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6章 光に背いた聖者達

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 聖都中央広場には大勢が集まっていた。小さな十字架を手に見守る者、祈るように手を組んでいる者――一部には野次馬も混じっているようだ。

「やっぱり……! だから私言ったじゃないですか……! 早く聖都から出ないと、って……」

 人混みの中で蒼白な顔のシリカは隣で処刑台を見つめるラリマーに言う。

「このままじゃあの人殺されてしまいます……! 絶対おかしいですよ! 辻褄が合わないじゃないですか!」
「わかってるわよ。……妙にクサいのよねぇ……。シッポ掴めたら何か大変なモノが出てきそうなんだけど」
「どうにかして助けなきゃ! 噂だとメノウさん達も捕まったっていうじゃないですか!」
「あいつなら大丈夫よ。ケロっとした顔で脱獄してるでしょうから」
「証拠もないのにそんな……」

 斜陽の光が女神像を照らす。ざわめく民衆の前に、清らかな服を纏う聖人が現れ、ゴホンと咳払いをして聖書を広げる。

「我らが聖なる宮殿に、姑息にも忍び込み教皇暗殺を目論んだ罪深き者を、女神の御心のもと、此度、悔い改め魂を浄化し、天に還す―――」

 長々と声を張り上げる聖人。コーネルの首元に交差する槍が無慈悲に夕日を反射する。既に傷だらけの彼は、不気味にも無表情だった。

「さぁ、最期の懺悔の時間だ。言い残す事はあるか?」

 影が落ちるコーネルの横顔を周辺の者がジロジロと観察する。彼はどこかを鋭く見つめたまま、ギリ、と歯を覗かせた。

 黙秘の姿勢を見せた彼に肩を竦め、聖人はついに執行者へ合図を送った。控えていた兵が鉄鞭を持って近づいてくる。

「ラリマーさん……!」

 シリカが泣きそうな顔でラリマーの腕を引っ張る。と、そこへ後ろから駆けてくる足音が耳に入った。



「やめやめやめ~~!! こんなの父さんが認めてないっすよ~~~!!」

 少年だ。小柄な体裁だが両手をブンブン振って野次馬の注意をひく。どこにでもいそうな雰囲気の彼だが、身に纏う衣服から若干の気品が見え隠れする。

「あれは……カナリー皇子じゃないか!」
「なんだなんだ? 一体、どういう事だ?」

 民衆はざわめく。

「皆の者! 静粛に! 静粛に! ……カナリー殿下! また宮殿を抜け出して! これは厳粛な儀式の場! 乱すような真似は、いくら第四皇子といえど……!」

 聖人が声を張り上げたところで、音もなく人影が背後に迫った。同時にどこからともなく強風が押し寄せる。

 ゴオッ! と一瞬の風が周辺の者達をあおり、視界を奪った。

「うわぁ、なんだ?!」
「ひええ、女神様がお怒りなのじゃ! おお、おお、慈悲を……」

 すっかり腰を抜かしてしまった聖人はへたり込み、聖書を抱きしめて天を仰ぐ。



「ら、ラリマーさん! あれは……!」

 強風の中でシリカが見たもの。フフン、と得意げに鼻を鳴らすラリマーの目には見慣れた人物が映っていた。

 突然の強風に体勢を崩した槍兵を押しのけ、『彼』はあっさりとコーネルを抱えて石台から下りる。風がやんだ瞬間には、すでに石台の上に祀り上げられた人物が忽然と消えていた。

「今のは一体?! お、おい、罪人はどこへ行った?!」
「見ろよ、罪人が消えたぞ! こんな事は初めてだ! 女神様の意志か?!」
「す、すげえ! 赦されたんだ!」
「もしかして冤罪だったんじゃないか?! どうなんだ、オイ!!」


 見物人達の怒号や歓声が次々に飛び交い、状況が呑み込めない聖人はオロオロとうろたえる。その滑稽な姿を見た民衆がどっと笑った。その反応が気に食わなかったのか、聖人は怒りに任せて地団駄を踏んで聖書を掲げて見せた。

「何が可笑しい!! この神聖な場を穢すでない!!」

 ラリマーはしたり顔でクスクスと笑うと、ぽかんと立ち尽くすシリカの背を押す。

「さ、行くわよ。匿ってやらなきゃね!」
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