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愚かな兄

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「クソッ!魔法がダメなら・・」


腰にさしてあった剣をニヤニヤしながらゆっくりと抜く。



そして、剣を振りかざし叫びながらこっちに向かってきた。




「これで、貴様も終わりだぁああ――っ!!!」




憎しみを込めた目で自身の勝利を疑わないクズにオレはワクワクしてきた。

これでこいつをこの世から抹殺できると・・。

嬉しくて口元が緩んで仕方がない。








一方、狂気じみた笑いにフランは焦っていた。



「ま、待って!剣でシールドはっ!」



ダグラスの剣ではシールドが敗れることはない。。それを知っているフランは彼を止めようとしたが、その勢いは誰にも止められなかった。


―――カキ―ンっ!!


案の定、ダグラスの剣は大きな音とともに弾かれその勢いで派手に転がった。



「グハぁッ―――っ・な・何だこれは・・?」




ダグラスを心配して近寄ったのはフランだけ。誰もクズの心配をするものはいなかった。

まあ、当然では・・・あるが。



「ダグラス様・・」


目を潤ませてダグラスの手を握りながらカインを睨む。



「ダグラス様に対して何ていうことをっ!」


「フラン・・・心配してくれるのか?」


嬉しそうに笑みを浮かべるダグラスだったが、フランの頬に小さな傷を見つけて顔色が変わる。


「こ、これは・・」

「ダグラス様?」


自分の大事な物を傷つけられて怒り心頭のようだ。



「カインっ!貴様よくもフランの顔に傷をつけたなっ!」



「はあ?・・傷?」



元々、痩せこけてボロボロだったフランの顔に傷?そんなの知らねえし、前からあったんじゃねえのか?



「知らねえよ。変な言いがかりをつけるな・・」



尻もちをついたままなので自然とカインが見下ろす形となり、見下されたような気がしてダグラスは激高した。




「貴様、許せん!死刑だ!衛兵こいつを捕らえろっ!!」




その声を合図に


ドドドドドドドドド―ーーと、足音が近づいて来るのが聞こえてきた。



「アハハハ――――っ!聞こえるか、これで貴様も終わりだ。王太子であるこの私に刃向かい、フランの顔に傷をつけたことを後悔させてやるっ!」



「カイン様・・」

「そんな・・・」

「大丈夫だ。カイン様なら・・」


「兄上っ!」


背後で心配してくれる貴族たちとアレクにオレは大丈夫だからと手を振る。



そして、足音は大きくなり


ドンっ―――!


と、大きな音でドアが開き、中へ入って来たのは衛兵ではなく白い制服に身を包んだ騎士たちだった。


「な、なぜ騎士団が・・」

「これは・・まさか?」



本来ならここに集結するのは衛兵のはず。それが騎士団が来たということはそれなりの身分あるものが来るということだ。

そして、この場でそれができるのは限られた者だけということになる。


騎士団が周りを取り囲み整列して片膝をつき頭を下げる体制を整え、ドアからカインたちの前までキレイな道が出来ていた。



これを何の勘違いしたのかダグラスは立ち上がり嬉しそうに笑う。



「うむ、衛兵ではなく騎士団がくるとは嬉しいぞ。後で褒美をくれてやる。者ども、こやつをひっ捕らえろ!」



得意げに品のない笑い声で命令するが誰も従う者はいない。



「どうした?早くこいつをひっ捕らえて牢屋にぶち込め!」

「・・・・」

「貴様ら何をしている、この私の王太子のの命令だぞっ!!」




地団駄を踏みギャンギャン騒ぐダグラスの背後にその様子をじっと見つめるものがいたがダグラスは気づかない。


せめてこの時気づいていれば状況はかわっていたかもしれないというのに・・・。




哀れな王子、いや男である―――。




















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