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ついに
しおりを挟む突然、ルーシェが倒れた。
気持ちよさそうに寝ていたものだから、そのまま寝かせておこうと思って起こさずに部屋を出ようとしたその時。
物音がしてルーシェが勢いよく起き上がったと思ったら、突然嘔吐した。
慌てて駆け寄るとルーシェは息を荒げ、真っ青な顔でビッショリと汗をかいているのに、身体に触れると氷のように冷たくて、そのまま気を失ってしまった。
ブラッドは血の気が引いて激しく動揺した。
急いで執事のエドワードに医者を呼んでもらい、その間に自分のシャツを着せて結界を解いて少しでも早く診てもらうために自分の寝室に連れて行った。
医師を待っている間、ブラッドは激しく自分を責めた。
ルーシェが寂しさを訴えてから気が紛れるように屋上庭園も与えて、1人が寂しいのなら子供を作ろうと考えたものの、庭園はともかく結果傷付けてしまっただけだった。
悪戯に道具なんて使うものではなかった。内臓を傷付けてしまっていたのかもしれない。最近ルーシェが可愛いくおねだりしてくるものだから完全に調子に乗ってしまっていた。
申し訳ない。優しく受け入れてくれるルーシェに甘えていた。
どうして私はちゃんと気付かなかったんだ!!何故私は……っ!!
ああ、もし、もしルーシェがこのまま死んでしまったら…。私はどうしたらいいんだ。
妻を亡くしたあの時のことを思い出す。
心が通わなかった妻でさえ亡くなった時は酷く落ち込んだのに。
それがルーシェだったら…。
背筋が凍った。
考えただけでも恐ろしい。
考えたくない、でも……。
悪い結果ばかりを想像してしまい、絶望して頭を抱えて座り込んだ。
「旦那様!医師を連れて参りました!」
エドワードの声がして、急いで連れて来た医師に診てもらった。動揺していたのもあるが自分の寝室に寝かせている為、とりあえず医師には「新しい妻」だと告げた。
くれぐれも大切に扱って欲しい、と。
診察中は部屋の外に出るように言われ、待っている間も気が気じゃなかった。
しばらくしてドアが開く。
「お待たせ致しました。どうぞ、お入り下さい。」
医師が部屋に招き入れる。
ルーシェの顔色は先程より良くなっていて、すやすやと眠っていた。
「どうだ!!?ルーシェは!ルーシェは助かるのか!!?」
ブラッドは医師に詰め寄った。
「おめでとうございます。ご懐妊で御座います。」
「……………は……っ?」
まさかの言葉にブラッドは固まった。
「旦那様、おめでとう御座います!ご懐妊ですよ!!」
驚愕して固まってしまったブラッドにエドワードが改めてその言葉を口にする。
【ご懐妊】
「あ、あ、ああ、あぁぁ………」
うまく言葉が出てこない。ゴクリと息を呑んだ。全身に鳥肌が立つ。
商人は確率はかなり低いと。
妊娠はあくまで可能性でしかないと。
それでも藁にもすがる思いで、それにかけていたが、まさか、まさか本当にそれが実現するとは……!!!!
ついに……!!
歓喜のあまり手が震えて人前だというのに涙が溢れてきてしまう。ルーシェの元に歩み寄り、穏やかな表情で眠るその額に起こさぬようそっとキスをした。
「嘔吐は恐らく悪阻でしょう。今は薬と治癒の魔法で眠っておられますが奥様はまだお若いようですので、くれぐれも無理はなされませんよう…」
医師の言葉にブラッドは深く頷き、ルーシェの手を握った。
「ありがとう、ルーシェ…。」
ブラッドのその嬉しそうな姿に、エドワードと医師は静かに微笑んだ。
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