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4章 消えた彼らが行く先は

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 明け方。昨夜、夜更けまで起きていたジストは欠伸を噛み殺して街道を行く。前を歩くメノウの背中に時々頭をぶつけるほどの眠気だ。

「なんだか眠そうだね? ジスト。珍しい。いつも朝からキビキビしてるのに」

 アンバーに顔を覗きこまれてハッとしたジストはフニャリと笑う。

「柄にもなく夜更かしをしてしまってな。数刻ほどしか眠っていないのだ」
「大丈夫ですか……? 船に乗ったら、少し休まれると良いと思います」

 サフィは心配そうにジストに寄り添い歩く。――そう、一行は港へ向かっているのだ。黒の国へ行くには白の国を経由する必要がある。ここベディヴィアは青の国の街々の例にもれず海沿いにあり、大型の客船や貨物船が出入りする。白の国への航路は数日単位と長く、そして運航している船の数も少ない。こんな朝早くに出発する所以もそのせいだ。

 大きな桟橋は透き通った海面を走っている。その上を進めば、海面を歩いているような錯覚に陥る。海の向こうから太陽が昇り、目が眩むほどの朝焼けが視界に広がる。深呼吸すれば、早朝の瑞々しい空気に潮の香りが混じっていた。

「うひょー!! すごい景色!!」
「絶景だ! 素晴らしい!!」

 大人げないほどはしゃぐアンバーを追いかけてジストも走っていく。

「はっ。こんな光景の何が面白い」

 吐き捨てるようなコーネルの言葉。サフィはオロオロと返す言葉に悩む。

「あんさんは見慣れとるんやろな、こんな海は」

 朝焼けの空にフッと白い煙がのぼる。

「けどまぁ、今にわかるて。あいつらが物珍しがる理由がな」
「この俺をあいつらのように唸らせるほどのものがこの先にあるというのか?」
「あるある。ぎょーさんあるで」

 朝日が水平線から出きった頃、一行は船に乗り込んだ。
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