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第1話
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理由はなんだって良かった。例えば、授業や部活でもいいし、クラスの友達との会話だとか、親の作ってくれる弁当とか、本当に何でも良かった。たとえ1つだけでも、明日への楽しみがあれば、僕はこんな夜更けにこんな場所には居ないはずだから。
つい先週までは、昼間照りつける太陽の熱が、夜中でも住宅街を包み込んでいたが、最近はめっきりおとなしくなったようだ。
捲くっていた袖をおろしながら、家のマンションの非常階段の踊り場で、僕は体育座りをしていた。スマホで時間を確認すると、0時38分。
いつもは、明日の学校に備えて、寝る準備をする時間なのだが、今日は少しだけ夜ふかしだ。明日は木曜日で、普通なら朝から授業があるんだけど、僕には関係なかった。中学校でクラスメイトに悪口を言われることも、成績が悪いからって塾でバカにされることも、普段僕がどんなに惨めな思いをしているか全く気にしない親にも、もうこりごりだったから。
住宅街の一画にある、我が家のマンションは、表は歩道を挟んで向かいにもマンションが建っていて、裏は車1台分が通れるくらいの道路がある。非常階段の踊り場は裏の道路の方にあるが、こんな時間じゃ下を眺めても車1台、人1人も通っていない。
今更だけど、何故こんな時間にこんな場所にいるのかって?そりゃ、もちろん目的はある。本当は今頃マンションの屋上にいるはずだったんだけど、屋上に入る扉には鍵が掛かっていたから、仕方なく住んでいる階の踊り場にいるって訳。
もしかしたら、僕が今から何をしようとしているのか、想像がついている人も何人かいるかもしれない。そう、僕は今、人生を終わらそうとしている。理由は簡単。生きているのが楽しくないから。惨めな僕は明日1日を生きられる程の楽しみさえ持っていないのだ。
15年だ。僕が生きたこの時間が、長いのか短いのかは人によるが、僕としてはかなり長い方だったと思う。
誰しも一度は体験したことがあるだろう?楽しい時間はあっという間に過ぎるが、辛い時間や退屈な時間なんかは時計の進みがうんと遅くなるのを。僕の人生の大半は後者だったから。体感時間に換算すると、かなり長生きだと思う。
別に思い残したことも無いし、未練も無い。ただ1つ、問題があるとすれば先程時間を確認してから、もう既に10分少々時間が経っていると言うことだ。家を出るまで怖いという気持ちは、少しも無かったのに、いざとなると、少し怖気づいてしまう……
いいや、何も考えるな!
僕は自分にそう言い聞かせて、手すりに手を伸ばして、深呼吸をした。そして、勢い良く両手に体重をかけようとしたその瞬間、
「何してるの?」
突然の出来事に、僕の心臓は飛び跳ねた。勢い良く後ろを振り返ると、そこには小学3年生位の女の子が立っていた。
「だ、誰!?何でこんなとこにいるの!?」
咄嗟に口をついて出た言葉は、若干裏返っていた。
「私はママが帰ってくるのを待ってただけだよ?お兄ちゃんこそこんな時間に何してるの?」
まさかこんな小さな女の子相手に、今から自殺をします。なんて言えるはずも無い僕は、苦し紛れの言い訳をした。
「い、いや。何だか眠れなくて景色を見てたんだよ!」
「ふーん。ここからは海どころかきれいな夜景も見えないけどなぁ。」
女の子は隣に来て手すりに顔を近づける。
「べ、別にきれいなものが見たいわけじゃないんだよ!」
「そうなの?なんだか、お兄ちゃんすごく変わってるね。」
「そ、そんな事よりさ、君は家に帰らないの?」
これ以上無駄な時間は過ごせない、と僕は話を変えた。
「だから、ママの帰りを待ってるの!」
彼女は少し頬を膨らませる。
「なら家で待てばいいじゃないか?半袖じゃこの時期は肌寒いだろう?」
「いいの!ママと約束したんだもん!」
彼女は頑なに家に帰ろうとしない。が、僕だってこのまま家に帰るつもりもない。
「君の家はこの階なの?だとしても非常階段の踊り場で待ってたら帰ってきたママは気付かないんじゃないかな?家の前で待ってたらどうかな?」
そう言うと、彼女は少し考えた様子を見せていたが、急に僕の手を掴んでこう言った。
「じゃあ、一緒にママを探しに行こうよ!」
つい先週までは、昼間照りつける太陽の熱が、夜中でも住宅街を包み込んでいたが、最近はめっきりおとなしくなったようだ。
捲くっていた袖をおろしながら、家のマンションの非常階段の踊り場で、僕は体育座りをしていた。スマホで時間を確認すると、0時38分。
いつもは、明日の学校に備えて、寝る準備をする時間なのだが、今日は少しだけ夜ふかしだ。明日は木曜日で、普通なら朝から授業があるんだけど、僕には関係なかった。中学校でクラスメイトに悪口を言われることも、成績が悪いからって塾でバカにされることも、普段僕がどんなに惨めな思いをしているか全く気にしない親にも、もうこりごりだったから。
住宅街の一画にある、我が家のマンションは、表は歩道を挟んで向かいにもマンションが建っていて、裏は車1台分が通れるくらいの道路がある。非常階段の踊り場は裏の道路の方にあるが、こんな時間じゃ下を眺めても車1台、人1人も通っていない。
今更だけど、何故こんな時間にこんな場所にいるのかって?そりゃ、もちろん目的はある。本当は今頃マンションの屋上にいるはずだったんだけど、屋上に入る扉には鍵が掛かっていたから、仕方なく住んでいる階の踊り場にいるって訳。
もしかしたら、僕が今から何をしようとしているのか、想像がついている人も何人かいるかもしれない。そう、僕は今、人生を終わらそうとしている。理由は簡単。生きているのが楽しくないから。惨めな僕は明日1日を生きられる程の楽しみさえ持っていないのだ。
15年だ。僕が生きたこの時間が、長いのか短いのかは人によるが、僕としてはかなり長い方だったと思う。
誰しも一度は体験したことがあるだろう?楽しい時間はあっという間に過ぎるが、辛い時間や退屈な時間なんかは時計の進みがうんと遅くなるのを。僕の人生の大半は後者だったから。体感時間に換算すると、かなり長生きだと思う。
別に思い残したことも無いし、未練も無い。ただ1つ、問題があるとすれば先程時間を確認してから、もう既に10分少々時間が経っていると言うことだ。家を出るまで怖いという気持ちは、少しも無かったのに、いざとなると、少し怖気づいてしまう……
いいや、何も考えるな!
僕は自分にそう言い聞かせて、手すりに手を伸ばして、深呼吸をした。そして、勢い良く両手に体重をかけようとしたその瞬間、
「何してるの?」
突然の出来事に、僕の心臓は飛び跳ねた。勢い良く後ろを振り返ると、そこには小学3年生位の女の子が立っていた。
「だ、誰!?何でこんなとこにいるの!?」
咄嗟に口をついて出た言葉は、若干裏返っていた。
「私はママが帰ってくるのを待ってただけだよ?お兄ちゃんこそこんな時間に何してるの?」
まさかこんな小さな女の子相手に、今から自殺をします。なんて言えるはずも無い僕は、苦し紛れの言い訳をした。
「い、いや。何だか眠れなくて景色を見てたんだよ!」
「ふーん。ここからは海どころかきれいな夜景も見えないけどなぁ。」
女の子は隣に来て手すりに顔を近づける。
「べ、別にきれいなものが見たいわけじゃないんだよ!」
「そうなの?なんだか、お兄ちゃんすごく変わってるね。」
「そ、そんな事よりさ、君は家に帰らないの?」
これ以上無駄な時間は過ごせない、と僕は話を変えた。
「だから、ママの帰りを待ってるの!」
彼女は少し頬を膨らませる。
「なら家で待てばいいじゃないか?半袖じゃこの時期は肌寒いだろう?」
「いいの!ママと約束したんだもん!」
彼女は頑なに家に帰ろうとしない。が、僕だってこのまま家に帰るつもりもない。
「君の家はこの階なの?だとしても非常階段の踊り場で待ってたら帰ってきたママは気付かないんじゃないかな?家の前で待ってたらどうかな?」
そう言うと、彼女は少し考えた様子を見せていたが、急に僕の手を掴んでこう言った。
「じゃあ、一緒にママを探しに行こうよ!」
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