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最終決戦といこうか!3
しおりを挟む「なぜエレン様の名前があるか説明しましょうか?・・」
「―――ひっ!」
冷酷な笑みを浮かべる宰相にアルバ伯爵は恐怖で手が震え体が冷えていくのを感じた。
被害者の中にエレンの名前があるが、実際被害にあったのはエレンではない。
公爵の令息であるエレンは個人で剣を扱う商人の店を支援をしていた。被害にあったのはその店の店主の妻だ。
ある日、久しぶりに店を訪れると店内が騒がしく様子がおかしかった。いつもなら笑顔で出迎えてくれるはずなのに誰ひとりエレンを迎えようとしなかった。いや、気づいていなかったと言った方がいいだろう。
「何かあったのか?」
店の奥にいた店主に声をかけると苦い表情でエレンを見た。
「・・エレン様」
「何やら店内が騒がしいが何か不測の事態でも起きたのか?」
「そ、それが・・」
顔色が悪く唇を噛み目に涙を浮かべて今にもこぼれそうだ。
「マルスはどうした・・?」
「・・・・」
「ラス・・?」
「・・・・行方が・・わからないのです」
「はっ?・・どういうことだ?」
「今朝、取引相手の店に行くと言ったまま帰ってこないのです・・」
「そんな・・・」
ラスも店員も心当たりは全て探した。もちろんマルスが行った取引相手の店も行ってみた。だが、マルスは来ていないとの返事だった。
手がかりもなく無駄な時間が過ぎていく。
平民が行方不明になっても誰も気に留めることはない。
住処を変えたり罪を犯して逃げ出したりすることがあるからだ。
だが、マルスはそんなことをする動機がなく、事故か拉致されたのかと心配している中、突然ドアが乱暴な音をたてて外から何かが飛び込んできた。
「・・ラ、ラス・・!」
「マルスっ!」
ラスはマルスの無事を喜び駆け寄って震える手で抱きしめたが、マルスは生き絶え絶えで体は傷だらけだった。
「無事でよかった・・」
「ああ・・もう会えないかと思った」
泣きながら再会を喜ぶ二人の姿に店員も涙をにじませて微笑んだ。
そんな二人にエレンも安堵したがこのままこの件を放置しておくわけにはいかなかった。
「マルス、何があったのか話せるか?」
「・・・エレン様」
マルスはエレンがいることに驚き、そして心配をかけたことを申し訳なく思った。
体は辛いがまだ倒れるわけにはいかない。
「はい。貴族らしい人に監禁されて・・でも、隙を見て逃げてきました・・」
「監禁だと!」
平民を監禁するなんて・・一体何が目的なんだ?
「・・そうか。他に誰かいなかったか?」
「はい、私の他に何人かわかりませんがすすり泣く声が聞こえてました。」
「・・・・場所はわかるか?」
「はい・・紋章を見ましたので」
生き生きとした目で語るマルス。
拉致されても商人魂からか、冷静な判断と行動にエレンは驚き自身でも気が付かないうちに口角を上げたのだった。
そこからは簡単だった。
あいつらが今までやってきたことの証拠を集めるのは。
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マルスが無事戻ったところの表現を少し変更しました。
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