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第3話
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りさの後を追って、工場の目の前まで来たところで、初めて気付いた。シャッターを左に曲がると、"従業員用扉"と書かれた、プレートと扉を見つけたのだ。従業員用の出入り口からはスタッフのロッカールームや事務所などに行けるのだろう。
もしかしたら、そこに母親がいるかもしれない。そう思った僕は、出入り口の方を確かめたかったけれど、りさは真っ直ぐ工場内に走って行ってしまったので、後で確認する事にした。
工場のど真ん中には大きなベルトコンベアがあり、奥には何に使うかわからない細々とした機械が並んでいる。
「りさ!戻っておいで!」
少し大きな声でりさに呼びかける。が返事はない。当たり前だが、工場内は真っ暗で、中に入ると足元も見えない。それに加えて、中には危険な機械もたくさんある事だろう。
それに恥ずかしながら、中学生の僕でも、若干の怖さに足が震えそうになるのだから、小学生のりさはもっと怖い思いをしているかもしれない。そう思い、早くりさを外に連れて行かないと、と少し焦りながら、僕はスマホのライトで辺りを照らしつつ、りさの姿を探す。
「りさ!1人になるのは危ないよ!」
ふと、工場の右奥の方をライトで照らすと、先程まで隣にいた少女の後ろ姿が見えた。
「りさ!やっといた…。」
僕は彼女に駆け寄る。
「りさ、あっちにもう1つ扉があるんだ。ママはそっちの方にいるかしれないよ。」
僕は彼女の手を取り、声を掛けた。が、彼女はその場から動かないどころか、一言も話さない。
「りさ?どうしたの?」
僕の中に、言いようのない恐怖心が芽生えた。
「もういいでしょ?ほら、行くよ。」
そう言い、強引に彼女の手を引いて外に向かう。先程は、微塵も動かなかった彼女だが、意外にも大人しく着いてきた。
工場の真ん中辺り、ちょうどベルトコンベアの横を通り過ぎようとした瞬間、りさがポツリと呟いた。
「ママ、いた。」
え?僕は外に目をやるが人影らしきものは1つもない。何故かはわからないが、僕は一刻も早く、ここを立ち去らなければいけない気がした。
正直りさが居なければ、今すぐにも全速力で走って、家に帰りたいくらいだった。
「行くよ!」
そう言って強くりさの手をひいたとき、りさがある方向を指差して言った。
「ママ…。」
どっと冷や汗が吹き出した。心臓が今までにないくらい暴れているのがわかる。ゆっくりと、彼女の指差す方に視線を向けた……。
「なにも…いないじゃん…。」
そう、彼女の指差す場所には誰も、"何も"居なかったのだ。僕は良かった~と、安堵の息を吐きながら、先程までの自分がとても滑稽に思えてきて、思わず笑ってしまった。
そのまま歩きだそうとする僕に反して、りさは依然一点を見つめている。
「ほら!いつまでそうしてるの?」
いい加減ここから出たかった僕は、少し強めの口調になってしまった。
「ママ。」
「わかったから!従業員用扉の方も確認してあげるから!」
「ママいたよ。ちゃんと見て…。」
しつこいりさに根負けした僕は、もう一度りさの指差す方に目を向ける。やはり、何度見ても一緒だ。
「何回見たって一緒……」
そう言いかけた時、初めてりさが何を指差しているのか、僕は気が付いた。
彼女がママと言っていたものは、地面に落ちている小さな石ころのようなものだった。
「なに?これ…」
よく見ようと僕はしゃがんで、ライトの光をあてた。見た目は、昔アスファルトに落書きをするのに良く使った、チョーク石に若干似ているような気がする。が、手に取ると全くの別物だとわかった。
今まで触った事がないような手触りだ。触った事がない?一度も?いや、僕はこれに見覚えがあった。厳密に言えば、別の種類の、だが。
「まさか…骨…?」
もしかしたら、そこに母親がいるかもしれない。そう思った僕は、出入り口の方を確かめたかったけれど、りさは真っ直ぐ工場内に走って行ってしまったので、後で確認する事にした。
工場のど真ん中には大きなベルトコンベアがあり、奥には何に使うかわからない細々とした機械が並んでいる。
「りさ!戻っておいで!」
少し大きな声でりさに呼びかける。が返事はない。当たり前だが、工場内は真っ暗で、中に入ると足元も見えない。それに加えて、中には危険な機械もたくさんある事だろう。
それに恥ずかしながら、中学生の僕でも、若干の怖さに足が震えそうになるのだから、小学生のりさはもっと怖い思いをしているかもしれない。そう思い、早くりさを外に連れて行かないと、と少し焦りながら、僕はスマホのライトで辺りを照らしつつ、りさの姿を探す。
「りさ!1人になるのは危ないよ!」
ふと、工場の右奥の方をライトで照らすと、先程まで隣にいた少女の後ろ姿が見えた。
「りさ!やっといた…。」
僕は彼女に駆け寄る。
「りさ、あっちにもう1つ扉があるんだ。ママはそっちの方にいるかしれないよ。」
僕は彼女の手を取り、声を掛けた。が、彼女はその場から動かないどころか、一言も話さない。
「りさ?どうしたの?」
僕の中に、言いようのない恐怖心が芽生えた。
「もういいでしょ?ほら、行くよ。」
そう言い、強引に彼女の手を引いて外に向かう。先程は、微塵も動かなかった彼女だが、意外にも大人しく着いてきた。
工場の真ん中辺り、ちょうどベルトコンベアの横を通り過ぎようとした瞬間、りさがポツリと呟いた。
「ママ、いた。」
え?僕は外に目をやるが人影らしきものは1つもない。何故かはわからないが、僕は一刻も早く、ここを立ち去らなければいけない気がした。
正直りさが居なければ、今すぐにも全速力で走って、家に帰りたいくらいだった。
「行くよ!」
そう言って強くりさの手をひいたとき、りさがある方向を指差して言った。
「ママ…。」
どっと冷や汗が吹き出した。心臓が今までにないくらい暴れているのがわかる。ゆっくりと、彼女の指差す方に視線を向けた……。
「なにも…いないじゃん…。」
そう、彼女の指差す場所には誰も、"何も"居なかったのだ。僕は良かった~と、安堵の息を吐きながら、先程までの自分がとても滑稽に思えてきて、思わず笑ってしまった。
そのまま歩きだそうとする僕に反して、りさは依然一点を見つめている。
「ほら!いつまでそうしてるの?」
いい加減ここから出たかった僕は、少し強めの口調になってしまった。
「ママ。」
「わかったから!従業員用扉の方も確認してあげるから!」
「ママいたよ。ちゃんと見て…。」
しつこいりさに根負けした僕は、もう一度りさの指差す方に目を向ける。やはり、何度見ても一緒だ。
「何回見たって一緒……」
そう言いかけた時、初めてりさが何を指差しているのか、僕は気が付いた。
彼女がママと言っていたものは、地面に落ちている小さな石ころのようなものだった。
「なに?これ…」
よく見ようと僕はしゃがんで、ライトの光をあてた。見た目は、昔アスファルトに落書きをするのに良く使った、チョーク石に若干似ているような気がする。が、手に取ると全くの別物だとわかった。
今まで触った事がないような手触りだ。触った事がない?一度も?いや、僕はこれに見覚えがあった。厳密に言えば、別の種類の、だが。
「まさか…骨…?」
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