白猫のいない日常

雨足怜

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青に焦がれて

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 ――いつからか、青空を見上げると不思議な寂寥が心を焦がすようになった。



 その感情は、時に狂いそうになるほどに心を急き立てた。
 早く動けと、そう叫んでいた。

 トクトクと心臓が脈を打ち、駆け出したいような、叫びだしたいような、そんな気持ちにさせられる。

 そうして私を突き動かそうとする何かは、けれど朧げで、輪郭さえ定かじゃない。
 夢の中に見た誰か、あるいは蜃気楼のようにふっと立ち消える幻影。

 どれだけ記憶を探っても、その感情の理由が思い浮かぶことはない。答えは指から滑りぬけ、虚空へと溶けて消えていく。
 なんの、手掛かりもなしに。


 そうして私はずっと、その感情が求める何かを、見いだせずにいた。




 ただ、分かるのは。

 自分はいつだって、広がる空の青さに、心を震わせているということだった。

 だから今日も、私は空を見上げながら何かを求める。

 こいねがう。
 恋願こいねがう。

 その先に何があるのか、何一つわからないままに。
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