10 / 38
奇妙な伯爵邸
しおりを挟む
あれから、世にも奇妙な女性とは会えないまま三日たった。
眼鏡宰相(デイブ)を味方にする気満々だったお茶会で、アンバーが行動もしないうちに上手い具合に物事が運んでいったのには、密かにアンバーはほくそ笑んだ。
これでアンバーは何もせずともいいはず、苦労はデイブがしてくれるだろう。
アンバーは上機嫌で帰宅する。
すると、屋敷の奥から歩いてくる賑やかな商人らしき一団と行き合う。
またかとアンバーは溜め息をつく。
この頃エルノーラの散財が凄まじい。
だけど父がエルノーラにドレスや宝石を贈りたいと言い、支払いを父の個人資産からしているならば、アンバーには反対する理由がなかった。
まさに『女に溺れる男』の見本のような父に成り果てているが、長い男寡婦生活を送る父が夢を見ているなら、相手が例え幽霊であってもそっとしておく。
面倒ごとはごめんだし、巻き込まれたくもないし、君主危に近寄らずで、見ないふりをアンバーは決め込んだ。
まぁ時折りされるミミルからの『旦那様の寝室からあの娘』情報にアンバーは少しばかり心が騒ぐが、弟や妹が出来ることもないだろうから、聞かなかったことにする。
だって相手は幽霊だし。たぶん。
庭を見れば、オブリンとエルノーラが微笑み合いながら歩いている。オブリンの腕にはエルノーラの腕が絡められ、豊満な胸をぐいぐいだ。
婚約者ここにいるのに。
オブリンもエルノーラに溺れまくりで、下手すると溺死しているかもしれない。
兎も角学園で姿を見ない。これってこの家に入り浸りってことよね。たぶん。
オブリンを諫めるのも面倒で、こちらも見て見ぬふりを決め込むアンバー。だって人ごとだし。
時折りされるミミルからの『あの娘の部屋からオブリン様が』情報にアンバーは眉を顰める。
オブリンよ、いいのか相手は幽霊ですけど。結婚前に子供は出来ないだろうからいいのかな。
だって相手幽霊だし。たぶん。
証拠はきちんと押さえておいてね、とアンバーは笑顔でミミルに指示するのも忘れない。
アンバーよく出来た子
でも使用人達に関しては、流石にアンバーも笑ってられなかった。
態度もそうだが、目つきが怖い。僅かに殺気らしきものもアンバーは感じる。
王女でも王子でもないちっぽけな伯爵令嬢なのに、身の危険を感じるとは……アンバーはちょっと損した気分になる。
最悪は使用人をシャロームとミミルを残して、総入れ替えでもいいかなとアンバーは思っているが、元凶のエルノーラがいる限りは同じことの繰り返しになりそうで、現状は動けなかった。
つくづくリベラ男爵家に、返品不可だったのは残念である。
アンバーが執務室に向かっていると、廊下でエルノーラとオブリンと会う。
満面の笑みを讃えてエルノーラはアンバーに駆け寄ってきた。
「お姉さまお帰りなさいせ」
エルノーラはアンバーに纏わりつき、アンバーのしているアメジストの普段使いのネックレスに目を止めた。
「お姉さま、そのネックレス素敵ね。欲しいわ。ねえ、エルにそのネックレス頂戴。」
キラキラ目を輝かせてエルノーラは、アンバーの付けているネックレスを見つめている。
――えっ何これ?怖いんだけど
アンバーが数日会わない間に、エルノーラは進化していた。
それもよく分からない方向に。
アンバーは引き攣った顔で恐ろしさのあまり固まっていると、主演エルノーラ劇場が開幕した。
「お姉さまはずるい。いっぱい色々持ってて。エルは少ししかないのに」
ぐすぐすと泣きだす。
そりゃ、長い年月幽霊暮らしでは、持ち物はないよね。
「お姉さまは健康でずるい。エルは家から出れないのに。」
家から出れないのは、エルノーラの都合ではないのか。たぶん。
オブリンはオロオロしながら、エルノーラを慰めている。婚約者はアンバーなのに
ぐずぐず泣く声を聞いたのだろうか、父が慌てやってくる。
「エル、どうしたんだ!」
エルノーラは得意の上目遣いで父を見る。
「お姉さまのネックレスが素敵で。エル欲しくなっちゃったの」
「アンバー、ネックレスの一つや二つ、エルに譲ってやりなさい。アンバーはお姉さんなんだから」
アンバーはあげるとも、あげないとも言ってない。言葉すら発していないのに、アンバーが渡すのを嫌がったかのようになっている。
どうして解せない。
アンバーがネックレスをエルノーラに渡すと、エルノーラは満面の笑みを浮かべて渡されたネックレスを眺めてうっとりする。
「ありがとうお姉さま」
「それからエルノーラとは正式に養子縁組が整った」
「そうなのお姉さま、私も伯爵令嬢になりましたの」
それは嬉しそうなエルノーラ。
「近いうちにエルノーラのお披露目の夜会をするから、アンバーもそのつもりで」
アンバーは戸籍はどうしたのとか、夜会はどれくらいの規模でとか聞きたかったが、言葉を飲み込んだ。
聞いたところでアンバーの欲しい回答はきっと返ってこない。
エルノーラの魅了のせいで、意思疎通が取れなくなってきているからだ。
アンバーは溜め息を吐いた。
眼鏡宰相(デイブ)を味方にする気満々だったお茶会で、アンバーが行動もしないうちに上手い具合に物事が運んでいったのには、密かにアンバーはほくそ笑んだ。
これでアンバーは何もせずともいいはず、苦労はデイブがしてくれるだろう。
アンバーは上機嫌で帰宅する。
すると、屋敷の奥から歩いてくる賑やかな商人らしき一団と行き合う。
またかとアンバーは溜め息をつく。
この頃エルノーラの散財が凄まじい。
だけど父がエルノーラにドレスや宝石を贈りたいと言い、支払いを父の個人資産からしているならば、アンバーには反対する理由がなかった。
まさに『女に溺れる男』の見本のような父に成り果てているが、長い男寡婦生活を送る父が夢を見ているなら、相手が例え幽霊であってもそっとしておく。
面倒ごとはごめんだし、巻き込まれたくもないし、君主危に近寄らずで、見ないふりをアンバーは決め込んだ。
まぁ時折りされるミミルからの『旦那様の寝室からあの娘』情報にアンバーは少しばかり心が騒ぐが、弟や妹が出来ることもないだろうから、聞かなかったことにする。
だって相手は幽霊だし。たぶん。
庭を見れば、オブリンとエルノーラが微笑み合いながら歩いている。オブリンの腕にはエルノーラの腕が絡められ、豊満な胸をぐいぐいだ。
婚約者ここにいるのに。
オブリンもエルノーラに溺れまくりで、下手すると溺死しているかもしれない。
兎も角学園で姿を見ない。これってこの家に入り浸りってことよね。たぶん。
オブリンを諫めるのも面倒で、こちらも見て見ぬふりを決め込むアンバー。だって人ごとだし。
時折りされるミミルからの『あの娘の部屋からオブリン様が』情報にアンバーは眉を顰める。
オブリンよ、いいのか相手は幽霊ですけど。結婚前に子供は出来ないだろうからいいのかな。
だって相手幽霊だし。たぶん。
証拠はきちんと押さえておいてね、とアンバーは笑顔でミミルに指示するのも忘れない。
アンバーよく出来た子
でも使用人達に関しては、流石にアンバーも笑ってられなかった。
態度もそうだが、目つきが怖い。僅かに殺気らしきものもアンバーは感じる。
王女でも王子でもないちっぽけな伯爵令嬢なのに、身の危険を感じるとは……アンバーはちょっと損した気分になる。
最悪は使用人をシャロームとミミルを残して、総入れ替えでもいいかなとアンバーは思っているが、元凶のエルノーラがいる限りは同じことの繰り返しになりそうで、現状は動けなかった。
つくづくリベラ男爵家に、返品不可だったのは残念である。
アンバーが執務室に向かっていると、廊下でエルノーラとオブリンと会う。
満面の笑みを讃えてエルノーラはアンバーに駆け寄ってきた。
「お姉さまお帰りなさいせ」
エルノーラはアンバーに纏わりつき、アンバーのしているアメジストの普段使いのネックレスに目を止めた。
「お姉さま、そのネックレス素敵ね。欲しいわ。ねえ、エルにそのネックレス頂戴。」
キラキラ目を輝かせてエルノーラは、アンバーの付けているネックレスを見つめている。
――えっ何これ?怖いんだけど
アンバーが数日会わない間に、エルノーラは進化していた。
それもよく分からない方向に。
アンバーは引き攣った顔で恐ろしさのあまり固まっていると、主演エルノーラ劇場が開幕した。
「お姉さまはずるい。いっぱい色々持ってて。エルは少ししかないのに」
ぐすぐすと泣きだす。
そりゃ、長い年月幽霊暮らしでは、持ち物はないよね。
「お姉さまは健康でずるい。エルは家から出れないのに。」
家から出れないのは、エルノーラの都合ではないのか。たぶん。
オブリンはオロオロしながら、エルノーラを慰めている。婚約者はアンバーなのに
ぐずぐず泣く声を聞いたのだろうか、父が慌てやってくる。
「エル、どうしたんだ!」
エルノーラは得意の上目遣いで父を見る。
「お姉さまのネックレスが素敵で。エル欲しくなっちゃったの」
「アンバー、ネックレスの一つや二つ、エルに譲ってやりなさい。アンバーはお姉さんなんだから」
アンバーはあげるとも、あげないとも言ってない。言葉すら発していないのに、アンバーが渡すのを嫌がったかのようになっている。
どうして解せない。
アンバーがネックレスをエルノーラに渡すと、エルノーラは満面の笑みを浮かべて渡されたネックレスを眺めてうっとりする。
「ありがとうお姉さま」
「それからエルノーラとは正式に養子縁組が整った」
「そうなのお姉さま、私も伯爵令嬢になりましたの」
それは嬉しそうなエルノーラ。
「近いうちにエルノーラのお披露目の夜会をするから、アンバーもそのつもりで」
アンバーは戸籍はどうしたのとか、夜会はどれくらいの規模でとか聞きたかったが、言葉を飲み込んだ。
聞いたところでアンバーの欲しい回答はきっと返ってこない。
エルノーラの魅了のせいで、意思疎通が取れなくなってきているからだ。
アンバーは溜め息を吐いた。
1
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。
ララ
恋愛
婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。
愛する彼は他の女性を選んで、彼女との理想を私に語りました。
結果慰謝料を取り婚約破棄するも、私の心は晴れないまま。
【完結】急に態度を変えて来られても貴方のことは好きでも何でもありません!
珊瑚
恋愛
太っているせいで婚約者に罵られていたシャーロット。見切りをつけ、婚約破棄の書類を纏め、友達と自由に遊んだり、関係改善を諦めたら一気に激痩せ。今更態度を変えてきましたが私の貴方への気持ちが変わることは金輪際ありません。
新たな物語はあなたと共に
mahiro
恋愛
婚約破棄と共に断罪を言い渡され、私は18歳という若さでこの世を去った筈だったのに、目を覚ますと私の婚約者を奪った女に成り代わっていた。
何故こんなことになったのか、これは何の罰なのかと思いながら今まで味わったことのない平民の生活を送ることとなった。
それから数年が経過し、特待生として以前通っていた学園へと入学が決まった。
そこには過去存在していた私の姿と私を断罪した婚約者の姿があったのだった。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
辺境伯は王女から婚約破棄される
高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」
会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。
王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。
彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。
だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。
婚約破棄の宣言から始まる物語。
ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。
辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。
だが、辺境伯側にも言い分はあって……。
男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。
それだけを原動力にした作品。
元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる