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二人の婚約者
しおりを挟む宰相の執務室で二人が顔を合わせたのは久しぶりだった。宰相であるユリアスは国を司り、騎士であるラルクは身を底止て国を守るのが務め。当然忙しく会う機会は少なかった。
「久しぶりですね。ラルク・・」
「ああ、そうだな・・」
勧められてソファーに腰掛けると、視線を落とし決意したかのようにユリアスは口を開いた。
「陛下からルーク様のことは、お聞きになりましたか?」
「ああ、聞いた。まさかあの方が王太子に指名されるとは意外だった」
「私も、お子を授かることができるときいて大変驚きました。」
「それで・・貴殿は婚約の件を受けるのだろう?」
「ええ、もちろんです。お断りする事情は全くありませんから・・あなたも、でしょう?」
「ああ、私も了承した。ルーク様なら願ったり叶ったりだ。あのお方は優しくで気品にあふれ、なにより美しい・・」
「そうなんですよ。ルーク様は幼い頃から私に癒しを与えてくださった方。あなたに恋心があるのではと指摘されるまで気が付きませんでしたが、こうやって婚約者に指名されたこと大変嬉しく思います」
とろけるような笑みを浮かべるユリアスにラルクは若干引いた。
前から、ルーク様を崇拝するような素振りはあったが、まさかここまでとは思わなかった。さっき面会を申し渡した者が泣きそうな顔で出ていったのはおそらくこれが原因なんだろう。
冷徹の宰相と言われている彼からは想像もつかないほどのデレっぷりだ。
「ラルク、どうしました?」
首を傾げているユリアスに顔が引きつる。
「いや、その・・貴殿がルーク様をそのように慕っていたとは・・」
ユリアスはそう言われて自分が浮かれていたと気づいて顔を真赤にした。
私としたことが、何たる羞恥!
恥ずかしくて下を向いていると、気を使ってくれているのかラルクも胸の内を話し始めた。
「ユリアス殿・・その、わ、私もルーク様の婚約者に指名されて実はすごく嬉しいと思っている・・」
「ほ、本当ですか?」
ぱっと顔を上げてラルクを見れば彼の顔が少し赤いような気がする。
「ああ、学園で護衛についていたせいか頭の中は常にルーク様でいっぱいだ」
さっきまでユリアスの態度に引いていたラルクだが、人のこと言えない.
ルークの学園生活を全てとはいかないが、行動を共にしていたラルクにとってやはり心の癒しだった。
時には食事も共にし市井にお忍びで出かけたときは子供のように目をキラキラさせてはしゃいでいた。そのくるくる変わる表情は胸にグッとくるものがあった。
特に風邪をひいて寝込まれた時、急を要する仕事で出かけようとしたとき服の裾をギュッと掴まれて、あの時のルーク様の目を潤ませたお顔は今でも忘れられない。
「フフフ・・」
思い出して情けない笑みを浮かべるラルクにユリアスは乾いた笑いを浮かべたのだった。
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