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2章 凪を切り裂く二つの剣

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 夜も更けた頃、彼はやってきた。

「おい、ジスト。話がある」

 部屋に招き入れると、彼はさっさと入り込んでソファに座った。

「あの傭兵、今は?」
「私達が昨日泊まった宿屋に戻ったようだ。ここに残るように言ったのだが、どうしても嫌だと言われてな。明日には出発するから、その時にまた合流する」

 それを聞いたコーネルは舌打ちする。

「本当に野良犬だな。主の命も聞かないなど」
「まったく、君はいつまでネチネチと彼を責めるつもりだ? 技量の差は証明されたではないか。そもそも、彼は私が雇った傭兵だぞ。君に口を出される筋合いはない。無関係だろう?」
「納得いかん」

 この期に及んでまだ咎めたいらしい。言い出したら聞かないという事は、ジストもよく知っているのだが。

「王族が傭兵を連れ歩くなど、他の貴族が知ったらどんな顔をするか。お前はそれをわかっているのか? 崩壊したとはいえ、お前は一国の王子なんだぞ」
「重々承知している。……あぁ。すでにフリューゲル公に散々言われた。あれはいくらなんでも、この私でさえ受け入れがたい屈辱的な言葉と言えよう。君はあんな風に言わないと信じていたのだが?」
「お前は知らなさすぎるんだ。お前が今している事は、俺達にとってはタブーそのものだ。それ以上の理由も何もない」

 ジストは納得いかなかった。

「君は疑問に思わないのか? 我々の目では禁忌だという、その事に理由を求めないのか? 傭兵とて、同じ人間ではないか。彼らは同朋だ。確かに、我々と彼らとでは過ごしてきた場所が違うかもしれないが、そんなもの……――」
「お前、少しは考えなかったか? アメシス王を殺したのは傭兵の所業ではないかと、微塵も疑ってはいないのか?」
「傭兵が父上を?」

 コーネルは呆れてため息を吐く。そうしてから、声を低く小さくした。

「昔から、傭兵は貴族の暗殺によく使われる下僕。使い捨ての駒だった。奴らは日陰に生きる陰湿な悪党共だ。王族自身がそれを警戒しないでどうする。隙だらけのお前が傭兵に暗殺でもされたら、ただの愚か者のレッテルが貼られるだけ。誰も擁護出来ないぞ」

 そういえばメノウ自身も言っていた。ジストの首には高額の報酬が賭けられている。その気になれば殺す事も容易い、と。しかしマイペースなジストは懲りていないのであった。

「……君は心配してくれているのか!」
「はぁ?! 何がどうしてそういう結論に至る!!」

 案の定彼の神経を逆撫でしたらしい。それでも、ジストは何となく心が穏やかになった。こうして気心の知れた者と話し合えるのは些か久しぶりのような気がしたからだ。

「私は大丈夫だ。だから、君はラズワルド殿をしっかりと支えるのだ。……君には、まだそれが出来るのだから」

 いつも通りの笑顔。だが、既に何かを越えてきた顔にも見える。目の前の幼馴染を見つめるコーネルは、それに気付いた瞬間、複雑な気分になった。
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