混血の守護神

篠崎流

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流転

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円の意識が戻ったのはどのくらい後だろう。自分の顔に確かに水滴が落ちて目が覚めた、覚まされたというのだろうか

「う‥」と僅かに発して瞼を開いた

そこに「治愈!治愈!」と声を挙げて円に手をかざして治癒術を施し泣いているヤオの姿が目に入った

「ヤオ?‥」
「円!戻ったか!?」
「逃げられた‥の?」
「咄嗟に転移した!!生きてるか!?」
「じゃなきゃ喋れてない‥」

だが、痛みがかなりある、動こうとして「ぐ‥!」と思わず出た

「喋るな!傷が深い!」

云われて従って黙った。特に胸が強烈に痛い、呼吸はマシになったが、治ってはいないらしい、周囲は暗く岩場、或いはちょっとした洞穴の様な場所

視界の外を探すと夜空も見える、同じ夜なら多分時間もそれ程経ってないのだろう。その為、小さく寝たまま呼吸をして、自らも内気功を巡らせる

ヤオもそのまま両手を円の胸にかざして治癒を続けていた。一時間か二時間か。円がまともに意識を取り戻し、喋る、呼吸も正常に戻ったのは

だが仰向けのまま円は動かなかった、ヤオは力尽きるまで治癒を掛け続け円の体の上に倒れて寝息を立てていたからだ。円もヤオを抱き寄せて頭を撫でて小さく謝った

「ごめん、私が不甲斐ないばっかりに」と

二人が目覚めたのは朝、だろう日の光が洞穴に射して自然と目が覚めた、同時に「おはよう」と互いに言って

改めて自身らの姿を見てこれはいかんと思って身だしなみを整えた、円は血だらけ服もズタボロ、ヤオは泣き過ぎて顔がボロボロだった

そしてお互いまた謝った

「ごめん‥私のせいで‥」
「すまぬウチも油断した‥」と

近隣の山川から水を汲んでとりあえず悲惨な状況を一通り整えて、状況を確認した

「ここは?」
「中国の北方、小さな名も無い集落の外れじゃ」
「転移と言っていたが、倭国からここまで飛んだのか」
「そう、残念ながらウチの瞬間転移は特定の場所、此処か、天のどっちかにしか飛べぬ」

辺りを見回して確認したが、洞穴というより、社に近い、横穴なのだが、供え物や木造の祭壇の様なものもある

「ここって‥」
「ウチが神になった場所、人的に云う生家に当る」
「ほんとに地神だったんだ‥」
「まあの、力の弱い神の理由もわかったろ」
「あんまり豪華という感じの社ではないわね」
「そういうこっちゃ、まだ信仰されているだけマシだが」

「それと「成った」というからには」
「左様、元々は人、お主と状況は左程変わらん、本名は「姚駿」という」
「そーだったんだ‥要するに先輩??」
「ちと違うが、まあ、大まかに言えばそうなるので、そう言っても問題ない」
「それにしても、妲己か、まだ生きていたとはね」
「ああ、名を聞いた時点でもっと注意すべきだった、お主なら相手が誰でも負けぬと勝手に思ってしまった、すまぬ」

「いえ、それは私もよ、考えてみれば多く人を化かして魅了したあの妲己だもの、当然ああいう直接戦闘でない、術も多くあると察するべきだった。それにタスキ殿を置くべきでもなかった、完全に私の油断、甘く見た、色々と」
「‥ま、それは追々として、今後だな」
「ええ、けど、逃れられたのはついてた、やり口は分ったし、操るのはそれ程問題にならない」

「やっかいな敵が増えたには違いないが、うちらには操りは利かんだろう、問題は両方出て来た場合だな」
「そうね‥」
「ウチじゃ戦力としては物の数には入らんし」
「封術は?」
「人間とか、明確に肉体のある奴には利かん」
「そっか、何時も「追い出してから」だもんね」
「そうじゃな」

と、ここで一旦切り替えて立った

「とりあえず、それも追々で、服を変えないと」
「麓に集落がある、そっちへ行こう、なんか食いたい」
「正直今は私もだわ‥めちゃくちゃ疲れた」

そうして二人は近隣の集落に入る。そこで商家、飯屋に入ってズタボロの衣装を取り替え食事も取る。随分食ってない気がする程久々に感じた、あまりにも濃い一日だったと云える

「倭国の方から飛んで来ちゃった訳だけど、あっちはどうなったのかしら?」
「別にどうもなっておらんじゃろ、そもそも今回の一件は干渉だが分岐ではない、目的も円であって王朝とは無関係じゃ」
「そうねぇ」

「ただ、向こうからこっちには飛んで来れるが逆は出来ぬから戻って確認、という訳にはいかぬな、また実移動、旅なり飛行することになる」
「そうか、なら、とりあえず区切るしかないね」
「うむ」
「で、やはり妲己の事だけど、不可解な部分が多いわ」
「お主、戦いの前に交渉、とも取れる事はしとったの」

「ええ、取引した、とも言った。彼女が書の通りであれば単純な悪で敵とするのは早計だと思う」
「確かにそうだな」

そう述べた通り妲己は皇帝の寵愛を受け。贅沢の限りを尽くし国を傾かせたという部分もある。悪女、妖女の代名詞ともあるが

一方で相手の気を引く為に中国で初の化粧を考案して、実際作って、行った人物でもあり、いわゆる、他者に異存する、この場合男性や愛しい人の心を繋ぐ為に何でもするという、可愛い女、の側面、評価もある、多くの書の中ではそう評されたりもする事もある

「意図、理由も確かに不明じゃな、どういう取引したのかも分らん、それに妲己は確かに、書の通りならどっちにも転がる。つまり中立な部分もある」
「ええ、やり方次第では、戦わず済む可能性もある、というか、正直苦手だわ‥」
「そうじゃな、ジャンの方がストレートで分り易い、目的が根本的にはお主に近いし‥」

「お役目も大事だし上には従う、けど根本的には自身の磨いた技を戦える相手に試す、という傾向がある」
「そじゃな、まあ、妲己に関して云えば、交渉の余地、あるいは単体で対峙するかだろうな、どんなかく乱戦法を使うか分らんし」
「今後はなるべく油断せず、お互いのみの場で会うという条件が望ましいかな」
「うむ」

「で、被弾で分った事もある、正直、不死に近いと考えていたのだけれど、思ったより治りは遅いわ、それと肉体その物は生身の人間と変わらない、あっさり剣を突き立てられて、簡単に内臓を破壊されて行動不能に成った」
「うむ、これも実際、継がれた時点でその強さとか回復の早さとかも差異があるのでウチもわからんかった」
「ええ、治癒術がヤオにも私にもあるし、実際どの程度か分らなかったので対策しようがなかった、とも云えるけど」
「そうじゃな」

「けど、だからと言って鎧を着れば良いともやり難い、理由は前にも云ったけど」
「うむ、仙術、体術の寧ろ邪魔になる部分、じゃな?」
「ええ、ちょっとのケガなら内気功で早めて直すけど、致命的被弾はやはり不味い、そのまま追撃されるとどうにもならない」
「ではどうする?」
「最初の薬、の類はどうにかならない?」
「うーん、だが、お主の薬の実験体の時もそうだが即効性は無いなぁ‥多く用意するのも難しい‥」
「となると後は防御用の前に云った法具とか?」
「其の手のもんは借りれるかどうか、それに、円の硬気功とあんまり変わらん、常時お主を保護するようなもんは無いと思う、一応上に戻って調べてみるが‥」

「ではやはり、気を許すな、という事になるか」
「そうじゃな、だが、其の点はそれ程心配はないと思う、分っていれば、不意打ちはもう食らわないじゃろう」
「そうね、完全に油断、意外性だったとも云えるし2度同じ手に掛かる事もないわ、その要素を潰して挑めばいいし、それから、これら条件もあるし、基本的に戦い方が変わる、というのも無いと思う」
「蝶の様に舞い~のまま、か、確かにそれが一番の特徴とか得意とかだしの」

「弱点を補って長所も損なったでは話しならないし‥」
「それはあるの」
「で~分岐の方は?」
「んー‥特に無い、こないだの様な干渉も見当たらない、多分一年の範囲では無いな」
「そっか、考えるなり準備する時間はある、て事ね」

こうして二人はそのまま集落、村に留まった。何しろ名も無いほぼ知られて居ない場所であるし、今、戦いというのも不安があったのも事実で、寧ろ、目立って動かない時間も必要だと思った所である

円は直接どうこうは口に出して云わなかったがヤオは察して、分身を使い、倭国その後を追調査して、その後を語った

壱の誘拐事件は当人が無事であり、そのまま政権は続く事と成る。犯人も対峙した円も先に関わった兵らの証言で、後戻らず、消えたとされ、特に同じ様な事件も無く、何時しか忘れ去られた

当事者の一人でもある、須岐も憶えて居るのは円と妲己の対峙までで前後の記憶が無かった

彼自身色々調査を行ったが得る物は無く、日常に戻らざるえなかった、調べると云ってもそれに関わった要素は既にどこにも無く何も残らなかったのだから、当然であろう

唯一、得た武を後身に指導して任務に精励し乱れらしい乱れも、自身にも政権にも無く流れていく事と成った

これもヤオの予想予知の通りで「干渉はあるが、歴史を変える要素ではない」そのままだった

二ヶ月後にはヤオも円も一旦離れ
其々また旅立つ

「一旦、上に戻って調べる」
「ええ、私の方もまたアチコチ回ってみるわ」
「だが、気をつけろ」
「分ってる、それ程頑丈でもないもの分ったし大事にするわ」
「まあ、干渉の類は見えぬし当分問題ないだろうが‥」
「そうね、色々予防は考えてはいるし、少しづつやっていくわ」
「うむ、ではな」と

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