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13. 気まずい

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 ヒート休暇一日目、の昼。
 朝のあの求婚以来、俺たちは気まずい空気のまま昼ごはんの時間を迎えていた。


 普段自炊派の俺だけど、ヒートが一日早く来たせいで四人分の食事を賄えるほどの食材がなく、マンションのフロントにお願いして簡単な食事をデリバリーした。

 以前も頼んだことのあるお店のおかずだから、おいしいのはわかってるんだよ。一緒に食べた委員長も佐伯くんもおいしいって言ってたし、何なら今ここにいる宏樹も、俺たちが食べ残したものを夜食にして太鼓判を押してたくらいだ。


 なのに、味がしない。めちゃくちゃ気まずくて、みんなひたすら黙りこくって食べていた。

 おかしいだろ?
 お前ら、俺と番いたいんじゃなかったの? 何で何も一言も喋らないで、俺の顔すらも見ないでここにいるんだよ、と妙にイライラする。


 一番最初に食べ終わった俺は、自分の分のデリバリー容器を片付けると、逃げるように食後のお茶を人数分淹れることにした。

 尚樹さんや宏樹はまだ食べてる途中だけど、わざわざ何度も淹れ直したくなかった。

 
 湯のみは二客しかなくて、尚樹さんと泰樹くんの分はマグカップで代用するけど、仕方ないから見逃してほしい。

(あ。マグカップ……お揃いじゃん……)



 人数分のお茶をトレイに載せて運ぼうとしたところで目の前に白い壁が立ちはだかる。

 壁は、泰樹くんだった。白いのはワイシャツだ。

 俺が彼を見上げると、彼もまた俺をちょうど見下ろしているところで、目が合えば軽く微笑まれた。


「真緒ちゃん。それ俺が運ぶから、真緒ちゃんは座ってて」


 彼は俺を「真緒兄ちゃん」と呼ぶことをやめた。でも宏樹みたいに「真緒」と呼び捨てにしたり、尚樹さんみたいに「真緒くん」と、くん付けするのは恥ずかしいらしい。

 いや、俺の方がこの年でその女の子みたいな呼び方に照れるんだけど……まぁ「真緒兄ちゃん」から「兄」が取れただけだし、そっちの方が言いやすいのなら気にしないでおこ。


 泰樹くんは、尚樹さんや宏樹ほど俺に気まずさを抱えてはいないようだ。あまり喋らないのは空気を読んだのか、それとも元々の性格なのかもしれない。


 泰樹くんの手には彼が食べていたデリバリーの容器。確か、ピザと、フライと、デザートの三つ。


「……えっ、もう食べ終わったの? 結構量があった気がするんだけど……」
「お腹空いてたから、あれぐらいなら余裕で食べれるよ。むしろちょっと足りないかも。俺、お土産持ってきたから後でみんなで食べたいな」


 そう言ってお腹をさすってみせる。確かに食べすぎたようには見えなかった。


「へぇマジかぁ、若いね。あ、その容器洗うからちょうだい」
「ありがとう。……俺、身長あるせいか燃費悪いんだよね。大学の寮でも一番食べてる」


 確かに泰樹くんの背は高い。


「あー……身長高い奴って結構ガッツリ食べてるかも。でもいっぱい食べるのは見てて気持ちいいから好きだな」
「……す、すきって」
「え?」


 容器を洗う水音で聞こえなかった。
 水を止めて聞き返したけど、泰樹くんはどこかはにかんで、かぶりを振る。


 泰樹くんから受け取った容器を水洗いしてゴミ箱に捨てる間に、気がつくと彼はお茶をリビングにいる残りの二人に配膳してくれている。尚樹さんも宏樹も、食べ終わって小休止しているようだった。

 泰樹くんに続いて、俺もリビングに戻る。
 この気まずさを少しでも解消できるように、まずは何か会話を始めなければ、と決めた。
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