不思議な木の実は星の味

かつお

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第1話

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 僕が宇宙船に乗ってから、どれくらいの時が経ったのだろうか。時間の感覚は既に無くなりつつある。

 昔はあんなに夢見た星たちも、今の僕の目には輝きが半減どころか、石ころ同然のように映っていた。それもそのはず、20歳で宇宙飛行士になってから、既に5年もの月日が経とうとしていたのだ。


 調査部門、生態調査課に所属している僕は、文字通り、あらゆる惑星の生態調査をすることが仕事だ。生態調査と言っても、すべての生態系や進化の工程などを調べる訳ではなく、惑星の大気や土壌などを簡単に調査するのが主な内容だ。

 僕もあまり詳しくは聞かされていないが、どうやら僕らが調査した惑星の中で、有用そうな惑星を、他の地質調査課や、化学調査課など、様々な調査課に詳しく調べて貰うらしい。

 ただ、調査をするにも、協力してくれる惑星が必要になるので、僕たち生態調査課の実際の仕事内容は、協力してくれる惑星を探す、という事になる。それだけでもあんまりな仕事内容だが、交信に応じてくれる惑星は無論少なく、というよりはほぼ無い為、退屈な日々を送っているのが現状だ。

 昔は宇宙に行くことがとても難しい事だったらしく、ロケットの不具合や、向かった惑星での住民達との争いなど、様々なトラブルが生じていたようだ。

 しかし、技術力がかなり成長した今では、そういったトラブルが起こることは、ほぼ0とされていた。もちろんこの5年間、僕もこれと言ったトラブルに見舞われたことは1度も無かった。

 ただ、こんなにも仕事が無いのなら、いっそトラブルでも良いから、何か起こってくれたほうがマシだな、と考えるくらいには、日々の業務内容に嫌気が差していた。

 今日も本部に報告できるような情報は無いか、と僕は様々な惑星にメッセージを飛ばし続けていた。だが、一向にメッセージは受理されず、今日もこのまま時間が過ぎていくのか、と肩を落とし始めたその瞬間だった。なんと1つの星が応答したのだ! 僕は何百という種類の言語を解析する装置で、相手の言語に合わせ、生態調査の話を伝えていく。

「はじめまして。私、太陽系の惑星から来た者ですが、もし良かったらそちらの星の生体を調査させて頂けませんか?」

「はぁ。僕の住んでる星に来てくれるんですか?」

「はい。生態調査と言っても、そちらの惑星の土壌や大気の状態を調べさせていただくだけなので、お時間もそんなに取らせませんので。」

「よくわからないけど、星に来てくれるなら何でもいいです。」

 追い返されることはあっても、来てほしいと言われる事はあまり無いので、少し不思議に思ったが、今まで幾つもの惑星を見てきて、経験もそれなりにあると自負している僕は、”大丈夫だろう”と言い聞かせて、交信先の惑星に進路を合わせ始めた。


 交信先に近づいた僕は防護服とヘルメットを装着しながら着陸準備を整えていた。惑星に降り立つのは何ヶ月ぶりだろうか。上司に報告できるような情報があればいいのだが。

 そんなことを考えているうちに、宇宙船は着陸態勢に入っていた。惑星に降り立ってみると辺りには鮮やかな緑の原っぱが広がっていた。樹木や草花も生えていて、住み心地はとても良さそうだ。

 これと言って目立つものは無く、自然豊かな星のようだ。ただ、防護服のせいで外気の温度が分からないのが残念だ。まぁ、後で計測でもすればいいだろう。そう思いながらしばらく歩いていると、これまでに見た事が無いものが、目に飛び込んできた。

 それは、横に大人3人が並ぶくらいの太さをした大木だった。縦にはあまり長くないが、とにかく幹の太さが尋常ではなかった。

 それよりも目に付いたのは、木の枝にありありと実ったカラフルな木の実だった。りんごと同じくらいの大きさのそれらは、棘のようなものがたくさん生えていて、淡い水色や紫色など様々な色をしており、例えるなら、ちょうど金平糖のようなものだった。しばらくその金平糖に目を奪われていると、

「あの、調査の方ですか?」

 不意に後ろから声をかけられ、慌てて振り向いた。そこには、13歳位の男の子が立っていた。

「いやぁ、気付かずにすみません。先程交信させていただいた者です。」

 背丈だけ見ると、明らかに自分よりも年下ではあるが、惑星によっては時間軸が異なるので、見た目は小さな子どもでも、僕よりも年上だった、なんて事はよくある。万が一の事を考え、相手が気分を害さないように、僕は当たり障りのない挨拶をしておく事にした。

「それはわかってるよ。君が来るのを待ってたんだ。」

「私を待っていた、と言いますと、何か調査してもらいたいものでもあるんですか?」

 すると彼はあの金平糖のなる木を指差した。

「なるほど。この木の実を調べろと。まず、あなたがこれらについて知っている事があれば、是非教えて貰いたいのですが。」

「わからない……わからないから一緒に調べてほしいんだ。」

 惑星の住人である彼でもわからない金平糖の正体とは、一体何なのだろうか?僕にはこれっぽっちも正体が思い浮かばなかった。

 何はともあれ、ようやく仕事にありつける僕は上機嫌で、あの金平糖を調べつつ、この惑星の生態も調査させて貰うことにしよう!と考えていた。

 それに、この星は本当に住心地が良さそうだ。もしこの惑星を観光地にする事が出来れば、僕の精進は決まったも同然だろう。上手く行けば本社勤務なんて事もある。きっと年収も格段に上がる事だろう。悠々自適な本社勤務ライフを想像して、僕は顔の緩みを抑えることが出来なかった。
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