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裏の状況から説明しよう ①
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天気のいい昼下がりにデイブは実家であるルイス侯爵邸を久しぶりに訪れた。
目的はデイブの母、侯爵夫人とお茶をしているソコロの母、公爵夫人と会うためだ。今日、母と公爵夫人が会うと事前に情報は掴んでいたが、デイブはあくまで偶然を装って会うつもりだった。
侯爵邸のテラスまで足を進めれば、咲き誇る花々がよく見える位置で、二人の淑女は優しげな声で話しながら優雅に午後のお茶を楽しんでいるのが見え、デイブに気が付くと会話を止めて二人とも近づいてくるデイブへ視線を移した。
「お久しぶりです。母上、公爵夫人」
そつなく挨拶をするが、ドゥリー伯爵家に婿に行ってから侯爵邸に仲々顔を出さないデイブに、侯爵夫人は渋い顔をして迎えた。
「あらドゥリー伯爵、随分と久しぶりですこと」
……どうやら母の機嫌はよくないらしい、とデイブはただちに気付き冷や汗をかく。まずい、ここは母の援護が欲しい場面なのに。
「あらまだ顔が見れるだけましでしてよ」
公爵夫人はにっこり笑い、コロコロと鈴を転がしたような優しげな声で言ったが……これも嫌味である。だが公爵夫人が顔の見れない相手がソコロを指しているなら、こちらの案にのって貰えるかもしれない。とデイブは一縷の望みを繋いだ。
「すみません母上。――その少し忙しかったもので」
デイブは低姿勢で母のご機嫌を伺ってみる。
「忙しいってとても都合のいい言葉ですのね……まぁいいわ。今日は一人なの?たまにはアンバーも連れてらっしゃい」
一応は公爵夫人のいるお茶の席に同席をすることを許されたらしい。侍女がカップを持ってこちらにやって来る。
和やかな時間が過ぎていく……表面的には。実はデイブ、この二人が苦手だった。誤解のないようにいうが自分の母もソコロの母も好きだ。だが淑女の仮面をつけた下の顔がとんと見えないところに恐怖を感じて顔がどうしても引き攣ってしまう。
デイブは自覚してないが女性に無関心になったのも人とは違った感性になったのも、この二人の影響を受けたのは間違いなかった。
今も優雅にお茶をのみ聖母の如き微笑みを絶やさない二人の裏の顔を考えると冷や汗が止まらないデイブだった。
「ところでもうすぐソコロの結婚式ですね」
切りよく会話が途切れたのを見計らいデイブからしたら本題を切り出してみる。不自然ではなかったはず。うん。
「まぁ、そうでしたかしら?ソコロとは全然会えてませんし、夫も息子もなにも言ってませんでしたわ」
公爵夫人はおっとりと慈悲深い微笑みを浮かべ優雅に嫌味を言う。デイブの顔は固まった。こっ怖い……。だがここで引き下がっては男が廃るとばかりに自分を奮い立たせる。
「これの機会にモルガン公爵とソコロ嬢の仲を……とかんがえてまして…………」
公爵夫人が蠱惑的な微笑みを浮かべる……がデイブには目が笑っていないのが長い付き合いもあり分かる……こっ怖い。背中に冷たい汗が流れた。
「まぁ、夫とソコロは仲違いしてましたのね。どうしましょう?わたくし、ちっとも気づきませんでしたわ」
公爵夫人の伏した目がきらりと光るのをデイブは見た!見たくはなかったが見てしまった。ごくり……デイブは固唾を飲む。
「まぁ、わたくしも初耳ですわ。なにがあったのでしょう?」
あら、まぁ、うふふと公爵夫人と侯爵夫人は『ねぇ』とでも言いたげに優美に笑い合う。母よ!援護射撃するなら其方ではなく此方にしてくれたまえ。とデイブは心中で思っても口にはだせない。……恐ろし過ぎて。
「いや、あの、その……」
言葉に詰まりそのあとを言い出せないデイブ。だがここで負けるわけにはいかない。なんとしてもソコロにナイルズ皇子から贈られたウエディングドレスを着てもらわないと、自分の出世にも響く。
「では一から説明が必要ですか?」
デイブは必死に外向きの笑顔を貼り付ける。
「結構よデイブ。貴方、どうやらわたくしに用事があるようね」
声調は淑女のそれ。たが棘を含んでいる。あーー淑女怖い。母の眼光も鋭くなっている。
「単刀直入にお話します。ハーディング伯爵、スチュアートは未だにモルガン公爵とは会えていない状況と伺ってます。そこで此方としては是非二人を引き合わせる場を公爵夫人のお力で実現いただければ……と」
ちらっと公爵夫人と母を見れば、表情からはなんの感情も読み取れない。幾分公爵夫人の眉間に皺が寄っているので、この話に興味はありそうだ。この話に食いついてくれと、デイブは願った。
「……そうね、このまま此方が行動を起こさなければ、ずっとこのままね。あの人もソコロも頑固だから」
公爵夫人は可愛らしく溜め息をつく。『頑固』の部分にデイブも同感とばかりに頷く。モルガン公爵譲りだったのか……。
「でも、モルガン公爵邸では会えませんわよ。多分ですが。あの人は逃げてしまうでしょうね。だから……」
公爵夫人はデイブを真っ直ぐに見つめると、扇で口元を隠した。
「だから……」
公爵夫人の『だから』に続く言葉がデイブには恐ろしい提案になるのではないかと疑う。可憐で少女のような雰囲気ではあるが、実は恐ろしい人なのだ。少なくともデイブには。たらり……冷や汗が流れる。
「王宮で捕まえればよろしいのですわ」
「王宮で?」
「ええ、王宮であの人は王宮に私室をいただいてますから、そこで捕まえればいいわ」
ふふ。このお菓子おいしそうねとクッキーを一つ摘むと、公爵夫人は口に運ぶ。
「そうね、王宮はデイブの領域でもあるわね。モルガン公爵邸より動き易いのではなくて」
母よ!ここで援護射撃ですか?しかも公爵夫人の。デイブは動揺を隠すように紅茶を啜った。
「しかしモルガン公爵は王宮を嫌っています。登城も余程のことがなければなさらないはずですが」
元々遺恨がある王宮とモルガン公爵家なのに、第一王子だったスチュアートとソコロの婚約解消、しかもまたしても王宮の有責だ。どれだけ王家はモルガン公爵家を侮るつもりかと、公爵家当主としての憤りもあるのだろう。今の公爵は滅多に登城しない。王家主催の夜会にすら出席を拒否していて、王家に許されている。
そのような状況でモルガン公爵を王宮で捕まえるなど……至難の業である。国王陛下になんらかの理由で呼びだしてもらう?……用事もないのに呼びだされたら、モルガン公爵の烈火の如く怒る姿が安易に想像できるではないか。
悶々とデイブが王宮へモルガン公爵を呼びだす方法を考えていると、公爵夫人が口元を緩め両耳のサファイアのイヤリングを外すとデイブの前に置いた。
「あの人に『王宮の私室にイヤリングを忘れてきてしまった』と言いますわ。そして必要になりましたとも」
公爵夫人の瞳は、意味は分かりますわよね?とデイブに語っている。
「えっでは私がこのイヤリングを公爵の私室へ?」
「場所はそうですわね。ベッド脇のサイドボードの引き出しがよろしいかしら」
えっ公爵夫人は今なんと言った?デイブに王宮内にある公爵の私室に忍び込み、このイヤリングを置いてこい……と言ったよな?貴族らしく遠回しに。確かにそうとれる発言が……。
にっこりと微笑む公爵夫人は二児の母には見えない妖精のように可憐な姿なのに、デイブにはもはや悪魔にしか見えなかった。
「あら、そこではモルガン公爵には分かり辛くなくて?サイドテーブルの上のがよろしくない?」
そしてデイブの母も決定事項のように語っている。母よ!息子が不法侵入という罪を犯してもいいのか……。
「あらそうかしら。侍女が掃除に私室には入るでしょう?でしたら目につかない場所のがよろしくなくて」
「まぁ確かに!わたくしったら気づきませんでしたわ」
ほほほと淑女二人は笑い合う。……デイブが私室に侵入するのは決定事項のようだ……淑女怖い。
「では、ドゥリー伯爵、よろしくお願いしますわね」
「デイブ、捕まらないように。捕まっても侯爵家には迷惑をかけないようにしてちょうだいね」
おほほ、うふふと側から見たら和やかなお茶の席はこうして幕を閉じ、清廉潔白なデイブはまさかこの年齢で犯罪まがいの真似をすることになるとは……と、真っ青な顔で帰宅し、アンバーに心配されるのだった。
目的はデイブの母、侯爵夫人とお茶をしているソコロの母、公爵夫人と会うためだ。今日、母と公爵夫人が会うと事前に情報は掴んでいたが、デイブはあくまで偶然を装って会うつもりだった。
侯爵邸のテラスまで足を進めれば、咲き誇る花々がよく見える位置で、二人の淑女は優しげな声で話しながら優雅に午後のお茶を楽しんでいるのが見え、デイブに気が付くと会話を止めて二人とも近づいてくるデイブへ視線を移した。
「お久しぶりです。母上、公爵夫人」
そつなく挨拶をするが、ドゥリー伯爵家に婿に行ってから侯爵邸に仲々顔を出さないデイブに、侯爵夫人は渋い顔をして迎えた。
「あらドゥリー伯爵、随分と久しぶりですこと」
……どうやら母の機嫌はよくないらしい、とデイブはただちに気付き冷や汗をかく。まずい、ここは母の援護が欲しい場面なのに。
「あらまだ顔が見れるだけましでしてよ」
公爵夫人はにっこり笑い、コロコロと鈴を転がしたような優しげな声で言ったが……これも嫌味である。だが公爵夫人が顔の見れない相手がソコロを指しているなら、こちらの案にのって貰えるかもしれない。とデイブは一縷の望みを繋いだ。
「すみません母上。――その少し忙しかったもので」
デイブは低姿勢で母のご機嫌を伺ってみる。
「忙しいってとても都合のいい言葉ですのね……まぁいいわ。今日は一人なの?たまにはアンバーも連れてらっしゃい」
一応は公爵夫人のいるお茶の席に同席をすることを許されたらしい。侍女がカップを持ってこちらにやって来る。
和やかな時間が過ぎていく……表面的には。実はデイブ、この二人が苦手だった。誤解のないようにいうが自分の母もソコロの母も好きだ。だが淑女の仮面をつけた下の顔がとんと見えないところに恐怖を感じて顔がどうしても引き攣ってしまう。
デイブは自覚してないが女性に無関心になったのも人とは違った感性になったのも、この二人の影響を受けたのは間違いなかった。
今も優雅にお茶をのみ聖母の如き微笑みを絶やさない二人の裏の顔を考えると冷や汗が止まらないデイブだった。
「ところでもうすぐソコロの結婚式ですね」
切りよく会話が途切れたのを見計らいデイブからしたら本題を切り出してみる。不自然ではなかったはず。うん。
「まぁ、そうでしたかしら?ソコロとは全然会えてませんし、夫も息子もなにも言ってませんでしたわ」
公爵夫人はおっとりと慈悲深い微笑みを浮かべ優雅に嫌味を言う。デイブの顔は固まった。こっ怖い……。だがここで引き下がっては男が廃るとばかりに自分を奮い立たせる。
「これの機会にモルガン公爵とソコロ嬢の仲を……とかんがえてまして…………」
公爵夫人が蠱惑的な微笑みを浮かべる……がデイブには目が笑っていないのが長い付き合いもあり分かる……こっ怖い。背中に冷たい汗が流れた。
「まぁ、夫とソコロは仲違いしてましたのね。どうしましょう?わたくし、ちっとも気づきませんでしたわ」
公爵夫人の伏した目がきらりと光るのをデイブは見た!見たくはなかったが見てしまった。ごくり……デイブは固唾を飲む。
「まぁ、わたくしも初耳ですわ。なにがあったのでしょう?」
あら、まぁ、うふふと公爵夫人と侯爵夫人は『ねぇ』とでも言いたげに優美に笑い合う。母よ!援護射撃するなら其方ではなく此方にしてくれたまえ。とデイブは心中で思っても口にはだせない。……恐ろし過ぎて。
「いや、あの、その……」
言葉に詰まりそのあとを言い出せないデイブ。だがここで負けるわけにはいかない。なんとしてもソコロにナイルズ皇子から贈られたウエディングドレスを着てもらわないと、自分の出世にも響く。
「では一から説明が必要ですか?」
デイブは必死に外向きの笑顔を貼り付ける。
「結構よデイブ。貴方、どうやらわたくしに用事があるようね」
声調は淑女のそれ。たが棘を含んでいる。あーー淑女怖い。母の眼光も鋭くなっている。
「単刀直入にお話します。ハーディング伯爵、スチュアートは未だにモルガン公爵とは会えていない状況と伺ってます。そこで此方としては是非二人を引き合わせる場を公爵夫人のお力で実現いただければ……と」
ちらっと公爵夫人と母を見れば、表情からはなんの感情も読み取れない。幾分公爵夫人の眉間に皺が寄っているので、この話に興味はありそうだ。この話に食いついてくれと、デイブは願った。
「……そうね、このまま此方が行動を起こさなければ、ずっとこのままね。あの人もソコロも頑固だから」
公爵夫人は可愛らしく溜め息をつく。『頑固』の部分にデイブも同感とばかりに頷く。モルガン公爵譲りだったのか……。
「でも、モルガン公爵邸では会えませんわよ。多分ですが。あの人は逃げてしまうでしょうね。だから……」
公爵夫人はデイブを真っ直ぐに見つめると、扇で口元を隠した。
「だから……」
公爵夫人の『だから』に続く言葉がデイブには恐ろしい提案になるのではないかと疑う。可憐で少女のような雰囲気ではあるが、実は恐ろしい人なのだ。少なくともデイブには。たらり……冷や汗が流れる。
「王宮で捕まえればよろしいのですわ」
「王宮で?」
「ええ、王宮であの人は王宮に私室をいただいてますから、そこで捕まえればいいわ」
ふふ。このお菓子おいしそうねとクッキーを一つ摘むと、公爵夫人は口に運ぶ。
「そうね、王宮はデイブの領域でもあるわね。モルガン公爵邸より動き易いのではなくて」
母よ!ここで援護射撃ですか?しかも公爵夫人の。デイブは動揺を隠すように紅茶を啜った。
「しかしモルガン公爵は王宮を嫌っています。登城も余程のことがなければなさらないはずですが」
元々遺恨がある王宮とモルガン公爵家なのに、第一王子だったスチュアートとソコロの婚約解消、しかもまたしても王宮の有責だ。どれだけ王家はモルガン公爵家を侮るつもりかと、公爵家当主としての憤りもあるのだろう。今の公爵は滅多に登城しない。王家主催の夜会にすら出席を拒否していて、王家に許されている。
そのような状況でモルガン公爵を王宮で捕まえるなど……至難の業である。国王陛下になんらかの理由で呼びだしてもらう?……用事もないのに呼びだされたら、モルガン公爵の烈火の如く怒る姿が安易に想像できるではないか。
悶々とデイブが王宮へモルガン公爵を呼びだす方法を考えていると、公爵夫人が口元を緩め両耳のサファイアのイヤリングを外すとデイブの前に置いた。
「あの人に『王宮の私室にイヤリングを忘れてきてしまった』と言いますわ。そして必要になりましたとも」
公爵夫人の瞳は、意味は分かりますわよね?とデイブに語っている。
「えっでは私がこのイヤリングを公爵の私室へ?」
「場所はそうですわね。ベッド脇のサイドボードの引き出しがよろしいかしら」
えっ公爵夫人は今なんと言った?デイブに王宮内にある公爵の私室に忍び込み、このイヤリングを置いてこい……と言ったよな?貴族らしく遠回しに。確かにそうとれる発言が……。
にっこりと微笑む公爵夫人は二児の母には見えない妖精のように可憐な姿なのに、デイブにはもはや悪魔にしか見えなかった。
「あら、そこではモルガン公爵には分かり辛くなくて?サイドテーブルの上のがよろしくない?」
そしてデイブの母も決定事項のように語っている。母よ!息子が不法侵入という罪を犯してもいいのか……。
「あらそうかしら。侍女が掃除に私室には入るでしょう?でしたら目につかない場所のがよろしくなくて」
「まぁ確かに!わたくしったら気づきませんでしたわ」
ほほほと淑女二人は笑い合う。……デイブが私室に侵入するのは決定事項のようだ……淑女怖い。
「では、ドゥリー伯爵、よろしくお願いしますわね」
「デイブ、捕まらないように。捕まっても侯爵家には迷惑をかけないようにしてちょうだいね」
おほほ、うふふと側から見たら和やかなお茶の席はこうして幕を閉じ、清廉潔白なデイブはまさかこの年齢で犯罪まがいの真似をすることになるとは……と、真っ青な顔で帰宅し、アンバーに心配されるのだった。
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