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それぞれの道
2.成長
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かくして、四人の道は分かたれることとなった。
場所も分野も全く違う高校へ進学し、そこからまたさらに違う大学へと進む。
中には実家を出て一人暮らしを始めた者もいたが、彼らの絆が断ち切れることはなかった。
小まめに連絡を取り合い、二、三ヶ月に一度は揃って顔を合わせる。頻度を決めていたわけではなかったが、文字や立体通話での会話では満足できず、気がつけば全員の都合の良い日をすり合わせていた。
学校で新たな友人ができようとも、頼りになる先輩が現れようとも、彼ら四人にとって、互いは特別な存在であった。
「見たか、エミリオ」
「当然だろ。あぁも毎日毎日、テレビにネットにって出てりゃよ」
「逃した魚は大きかったね」
「バッカ。んな打算であいつと付き合ってたわけじゃねーよ」
シオンが笑い、エミリオが返し、マリユスが茶化したような言葉を紡ぐ。
学生という身分を経て社会へ飛び出した彼らは、以前のような頻度で肩を並べることは叶わず、本日、実に半年振りに機械を通さずに互いの顔を見ることができた。
ただ一人、四人の中心であったと言っても過言ではないホーリーだけが、このひっそりとした個室の中にいない。
欠けてはいるものの、気軽で心地良い空間は、彼らにとって当たり前のものであり、目の前にいる人間は相も変わらずな中学時代からの友人だ。しかし、傍から見ればそれは少し違っている。
彼らはそれぞれの道を突き進み、見事、中学時代に語った将来に大成という言葉を掲げて立っていた。
「私が撮ったホーリーは可愛らしかっただろ」
「ありゃ素材がいいんだろ」
にんまりと笑うシオンは凄腕のカメラマンでありレポーターだ。
計算されつくした構図の写真は非常に見やすく、目を惹くものであり、彼女のインタビュー記事は持ち前の知識を最大限に利用しており、誰にでもわかりやすく簡潔なものとなっていた。シオンが担当したというだけで、電子データは瞬く間に売れていく。
彼女自身の美しい顔立ちと細く引き締まった体つきも人気の一つだろう。裏方としてだけではなく、テレビ番組への出演や写真撮影の風景の取材といった仕事も多く、連日あちらへこちらへと忙しくしている。
今や女性の憧れとなっているシオンはどこへ行っても注目の的だ。三人が個室ではなく、日当たりの良いテラスで会していれば、あっという間に彼女目当ての人々が集まってくるに違いない。
エミリオのような一度か二度、ネット番組に出ただけの警察官が軽く彼女の肩にでも触れようものならば、周囲は動揺を示すことだろう。
「キミ、奥さんがいるのにホーリーさんのことそんなベタ褒めしていいの?」
呆れた、と言わんばかりのマリユスへ、エミリオは人差し指を揺らして答える。
「あいつだってホーリーのファンだからな。
付き合ってた頃からオレとホーリーが友達だってのは知ってたし」
笑うエミリオの脳裏に浮かんでいるのは、数年前に結婚した妻の姿だ。
無事に警察官となり、配属された交番が管轄している地域に住んでいる女性で、人工知能やロボットに仕事を奪われがちなエミリオの良き話し相手となってくれていた。
彼女との会話を通じて町を知り、持ち前の人懐っこさと行動力を持って活動し続けたエミリオはいつしか町のことを隅から隅まで知り尽くし、人工知能ではカバーできぬ部分を網羅する警察官となった。
今の自分を作り上げてくれた女性と結婚した後も培ってきた人脈や情報は衰えることなく、つい先日も迷子の猫を探しながら子供を保護し、無事に親元へ送り届けている。
「オレはホーリーの信者一号、みたいな?」
「それって胸を張って言うこと?」
うろん気にエミリオを見たマリユスは、専門職として成功はしているものの、彼らのような派手さは持っていない。
ロボット製作に携わり、コツコツと技術を磨き上げてきた彼は、緻密な作業や素早く発注の意図を把握することに長け、昨今の奇抜な図案や要望に必要不可欠な人材となっていた。
忙しなく過ぎ去る日々の傍ら、後進をもしっかり育て上げていく手腕は、業界を行く者達の手本となっている。
かつては女子生徒に囲まれていた男とは思えぬほど、女の気配が回りになく、技術の継承もいいが、遺伝子の継承も頼む、などと同僚からからかわれがちなのはご愛嬌だ。
「恋愛感情をこじらすと男はこうなるのか」
「こいつみたいなレアケースを平均に分類しないでほしいな」
友人から恋人へ。そして再び良き友人へとなったホーリーを贔屓する気持ちはわからなくないが、それにしても愛が深すぎる。
マリユスのように、彼女の恩恵を受けている身であるならばともかく、エミリオは今後、仕事を奪われる可能性もあるというのに。
同じ男として、マリユスはエミリオと一緒にだけはされたくなかった。
彼がホーリーを良く思う気持ちはわかるけれども、自分はあそこまでではない、という自負がある。
「あいつのことが嫌いになって別れたわけじゃねぇしなぁ。
友達が認められりゃ嬉しくもなるだろ」
「その気持ちはわかる」
「それはね、わかるよ」
一同は頷きを返す。
場所も分野も全く違う高校へ進学し、そこからまたさらに違う大学へと進む。
中には実家を出て一人暮らしを始めた者もいたが、彼らの絆が断ち切れることはなかった。
小まめに連絡を取り合い、二、三ヶ月に一度は揃って顔を合わせる。頻度を決めていたわけではなかったが、文字や立体通話での会話では満足できず、気がつけば全員の都合の良い日をすり合わせていた。
学校で新たな友人ができようとも、頼りになる先輩が現れようとも、彼ら四人にとって、互いは特別な存在であった。
「見たか、エミリオ」
「当然だろ。あぁも毎日毎日、テレビにネットにって出てりゃよ」
「逃した魚は大きかったね」
「バッカ。んな打算であいつと付き合ってたわけじゃねーよ」
シオンが笑い、エミリオが返し、マリユスが茶化したような言葉を紡ぐ。
学生という身分を経て社会へ飛び出した彼らは、以前のような頻度で肩を並べることは叶わず、本日、実に半年振りに機械を通さずに互いの顔を見ることができた。
ただ一人、四人の中心であったと言っても過言ではないホーリーだけが、このひっそりとした個室の中にいない。
欠けてはいるものの、気軽で心地良い空間は、彼らにとって当たり前のものであり、目の前にいる人間は相も変わらずな中学時代からの友人だ。しかし、傍から見ればそれは少し違っている。
彼らはそれぞれの道を突き進み、見事、中学時代に語った将来に大成という言葉を掲げて立っていた。
「私が撮ったホーリーは可愛らしかっただろ」
「ありゃ素材がいいんだろ」
にんまりと笑うシオンは凄腕のカメラマンでありレポーターだ。
計算されつくした構図の写真は非常に見やすく、目を惹くものであり、彼女のインタビュー記事は持ち前の知識を最大限に利用しており、誰にでもわかりやすく簡潔なものとなっていた。シオンが担当したというだけで、電子データは瞬く間に売れていく。
彼女自身の美しい顔立ちと細く引き締まった体つきも人気の一つだろう。裏方としてだけではなく、テレビ番組への出演や写真撮影の風景の取材といった仕事も多く、連日あちらへこちらへと忙しくしている。
今や女性の憧れとなっているシオンはどこへ行っても注目の的だ。三人が個室ではなく、日当たりの良いテラスで会していれば、あっという間に彼女目当ての人々が集まってくるに違いない。
エミリオのような一度か二度、ネット番組に出ただけの警察官が軽く彼女の肩にでも触れようものならば、周囲は動揺を示すことだろう。
「キミ、奥さんがいるのにホーリーさんのことそんなベタ褒めしていいの?」
呆れた、と言わんばかりのマリユスへ、エミリオは人差し指を揺らして答える。
「あいつだってホーリーのファンだからな。
付き合ってた頃からオレとホーリーが友達だってのは知ってたし」
笑うエミリオの脳裏に浮かんでいるのは、数年前に結婚した妻の姿だ。
無事に警察官となり、配属された交番が管轄している地域に住んでいる女性で、人工知能やロボットに仕事を奪われがちなエミリオの良き話し相手となってくれていた。
彼女との会話を通じて町を知り、持ち前の人懐っこさと行動力を持って活動し続けたエミリオはいつしか町のことを隅から隅まで知り尽くし、人工知能ではカバーできぬ部分を網羅する警察官となった。
今の自分を作り上げてくれた女性と結婚した後も培ってきた人脈や情報は衰えることなく、つい先日も迷子の猫を探しながら子供を保護し、無事に親元へ送り届けている。
「オレはホーリーの信者一号、みたいな?」
「それって胸を張って言うこと?」
うろん気にエミリオを見たマリユスは、専門職として成功はしているものの、彼らのような派手さは持っていない。
ロボット製作に携わり、コツコツと技術を磨き上げてきた彼は、緻密な作業や素早く発注の意図を把握することに長け、昨今の奇抜な図案や要望に必要不可欠な人材となっていた。
忙しなく過ぎ去る日々の傍ら、後進をもしっかり育て上げていく手腕は、業界を行く者達の手本となっている。
かつては女子生徒に囲まれていた男とは思えぬほど、女の気配が回りになく、技術の継承もいいが、遺伝子の継承も頼む、などと同僚からからかわれがちなのはご愛嬌だ。
「恋愛感情をこじらすと男はこうなるのか」
「こいつみたいなレアケースを平均に分類しないでほしいな」
友人から恋人へ。そして再び良き友人へとなったホーリーを贔屓する気持ちはわからなくないが、それにしても愛が深すぎる。
マリユスのように、彼女の恩恵を受けている身であるならばともかく、エミリオは今後、仕事を奪われる可能性もあるというのに。
同じ男として、マリユスはエミリオと一緒にだけはされたくなかった。
彼がホーリーを良く思う気持ちはわかるけれども、自分はあそこまでではない、という自負がある。
「あいつのことが嫌いになって別れたわけじゃねぇしなぁ。
友達が認められりゃ嬉しくもなるだろ」
「その気持ちはわかる」
「それはね、わかるよ」
一同は頷きを返す。
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