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10話 真実を告げる声
しおりを挟むリオたちは隠れ家で次の作戦について話し合っていた。エナが提供した情報によると、教団の中にもアルグレオに疑念を抱いている者がいるという。
「教団の中立派に接触するのが最初の一歩ね」
エナが地図を指差しながら言った。そこには教団の一部施設と、その近くに住む幹部たちの名前が記されていた。
「中立派って、教団のやり方に反対してるの?」
サヤが疑問を口にすると、エナは頷いた。
「ええ。番至上主義を支持してはいるけれど、アルグレオの独裁的なやり方には疑問を持っているわ。彼らを味方にできれば、アルグレオの立場を大きく揺るがせる」
「面白い。そいつらに会ってみる価値はありそうだな」
リオは不敵に笑いながら言った。
その夜、リオとサヤは中立派の一人である老獣人の家を訪ねた。彼の名はグレイ、教団内では穏健派として知られている。
「リオだな……お前の噂は聞いている」
グレイは静かな目でリオを見つめた。その目には警戒と興味が混じっている。
「噂通りの詐欺師か、それともただの野心家か。どちらにせよ、私に何を望んでいる?」
リオは笑みを浮かべ、机の上に共鳴香石を置いた。
「俺が望むのは、この街の連中を自由にすることだ。番至上主義なんてくだらない幻想を壊してな」
「幻想だと?」
グレイの眉が動いた。
「アルグレオの番が存在しないことを、お前も感じているはずだろう?」
その言葉に、グレイの表情が一瞬硬直する。
「……それが真実だとして、それを暴くことで何が変わる?」
「何が変わるかは、お前ら次第だ。ただ、アルグレオの嘘が明らかになれば、この街は少しはまともになるはずだ」
リオの言葉に、グレイはしばらく黙り込んだ後、静かに頷いた。
「私一人では動けん。だが、他の中立派と話をする。少しだけ時間をくれ」
一方、教団本部では、アルグレオが部下たちを集めていた。
「リオたちの動きを報告しろ」
部下の一人が前に進み出て答えた。
「彼らは中立派のグレイと接触した模様です。ほかにも複数の穏健派と接触する可能性があります」
アルグレオの瞳が鋭く光る。
「やつらは私の立場を崩そうとしている。グレイの家を監視しろ。リオたちが戻ってくる前に確保するのだ」
「はっ!」
アルグレオは冷静な表情を保ちながらも、内心では焦りを感じていた。自分の秘密が暴かれることは、彼のすべてを失うことを意味していた。
リオとサヤがグレイの家を出た後、リオは口元に手を当てて考え込んでいた。
「グレイは動いてくれると思う?」
サヤが問いかけると、リオは小さく笑いながら頷いた。
「ああ、奴は賢い男だ。俺たちを裏切るような真似はしねぇだろう。ただ、教団がどう動くかが問題だ」
リオは周囲を警戒しながら歩みを進めた。エナが待つ隠れ家に戻る途中、彼らは再び教団の追っ手に遭遇する。
「リオ、どうするの……?」
「簡単だ。撒くぞ」
リオはサヤの手を引き、狭い路地を駆け抜ける。彼の機転で追っ手を振り切ることには成功したが、教団の監視が厳しくなっていることを実感した。
隠れ家に戻ると、エナが彼らを迎えた。
「どうだった?」
「グレイは動くと言った。ただ、教団もこっちの動きを把握してる。次はもっと慎重に行動しなきゃならねぇ」
リオはエナにそう伝えたが、エナはどこか安堵の表情を浮かべた。
「それならよかったわ。実はもう一人、協力者がいるの」
そう言ってエナが呼び入れたのは、教団で働いていた元メンバーだった。その獣人は緊張した面持ちでリオに頭を下げた。
「アルグレオの命令に疑問を感じていた。私は、あなたたちに協力したい」
リオはその獣人をしばらく見つめた後、静かに頷いた。
「いいだろう。ただし、俺たちに嘘をつくなよ」
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