上 下
43 / 56
それぞれの道

2.成長

しおりを挟む
 かくして、四人の道は分かたれることとなった。

 場所も分野も全く違う高校へ進学し、そこからまたさらに違う大学へと進む。
 中には実家を出て一人暮らしを始めた者もいたが、彼らの絆が断ち切れることはなかった。

 小まめに連絡を取り合い、二、三ヶ月に一度は揃って顔を合わせる。頻度を決めていたわけではなかったが、文字や立体通話での会話では満足できず、気がつけば全員の都合の良い日をすり合わせていた。
 学校で新たな友人ができようとも、頼りになる先輩が現れようとも、彼ら四人にとって、互いは特別な存在であった。

「見たか、エミリオ」
「当然だろ。あぁも毎日毎日、テレビにネットにって出てりゃよ」
「逃した魚は大きかったね」
「バッカ。んな打算であいつと付き合ってたわけじゃねーよ」

 シオンが笑い、エミリオが返し、マリユスが茶化したような言葉を紡ぐ。
 学生という身分を経て社会へ飛び出した彼らは、以前のような頻度で肩を並べることは叶わず、本日、実に半年振りに機械を通さずに互いの顔を見ることができた。

 ただ一人、四人の中心であったと言っても過言ではないホーリーだけが、このひっそりとした個室の中にいない。
 欠けてはいるものの、気軽で心地良い空間は、彼らにとって当たり前のものであり、目の前にいる人間は相も変わらずな中学時代からの友人だ。しかし、傍から見ればそれは少し違っている。

 彼らはそれぞれの道を突き進み、見事、中学時代に語った将来に大成という言葉を掲げて立っていた。

「私が撮ったホーリーは可愛らしかっただろ」
「ありゃ素材がいいんだろ」

 にんまりと笑うシオンは凄腕のカメラマンでありレポーターだ。
 計算されつくした構図の写真は非常に見やすく、目を惹くものであり、彼女のインタビュー記事は持ち前の知識を最大限に利用しており、誰にでもわかりやすく簡潔なものとなっていた。シオンが担当したというだけで、電子データは瞬く間に売れていく。

 彼女自身の美しい顔立ちと細く引き締まった体つきも人気の一つだろう。裏方としてだけではなく、テレビ番組への出演や写真撮影の風景の取材といった仕事も多く、連日あちらへこちらへと忙しくしている。
 今や女性の憧れとなっているシオンはどこへ行っても注目の的だ。三人が個室ではなく、日当たりの良いテラスで会していれば、あっという間に彼女目当ての人々が集まってくるに違いない。

 エミリオのような一度か二度、ネット番組に出ただけの警察官が軽く彼女の肩にでも触れようものならば、周囲は動揺を示すことだろう。

「キミ、奥さんがいるのにホーリーさんのことそんなベタ褒めしていいの?」

 呆れた、と言わんばかりのマリユスへ、エミリオは人差し指を揺らして答える。

「あいつだってホーリーのファンだからな。
 付き合ってた頃からオレとホーリーが友達だってのは知ってたし」

 笑うエミリオの脳裏に浮かんでいるのは、数年前に結婚した妻の姿だ。
 無事に警察官となり、配属された交番が管轄している地域に住んでいる女性で、人工知能やロボットに仕事を奪われがちなエミリオの良き話し相手となってくれていた。

 彼女との会話を通じて町を知り、持ち前の人懐っこさと行動力を持って活動し続けたエミリオはいつしか町のことを隅から隅まで知り尽くし、人工知能ではカバーできぬ部分を網羅する警察官となった。
 今の自分を作り上げてくれた女性と結婚した後も培ってきた人脈や情報は衰えることなく、つい先日も迷子の猫を探しながら子供を保護し、無事に親元へ送り届けている。

「オレはホーリーの信者一号、みたいな?」
「それって胸を張って言うこと?」

 うろん気にエミリオを見たマリユスは、専門職として成功はしているものの、彼らのような派手さは持っていない。
 ロボット製作に携わり、コツコツと技術を磨き上げてきた彼は、緻密な作業や素早く発注の意図を把握することに長け、昨今の奇抜な図案や要望に必要不可欠な人材となっていた。

 忙しなく過ぎ去る日々の傍ら、後進をもしっかり育て上げていく手腕は、業界を行く者達の手本となっている。
 かつては女子生徒に囲まれていた男とは思えぬほど、女の気配が回りになく、技術の継承もいいが、遺伝子の継承も頼む、などと同僚からからかわれがちなのはご愛嬌だ。

「恋愛感情をこじらすと男はこうなるのか」
「こいつみたいなレアケースを平均に分類しないでほしいな」

 友人から恋人へ。そして再び良き友人へとなったホーリーを贔屓する気持ちはわからなくないが、それにしても愛が深すぎる。
 マリユスのように、彼女の恩恵を受けている身であるならばともかく、エミリオは今後、仕事を奪われる可能性もあるというのに。

 同じ男として、マリユスはエミリオと一緒にだけはされたくなかった。
 彼がホーリーを良く思う気持ちはわかるけれども、自分はあそこまでではない、という自負がある。

「あいつのことが嫌いになって別れたわけじゃねぇしなぁ。
 友達が認められりゃ嬉しくもなるだろ」
「その気持ちはわかる」
「それはね、わかるよ」

 一同は頷きを返す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...