精霊に愛された亡国の姫

第9話: 精霊界の決戦

精霊界の奥深く、ジュリアは精霊たちが怯えて逃げ惑う光景を目にした。闇が広がり、その中心には黒い霧の塊が渦巻いている。その存在感に、ジュリアは全身を震わせた。

「これが……ミレーユの仕業……？」
彼女が呟いた瞬間、黒い霧の中からミレーユが姿を現した。その顔には冷たい笑みが浮かんでいる。

「ジュリア王女、よくここまで来ましたね。」
彼女の声は静かだが、その響きには確かな威圧感があった。

「どうしてこんなことをするの……？」
ジュリアは震える声で問いかけた。

「精霊の力は、この世界を支配するための最強の武器よ。」
ミレーユは魔道具を手に、ジュリアに一歩近づいた。
「あなたの力を奪い取れば、私は精霊界も人間界も支配できる。」




ジュリアは母のペンダントを握りしめながら答えた。
「精霊たちは力を貸してくれる存在であって、道具じゃない。そんなこと、絶対に許さない！」

その言葉を合図に、二人の間で激しい戦いが始まった。ミレーユは魔道具を使い、黒い影を操ってジュリアを攻撃する。その一撃一撃が精霊界を揺るがし、周囲の光が次第に弱まっていく。

ジュリアは精霊たちの声を聞きながら、何とか防御を続けた。しかし、彼女の力はまだ完全には覚醒しておらず、圧倒され始める。




その時、ジュリアの耳に微かな声が聞こえた。それは泉の精霊アクアリア、森の精霊シルヴァン、そして周囲に宿る無数の精霊たちの声だった。

「ジュリア様、私たちの力を……使ってください……。」

ジュリアは一瞬迷ったが、精霊たちの切なる願いを感じ取ると、心を開いた。
「わかった、みんな……力を貸して！」

その瞬間、ジュリアの体を眩い光が包み込んだ。精霊たちの力が彼女の中に流れ込み、黒い影をかき消すような強力なエネルギーが生まれた。




光の中に立つジュリアの姿を見たミレーユは、一瞬だけ動揺を見せた。しかし、すぐに冷たい笑みを浮かべ、さらに力を解放した。

「その光がどれほど強くても、私は負けない！」
ミレーユは最後の力を振り絞り、闇の塊を操ってジュリアに襲いかかる。

「これ以上、精霊たちを苦しめさせない！」
ジュリアは全身の力を解放し、精霊たちの光をミレーユの闇にぶつけた。その瞬間、激しい光と闇の衝突が起こり、精霊界全体が震えた。




光が収まると、ミレーユは膝をつき、静かに涙を流していた。
「なぜ……私は力を求めただけなのに……。」

ジュリアは彼女の前に歩み寄り、そっと手を差し伸べた。
「力を使うのは、誰かを守るためであって、傷つけるためではないわ。」

ミレーユはその言葉に何かを悟ったように、そっと頷いた。そして静かにその場を去っていった。