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5章 凍てつく壁の向こう側
01
しおりを挟む船内の一室を借り、五人は荷を下ろす。ベッドを見るや否や、ジストはすぐに寝転んで寝息を立て始めた。
「ほんま王族なんやろか……どこでも寝られるんとちゃうか、こいつ」
「ふん。つくづく鈍いというか馬鹿というか。……こんな窮屈な場所……気分が悪い」
無防備に幸せそうな寝顔でいるジストを見下し、コーネルはつかつかと扉の方へ向かう。
「どこ行くの、王子?」
「風に当たる」
バン、と乱暴に扉が閉められた。
「王子様、具合でも悪いのでしょうか……」
心配そうに扉を見つめるサフィ。
「俺、ちょっと王子の様子見てくるよ」
もとい、船内の探検がしたいんだ、とアンバーはコーネルを追って部屋から出て行く。部屋の中は途端に静かになった。
「あ、あの、メノウさん」
地図を広げて眺めている彼に勇気を出して声をかけてみる。ジストとのやり取りを見ている限りでは、この人は怖い人ではなさそうだ――と内心ドキドキしながら、である。
「いつかちゃんとお礼を言おうと……。あの時、私とアンバーさんを助けてくださって本当にありがとうございます」
メノウは手元の地図を眺めたまま。聞いているのかいないのか判断しかね、そわそわする。
「それで、あの、これから向かう白の国……なのですが」
言いづらそうな気配を察知したのか、彼は静かに顔を上げた。
「……白の国、アルマツィア……。そこにも、他の国と同じように傭兵ギルドがあるんですけど……って、メノウさんならきっとご存じですよね」
忙しなく視線を泳がせるサフィは何かを言いたげだが、言葉を慎重に探しているのか黙ってしまう。
「なに」
続きを促すと、やっとの思いで彼女は深々と頭を下げた。
「そのギルドには……行かないでください」
お願いします、と小さく続く。
「なんや。なんかあるんか、そのギルドに」
「い、いえ、その……何か、という何かがあるというか……なんというか……」
はっきりしない物言いだ。あまり深掘りされたくないのだろうか。
「別に寄る予定はない。今あのギルド近辺は外部の連中が入れんように規制されとる。あそこで何があったかまでは知らんがな」
「そ、そうなのですか?!」
ほっと胸を撫で下ろす彼女。不審だ。アンバーの飄々とした人格もそうだが、この少女も何か隠していそうだ。
「ギルドに行けん、て……。お前らひょっとしてあれか、手配犯かなんかか」
「ち、違います! ……いえ……違うと、思います……たぶん……」
それ以上は詮索しなかった。それでも何か、『彼女達』に公にできない秘密がある事を感じ取った。
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