えたら痛すぎるし、男としてのプライドが許さないので、本当に「ここぞ!!」の時しか使わないやつ。ご主人様にも初めて使う。
これに負けたヤツは今の所いない。
顔を真っ赤にして怒ったお母さんも、喧嘩して「絶交だ!」と怒ると途端に意地っ張りで頑固になっちゃう悠太でさえも勝てなかった。
まさに必殺…。
「必ず殺す」と書いて必殺。
頼む!!効いてくれっっ!!
……だって。
僕は本当に醜いなんて思わなかった。
ご主人様の過去を聞いて胸がとても痛かった。締め付けられて、苦しかった。
こんなの…哀し過ぎるよ…。
それに……、それに僕は……。
「少し取ったらまた着けるから。絶対着ける。約束。……ね?」
僕の顔に追い詰められたご主人様は、くぅ~~ッッッ!!と、顔をクシャクシャにして食いしばりながらまだ弱々しくも首を振っている。
「お願い………、ね?」
ご主人様の手を握って僕のお腹にそっと添わせた。
「……わか……った…。目を閉じろ」
暫くして、ご主人様が諦めて言った。
僕は目を閉じる。
首輪を触るご主人様の手がものすごく震えていて外すのに時間がかかっていたけど、僕は目を閉じたまま静かにその時を待った。
首輪が外されるとフワッと身体が軽くなり、奥から熱いものが湧水のように膨れ上がるのを感じた。
そっと目を開けてみる。
「………ブラッド…さま…?」
何だろう、何故かご主人様と言うのが躊躇われる。めちゃくちゃ恥ずかしい。
ブラッド様を見ると、この世の終わりみたいな顔をしている。
やっぱり。
もう、怖くない。
ブラッド様は醜くなんかなかった。
僕は静かに両手を広げた。
「抱っこして?」
僕はできるだけ優しく笑ってブラッド様に言った。
ブラッド様は、恐る恐る僕の胸に顔を埋めるように寄り添ってくる。
僕はブラッド様をギュッと抱き締めた。
「醜くなんか、ないよ」
「おっきくて温かい……」
胸に埋められたブラッド様に頬擦りして、髪を撫でながら言い聞かせるように言葉を紡ぎ続ける。
ブラッド様の目からはダムが決壊したみたいに沢山涙が溢れてきた。
「きっと、ずっと、辛かったね…」
「僕、ブラッド様の赤ちゃん産むよ」
「きっとブラッド様に似て大きくて、僕に似てやんちゃな子になるよ」
「僕とブラッド様の赤ちゃん、2人で大事にしよ………?」
ブラッド様はまた泣き崩れた。
うん、うん、と何度も何度も頷いて僕の寝衣がグショグショになるまで泣き続けていた。
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