上 下
57 / 97
5章 凍てつく壁の向こう側

01

しおりを挟む

 船内の一室を借り、五人は荷を下ろす。ベッドを見るや否や、ジストはすぐに寝転んで寝息を立て始めた。

「ほんま王族なんやろか……どこでも寝られるんとちゃうか、こいつ」
「ふん。つくづく鈍いというか馬鹿というか。……こんな窮屈な場所……気分が悪い」

 無防備に幸せそうな寝顔でいるジストを見下し、コーネルはつかつかと扉の方へ向かう。

「どこ行くの、王子?」
「風に当たる」

 バン、と乱暴に扉が閉められた。

「王子様、具合でも悪いのでしょうか……」

 心配そうに扉を見つめるサフィ。

「俺、ちょっと王子の様子見てくるよ」

 もとい、船内の探検がしたいんだ、とアンバーはコーネルを追って部屋から出て行く。部屋の中は途端に静かになった。



「あ、あの、メノウさん」

 地図を広げて眺めている彼に勇気を出して声をかけてみる。ジストとのやり取りを見ている限りでは、この人は怖い人ではなさそうだ――と内心ドキドキしながら、である。

「いつかちゃんとお礼を言おうと……。あの時、私とアンバーさんを助けてくださって本当にありがとうございます」

 メノウは手元の地図を眺めたまま。聞いているのかいないのか判断しかね、そわそわする。

「それで、あの、これから向かう白の国……なのですが」

 言いづらそうな気配を察知したのか、彼は静かに顔を上げた。

「……白の国、アルマツィア……。そこにも、他の国と同じように傭兵ギルドがあるんですけど……って、メノウさんならきっとご存じですよね」

 忙しなく視線を泳がせるサフィは何かを言いたげだが、言葉を慎重に探しているのか黙ってしまう。

「なに」

 続きを促すと、やっとの思いで彼女は深々と頭を下げた。

「そのギルドには……行かないでください」

 お願いします、と小さく続く。

「なんや。なんかあるんか、そのギルドに」
「い、いえ、その……何か、という何かがあるというか……なんというか……」

 はっきりしない物言いだ。あまり深掘りされたくないのだろうか。

「別に寄る予定はない。今あのギルド近辺は外部の連中が入れんように規制されとる。あそこで何があったかまでは知らんがな」
「そ、そうなのですか?!」

 ほっと胸を撫で下ろす彼女。不審だ。アンバーの飄々とした人格もそうだが、この少女も何か隠していそうだ。

「ギルドに行けん、て……。お前らひょっとしてあれか、手配犯かなんかか」
「ち、違います! ……いえ……違うと、思います……たぶん……」

 それ以上は詮索しなかった。それでも何か、『彼女達』に公にできない秘密がある事を感じ取った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...