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6章 光に背いた聖者達

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 招かれざる客の気配がまだ届かない頃、西の要塞の演習場ではリビアンが両手を広げて大笑いしていた。

「やめて……もうやめてくれ……」

 返り血を浴びたアンバーが立ち尽くす。両手に握られた双槍は真っ赤に染まっている。貫かれて倒れた兵士の骸は、一人の少女から贈られた魔力で再び起き上がる。無限に、何度でも。

 まるで人形劇でもしているかのようにリビアンが楽しんでいるところを、呆れた目でイオラが見つめる。

「殉職した兵の遺体を何故今まで後生大事に保存していたか……ようやくわかりましたよ。まさか『屍術士』の真似事とはね……」
「イオラ様もご存じでしたか。フフフ、これがかつて創世の伝説に語られた屍術士の再来ですよ! ルーチェ家に稀に現れる凄まじい魔力の持ち主、聖女の中の聖女。主が死なぬ限り不死となる屍の部隊ですよ! これを使わない手がありますか?」

 死体を、まるで生者のように操る事ができる力。それは、正の女神の代弁者として生まれ落ちる聖女にとって最大の皮肉だ。有り余る癒しの力が、第二の命を吹き込んでしまう。忌み嫌われるものであるはずの死体達に。
 アンバーは気がおかしくなりそうだった。死体とはいえ何度も人体を貫き続ける自分。どこかで『本当に生き返ったのかも』と浮かれていた自分に突き付けられる、所詮は朽ちていくはずの肉体に意思が宿っただけの存在だという現実。そして何よりも、心優しい少女の自我を奪って道具にしている薄汚い貴族達。何度呪いの言葉を吐こうとも、体はサフィに操られるがまま。「どうとでも言え」とばかりに、リビアンは嗤うのだ。

「お取込み中のところ、失礼します。イオラ様、リビアン様、要塞の門が何者かに突破されたと報告がありました」

 リビアンはわざとらしく首を傾げる。

「賊かね? この堅牢な要塞の守りを物ともしないとは、只者ではあるまい?」
「それが、その……。どうやら、我々が捕えたはずの一味だと」

 イオラは、バツが悪そうな顔をしているリビアンを睨む。

「愚か者めが。人形で遊んでいる暇があるなら始末しなさい」
「うっ……。お、仰せのままに……。フッ、何も心配はいりませんぞ。この私は今! 伝説の屍術士と同じ力を持って……」
「これ以上無駄口を叩くと、貴方を屍兵にしますよ、リビアン?」
「ひっ、ヒィ!!」

  脱兎の如く役目を果たしに消えたリビアンの後ろ姿を見つめるかのように、柱の陰から静かに人影が現れる。レジェだ。

「お前の主人は新しい玩具に夢中のようですよ。詰まらないでしょう」

 相変わらずレジェは何も言わない。――そこにの感情があるのかさえ定かではない。彼女もまた、『人形』なのだ。

 イオラは雪雲を見上げる。その視線の先に、昼下がりであるはずの空で小さな赤い星が輝いていた。

「新しい玩具が欲しいと強請るが手に入らない。ならば作ろうと考えたまでは良い。その後で『本物』を買い与えられ、彼は自分の粗悪な作品など投げ捨てて夢中になる。……本当に、子供のようだ。……似ていますね。忌まわしき我が父に」

 所詮は人形相手に語る程度の詰まらぬ話だと、イオラは鼻で笑った。
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