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奇妙な伯爵邸
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あれから、世にも奇妙な女性とは会えないまま三日たった。
眼鏡宰相(デイブ)を味方にする気満々だったお茶会で、アンバーが行動もしないうちに上手い具合に物事が運んでいったのには、密かにアンバーはほくそ笑んだ。
これでアンバーは何もせずともいいはず、苦労はデイブがしてくれるだろう。
アンバーは上機嫌で帰宅する。
すると、屋敷の奥から歩いてくる賑やかな商人らしき一団と行き合う。
またかとアンバーは溜め息をつく。
この頃エルノーラの散財が凄まじい。
だけど父がエルノーラにドレスや宝石を贈りたいと言い、支払いを父の個人資産からしているならば、アンバーには反対する理由がなかった。
まさに『女に溺れる男』の見本のような父に成り果てているが、長い男寡婦生活を送る父が夢を見ているなら、相手が例え幽霊であってもそっとしておく。
面倒ごとはごめんだし、巻き込まれたくもないし、君主危に近寄らずで、見ないふりをアンバーは決め込んだ。
まぁ時折りされるミミルからの『旦那様の寝室からあの娘』情報にアンバーは少しばかり心が騒ぐが、弟や妹が出来ることもないだろうから、聞かなかったことにする。
だって相手は幽霊だし。たぶん。
庭を見れば、オブリンとエルノーラが微笑み合いながら歩いている。オブリンの腕にはエルノーラの腕が絡められ、豊満な胸をぐいぐいだ。
婚約者ここにいるのに。
オブリンもエルノーラに溺れまくりで、下手すると溺死しているかもしれない。
兎も角学園で姿を見ない。これってこの家に入り浸りってことよね。たぶん。
オブリンを諫めるのも面倒で、こちらも見て見ぬふりを決め込むアンバー。だって人ごとだし。
時折りされるミミルからの『あの娘の部屋からオブリン様が』情報にアンバーは眉を顰める。
オブリンよ、いいのか相手は幽霊ですけど。結婚前に子供は出来ないだろうからいいのかな。
だって相手幽霊だし。たぶん。
証拠はきちんと押さえておいてね、とアンバーは笑顔でミミルに指示するのも忘れない。
アンバーよく出来た子
でも使用人達に関しては、流石にアンバーも笑ってられなかった。
態度もそうだが、目つきが怖い。僅かに殺気らしきものもアンバーは感じる。
王女でも王子でもないちっぽけな伯爵令嬢なのに、身の危険を感じるとは……アンバーはちょっと損した気分になる。
最悪は使用人をシャロームとミミルを残して、総入れ替えでもいいかなとアンバーは思っているが、元凶のエルノーラがいる限りは同じことの繰り返しになりそうで、現状は動けなかった。
つくづくリベラ男爵家に、返品不可だったのは残念である。
アンバーが執務室に向かっていると、廊下でエルノーラとオブリンと会う。
満面の笑みを讃えてエルノーラはアンバーに駆け寄ってきた。
「お姉さまお帰りなさいせ」
エルノーラはアンバーに纏わりつき、アンバーのしているアメジストの普段使いのネックレスに目を止めた。
「お姉さま、そのネックレス素敵ね。欲しいわ。ねえ、エルにそのネックレス頂戴。」
キラキラ目を輝かせてエルノーラは、アンバーの付けているネックレスを見つめている。
――えっ何これ?怖いんだけど
アンバーが数日会わない間に、エルノーラは進化していた。
それもよく分からない方向に。
アンバーは引き攣った顔で恐ろしさのあまり固まっていると、主演エルノーラ劇場が開幕した。
「お姉さまはずるい。いっぱい色々持ってて。エルは少ししかないのに」
ぐすぐすと泣きだす。
そりゃ、長い年月幽霊暮らしでは、持ち物はないよね。
「お姉さまは健康でずるい。エルは家から出れないのに。」
家から出れないのは、エルノーラの都合ではないのか。たぶん。
オブリンはオロオロしながら、エルノーラを慰めている。婚約者はアンバーなのに
ぐずぐず泣く声を聞いたのだろうか、父が慌てやってくる。
「エル、どうしたんだ!」
エルノーラは得意の上目遣いで父を見る。
「お姉さまのネックレスが素敵で。エル欲しくなっちゃったの」
「アンバー、ネックレスの一つや二つ、エルに譲ってやりなさい。アンバーはお姉さんなんだから」
アンバーはあげるとも、あげないとも言ってない。言葉すら発していないのに、アンバーが渡すのを嫌がったかのようになっている。
どうして解せない。
アンバーがネックレスをエルノーラに渡すと、エルノーラは満面の笑みを浮かべて渡されたネックレスを眺めてうっとりする。
「ありがとうお姉さま」
「それからエルノーラとは正式に養子縁組が整った」
「そうなのお姉さま、私も伯爵令嬢になりましたの」
それは嬉しそうなエルノーラ。
「近いうちにエルノーラのお披露目の夜会をするから、アンバーもそのつもりで」
アンバーは戸籍はどうしたのとか、夜会はどれくらいの規模でとか聞きたかったが、言葉を飲み込んだ。
聞いたところでアンバーの欲しい回答はきっと返ってこない。
エルノーラの魅了のせいで、意思疎通が取れなくなってきているからだ。
アンバーは溜め息を吐いた。
眼鏡宰相(デイブ)を味方にする気満々だったお茶会で、アンバーが行動もしないうちに上手い具合に物事が運んでいったのには、密かにアンバーはほくそ笑んだ。
これでアンバーは何もせずともいいはず、苦労はデイブがしてくれるだろう。
アンバーは上機嫌で帰宅する。
すると、屋敷の奥から歩いてくる賑やかな商人らしき一団と行き合う。
またかとアンバーは溜め息をつく。
この頃エルノーラの散財が凄まじい。
だけど父がエルノーラにドレスや宝石を贈りたいと言い、支払いを父の個人資産からしているならば、アンバーには反対する理由がなかった。
まさに『女に溺れる男』の見本のような父に成り果てているが、長い男寡婦生活を送る父が夢を見ているなら、相手が例え幽霊であってもそっとしておく。
面倒ごとはごめんだし、巻き込まれたくもないし、君主危に近寄らずで、見ないふりをアンバーは決め込んだ。
まぁ時折りされるミミルからの『旦那様の寝室からあの娘』情報にアンバーは少しばかり心が騒ぐが、弟や妹が出来ることもないだろうから、聞かなかったことにする。
だって相手は幽霊だし。たぶん。
庭を見れば、オブリンとエルノーラが微笑み合いながら歩いている。オブリンの腕にはエルノーラの腕が絡められ、豊満な胸をぐいぐいだ。
婚約者ここにいるのに。
オブリンもエルノーラに溺れまくりで、下手すると溺死しているかもしれない。
兎も角学園で姿を見ない。これってこの家に入り浸りってことよね。たぶん。
オブリンを諫めるのも面倒で、こちらも見て見ぬふりを決め込むアンバー。だって人ごとだし。
時折りされるミミルからの『あの娘の部屋からオブリン様が』情報にアンバーは眉を顰める。
オブリンよ、いいのか相手は幽霊ですけど。結婚前に子供は出来ないだろうからいいのかな。
だって相手幽霊だし。たぶん。
証拠はきちんと押さえておいてね、とアンバーは笑顔でミミルに指示するのも忘れない。
アンバーよく出来た子
でも使用人達に関しては、流石にアンバーも笑ってられなかった。
態度もそうだが、目つきが怖い。僅かに殺気らしきものもアンバーは感じる。
王女でも王子でもないちっぽけな伯爵令嬢なのに、身の危険を感じるとは……アンバーはちょっと損した気分になる。
最悪は使用人をシャロームとミミルを残して、総入れ替えでもいいかなとアンバーは思っているが、元凶のエルノーラがいる限りは同じことの繰り返しになりそうで、現状は動けなかった。
つくづくリベラ男爵家に、返品不可だったのは残念である。
アンバーが執務室に向かっていると、廊下でエルノーラとオブリンと会う。
満面の笑みを讃えてエルノーラはアンバーに駆け寄ってきた。
「お姉さまお帰りなさいせ」
エルノーラはアンバーに纏わりつき、アンバーのしているアメジストの普段使いのネックレスに目を止めた。
「お姉さま、そのネックレス素敵ね。欲しいわ。ねえ、エルにそのネックレス頂戴。」
キラキラ目を輝かせてエルノーラは、アンバーの付けているネックレスを見つめている。
――えっ何これ?怖いんだけど
アンバーが数日会わない間に、エルノーラは進化していた。
それもよく分からない方向に。
アンバーは引き攣った顔で恐ろしさのあまり固まっていると、主演エルノーラ劇場が開幕した。
「お姉さまはずるい。いっぱい色々持ってて。エルは少ししかないのに」
ぐすぐすと泣きだす。
そりゃ、長い年月幽霊暮らしでは、持ち物はないよね。
「お姉さまは健康でずるい。エルは家から出れないのに。」
家から出れないのは、エルノーラの都合ではないのか。たぶん。
オブリンはオロオロしながら、エルノーラを慰めている。婚約者はアンバーなのに
ぐずぐず泣く声を聞いたのだろうか、父が慌てやってくる。
「エル、どうしたんだ!」
エルノーラは得意の上目遣いで父を見る。
「お姉さまのネックレスが素敵で。エル欲しくなっちゃったの」
「アンバー、ネックレスの一つや二つ、エルに譲ってやりなさい。アンバーはお姉さんなんだから」
アンバーはあげるとも、あげないとも言ってない。言葉すら発していないのに、アンバーが渡すのを嫌がったかのようになっている。
どうして解せない。
アンバーがネックレスをエルノーラに渡すと、エルノーラは満面の笑みを浮かべて渡されたネックレスを眺めてうっとりする。
「ありがとうお姉さま」
「それからエルノーラとは正式に養子縁組が整った」
「そうなのお姉さま、私も伯爵令嬢になりましたの」
それは嬉しそうなエルノーラ。
「近いうちにエルノーラのお披露目の夜会をするから、アンバーもそのつもりで」
アンバーは戸籍はどうしたのとか、夜会はどれくらいの規模でとか聞きたかったが、言葉を飲み込んだ。
聞いたところでアンバーの欲しい回答はきっと返ってこない。
エルノーラの魅了のせいで、意思疎通が取れなくなってきているからだ。
アンバーは溜め息を吐いた。
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